契約解除
アウラは萎れるようにして椅子に座った。よくない知らせが来たことは間違いない。
おれはどうしたらいいのか分からない。こんなとき、イリスさんはどこに行ってしまったんだろうか。
「イリスさん、どこ行ったのかな」
「そうだ。わたしはこんなふうにしてちゃダメなんだよ」
アウラは、バシバシ、と気合いを入れるように自分の頬を叩いた。そして、大きく息を吸い込むと、再び、眦を高くする。
「ヒサヤ。さっきの使いが来たのはお母さんには内緒。っていうか、もう帰っていいよ」
帰っていい? もとの世界へ帰っていいということだろうか。というか、帰れるのだろうか。いや、帰りたくないことはないとして、こんなにあっさり元の世界に帰ったら、なんのためにおれはこの世界に来て、この美少女と出会ったのだろうか。
「ちょ、まってよ。そりゃなんていうか、おれにも、一応、その、プライドっていうか」
「だって、ヒサヤ全然役に立ちそうにないし」
そう言われてしまうとなにも言い返せないが。
「まて。おれでもなにか役に立てることがあるかも知れない」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないんだよね」
アウラは先ほどおれがサインした紙を持ってきた。
「これは、わたしとあなたの契約。この契約を反故にするには、わたしとあなたが一緒にこの紙を破らないといけない。この紙を破き契約を解けば、あなたは三日後に元いた世界に戻ることができる」
え、三日もかかるの。三日もいれば十分だ。三泊四日でスイスに来たと思えばいい。というか、泊まるための簡単な書類とか騙されたわけだ。もしおれがすごい力を持っていたら、この契約のことも知らせずに、ずっとこっちの世界に居させられたわけか。恐ろしい女め。
そうと分かれば、さっさと帰ろう。といってもあと三日はここで暮らさなければならない。美少女と美熟女にも会えた。目の保養もばっちりだ。
おれはアウラ持った紙を一緒に握って縦に裂いた。
紙はファンタスティックな青い光を一瞬だけ発して、そして消えた。




