表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

入園式前の写真撮影

 桜の花びらが舞い、少女の小さな体を隠す。

 少女は驚いて目を閉じる。

 それから、風が凪いで、ゆっくりと目を開ければ俺と目が合う。


「……。」

「……。」


 しばらくの沈黙。

 最初に動いたのは俺だった。

 キュッと口を閉じて笑わない彼女に、俺は小さく微笑んで視線を逸らした。


 少しでも大人になれただろうか?

 大人になると誓ってからまだ一日。

 すぐには変われないかもしれないが、今日はちゃんと大人しくできている。


「おーい。二人とも写真とるぞー。」


 親父が兄妹を呼ぶ。


「了解。」

「……。(コク)」


 横目で妹も頷き、歩いてくるのが見えた。


「どこで撮るの?」

「んー。あの大きな桜の木の下にしよう。」


 親父が俺と妹を並べる。

 俺と妹の間には一人分の隙間があった。


「もっと、近付けー。」


 親父がそう言う。

 けど、俺は動かない。

 この人、一人分ぐらいの隙間がちょうど良いと思うからだ。


 だが、俺の腕は誰かに引っ張られた。


 ーグイッ!


「え…。」

「…もっと…近付いて…。」


 彼女は俺の腕に肌を密着させる。


「お、やっと近付いたか。じゃあ、撮るぞ。はい、チーズ!」


 ーパシャッ!


「もう一枚撮るぞー。というか、二人とも表情固いぞー。」


 そんなことを言われても、昨日近づかないって決意したのにこんな状況になるなんて…。


 ーギュッ!


「いたっ!?」

「…はい…チーズ…。」


 ーパシャッ!


「ハッハッハ!勇樹面白い顔になってるぞ!優菜ナイス!」


 親父が妹に親指を立てる。

 妹も無表情に控えめに親指を立てた。


(なにこれ。)


 状況に全くついていけず俺は棒立ちになる。

 というか、俺はいつまで優菜と密着してれば良いのだろうか?


 ードンッ!


 突然、俺は突き飛ばされる。


「……。」


 倒れた俺は呆然としたまま優菜を見上げる。


 その時だった。


「……ふふ。」

「っ!?」


 目を見開く。


 こんな風に微笑む彼女を俺は初めて見た。

 それこそ天使のように柔らかい笑みで、慈愛に満ちていた。


 けど、それも一瞬のことだった。


「……ふん。」


 元の無表情クールシスターになる。

 そして、彼女は母の元へ。


「あらあら、ご機嫌ね。」

「うん…。」

「けど、突き飛ばすことはないんじゃないの?」

「うん。でも…その…。」

「まぁ、言いたいことは分かるわ。でもねぇ…。ほら、昨日からお兄ちゃん勘違いしてるし…。」

「うん。私の兄は…アホ…。」

「あんまり言っちゃダメよー、ほら。」

「あ…。」


 突き飛ばす理由?

 それは前世の素性不明な男にくっつかれたら気持ち悪いからだ。

 くっついてきたのは妹からだが、それは親父への気遣いだろうし、撮り終われば俺から早く離れれば良かった。

 怖かっただろうに…。


「やっぱり…アホ…。」

「優菜は苦労するわねー。頑張ってね。」

「うん…。頑張る…。」

「ふふ。さて、パパー、お兄ちゃーん、入園式行くよー。」


 一人盛り下がる俺と一人盛り上がってる親父、呼ばれて俺らは女二人の後ろをついていく、


(しっかし、幼稚園か…。)


 人生二度目の幼稚園に俺は少しの楽しみと大きな不安を抱えながら、歩みを進めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ