表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/27

スイスに旅行に来たと思えばいいかもしれない



 頭を金属バットで殴られたような衝撃があった。


 目を覚ますと、スイスの山小屋のような家が目の前にあった。辺りは木々が生い茂り、その隙間からのぞく空は突き抜ける青さが広がっている。


 少し歩くと丘に出た。眼下には鏡のごとき湖が広がっていた。


 ああ。おれもこっちの世界に来ることになったのか。


 しみじみ思った。後頭部をさすってみたが、こぶ等はない。痛みももはや記憶だけで、現実には残っていない。


 十年ほど前から、主に若い男性が行方不明になるという事件が起こるようになった。忽然と姿を消すのだ。怪現象としてネットやテレビを賑わせたが、たまに、行方不明になったものが見つかった。そのものたちは異世界を旅していたという。


 最近は行方不明になる人数も指数関数的に増えて、おれのいた大学でも十人にひとりくらいの割合で消えていた。


 だから、学食で飯を食っているとき、頭にあの衝撃を感じて、スイスの山小屋みたいのが目の前にあって、おれはすぐに気がついた。おれもこっちへ来てしまったのだと。


 さて。これからどうするか。おれは草の上に腰掛けた。青草の匂い。日の暖かさ。向こうには白雪のかかった山々が連なっている。目の前の景色は絶景と言えば絶景だ。スイスに旅行に行く手間が省けた。暗黒世界じゃなくてラッキーと言えばラッキー。暗黒世界から生還した奴は完全に精神を壊していたからな。


 どのくらい景色を眺めていただろう。時計に目を落とすと、まだ昼休みの時間は終わっていない。時計は、動いている。ソーラー時計だから太陽みたいなのが照っている限り動くかな。携帯は圏外だ。これは電池がなくなったらお仕舞いだろう。


 おれはさっきの山小屋に戻った。山小屋と言っても日本の一軒家よりは大きいか。石造りの立派な物だ。扉も分厚い一枚板が使われている。


 人の気配がする。おれは扉をノックした。


 はーい、という若い女の声。これはアタリかな。おれはちょっと髪型を気にしてみた。


 バタバタと近づいてきて扉が開いた。


 アタリなんてもんじゃなかった。長いブロンドの髪。美しい上に可愛い。その辺のクラビアアイドルの可愛さと、ハイブランドのモデルの美しさを足して二で割った感じで、なるほど、帰ってこない奴らが多いのも納得だ。


 おれが身の上を説明する前に、女は、「うそっ!」と目を見開き、おれの腕を取って家の中に引き入れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ