最初のミッション
アウラはそのまま自分の部屋に下がってしまった。
イリスさんはまた次々いろいろなものを運んできた。今度は果物だろうか。
「あの、なにか手伝いましょうか?」
「いえ、今日はあなたの歓迎会ですから。ところで、アウラは?」
「ちょっと用事があるみたいですよ」
「困ったわね。本当はあの子が手伝ってくれなきゃいけないのに」
あのアウラのへこみ具合を見ていたら、手伝え、などとは言えない。
「自分、やりますよ。なんなりと言って下さい」
三年間の大学ひとり暮らしで身に付けた自炊能力は伊達じゃない。パスタはもちろん、レトルトでないカレーも作れるし、ちょっと料理月のおれはハンバーグだって作れてしまうのだ。そんなものはすこしもチートに入らないだろうか。
「じゃ、竈に火をおこしてもらえるかしら?」
……え?
おれの自炊能力の中に竈の火をおこすは備わっていなかった。グーグルで調べようにももちろん圏外だ。
しかし、火をつければいいだけだろう。原始人だって火をおこせたのだ。おれにできないわけがない。
とりあえず竈の前に屈んでみると、灰がこんもりとたまっている。そして、ほのかな暖かさを感じる。この中に熾が残っているのではなかろうか。おれは大きく息を吸い込み、灰にふーっと息を吹きかけた。
やっちまった。灰が舞った。そして、頭が灰だらけになった。
「……あの、大丈夫ですか……?」
イリスさんは心配すると言うよりも呆れていた。
しかし、おれの予想通り、竈の奥に赤く燃える熾があった。これに薪をくべれば火はおこせるはずだ。
「あ、すみません。大丈夫です」
イリスさんは固く絞ったタオルを持ってきてくれた。
顔と頭を拭いてみると、やはり灰だらけだった。
一通り拭ってタオルを返すと、
「ちょっと後ろを向いてもらっていいですか?」
おれが後ろを向くと、イリスさんはうなじの辺りや、耳の後ろなどを拭いてくれた。なんか恥ずかしいが、人の温かさを感じずにはおれない。
あと三日か。なんとなく残念なような気がしてきた。