でばんはいまから
「リンゴが美味いのだー! ふわわ、でも眠いのだ」
「しー! シグ、声が大きい! そして我慢だ、今から出番だぞシグ」
街外れ。
茂みの中に潜む俺たち。
目の前にはいかにもな怪しげな男たちが荷物を片手に集まって来ている。
「あ、ごめんなさいなのだ。うん、吾はもうちょっと起きてる」
「それと、そろそろ食うのを止めろ。連中、情報どおりに集まりだした」
「そうね。アレフ。準備は良い?」
「大丈夫だジュリア。ファラエルさんも準備は良いですか?」
「もちろんよアレフ君。ああ、今夜も私の氷の魔術が活躍するかと思うと、今からドキドキでいっぱいよ」
「では、俺が囮になって奴らを引き付けますんで、ファラエルさんは魔術で一網打尽にしてください。シグとジュリアは魔術の効果範囲かは外れた奴を片っ端から殴ってくれ」
「わかったわアレフ」
「任せるのだ!」
「では、行きます」
◇
俺は音を殺して連中に近づくと、ふらりと前に現れる。
「あのー。ちょっとお伺いしたいのですが……」
と、俺。
「誰だお前は!」
「怪しいやつめ!」
「なんだ、酔っ払いか!?」
「いや、こいつ剣を下げている……」
「こいつ一人か!?」
見ての通り、連中の視線は俺に釘付けだ。
逃げる様子すらない。
俺は連中の手元に眼をやる。
白い粉。
情報どおりならば──これは例のブツの取引だ!
「ファラエルさん!」
俺は叫ぶ。
「唸れ氷の大魔術! アイスフリーズ!!」
みるみる凍りつく奴らの足元。
「取引は中止だ!」
「逃げろ! 恐らく囲まれてるぞ!」
「畜生、どこから情報が漏れた!?」
「シグ! ジュリア! あとは任せた!!」
「なのだー!」
「わかってる!」
シグとジュリアの声が飛ぶ。
同時に上がるのは逃亡者の悲鳴。
俺も剣を抜き、魔術の手から逃れた逃亡者の方に足を向ける──!
◇
衛兵詰め所の個室。
白い壁が……失礼、タバコのヤニに黄色くなった壁が俺たちを向かえる。
ドサ、チャリンジャラジャラ。
「よくやってくれたアレフ君」
テーブルに腕組みしつつ、衛視長は約束の報酬を投げて寄越す。
「いやぁ、この街にまさかあの<<竜殺し>>のアレフが来ているとはね。優秀な冒険者が雇えて助かったよ。実は奴ら<<蛇の団>>にはずいぶんと手を焼いていたんだ」
「いや、俺たちに声を掛けてくれてありがたかったです。こうして報酬もいただけまいたし」
「本当に助かったのは俺たちのほうだ。なにせ麻薬取引の情報を掴んで動こうにも何せ衛視の数は足りないし、何より衛視の全てが信用できるわけでもない」
「そうなんですか?」
「ああ。それほど奴ら<<蛇の団>>は抜け目ない。この街の支配層に食い込んでいる、と言い換えてもいいかも知れないね」
「そうですか、大変ですね」
「まぁな。ま、とにかく今回は助かった。礼を言わせて貰うよ」
「こちらこそ。感謝します衛視長さん」
俺達が部屋を出て行こうとすると……。
「ああそうそう。これは個人的な忠告なんだが……」
「何です?」
「奴ら、<<蛇の団>>の残党には注意したほうが良い。君達を逆恨みしているかもしれないからな!」
「なに、そんな奴ら心配は要らぬ! なにせこのアレフは竜人族の皇女たる吾シグルデの騎士! しかも竜殺しの凄腕! <<蛇の団>>の残党など片手でひねり潰してくれる! なぁアレフ?」
「え? 残党来るの?」
「なに動揺してるのよアレフ君」
「あー、やっぱりぃ……この仕事やばい仕事だったんですよぅ」
「ちょっと、ジュリアちゃんまで弱気にならないで!」
「ともかく!」
シグが爪先立ちでテーブルをバン! と掌で打つ。
「ややこしい事はアレフに任せておけば間違いは無い! 吾が騎士アレフを信じるのだ! はっはっは!」
「……幸運を祈るよ、そしてこれからも何かあれば手伝って欲しい」
「ええ、機会があれば」
と、俺たちは衛視長さんの部屋を後にしたのだ。
◇
「<<竜殺し>>のアレフ覚悟!!」
「てい!」
ずんばらりん。
「アレフ! 親分の仇!」
「えやぁ!」
ざくぅ!
「居やがったな<<竜殺し>>! ここはこの俺が……」
「えい!」
どぶしゅ!
「覚悟せぇやアレフぅ!!」
「だぁああ! 毎日毎日!!」
グサグサ!!
……。
と。返り討ちにしては半殺しにし、衛兵に突き出すこんな日が続いた。
◇
「ねぇアレフ君。衛視長さんの言ったように、確かに<<蛇の団>>の残党が毎日襲ってくるわね」
「俺、相手にするのいい加減疲れたんだけど」
「私も。おちおち一人で出歩けもしない」
「あたしも飽きたわ。シグちゃんはなんとも無いの?」
「あいつらリンゴをくれないから嫌いだ」
いや、あの……そういう話か?
なぁシグ?
「ねぇアレフ君。これは提案なのだけど……いい加減、あの<<蛇の団>>とか言う連中のアジトを叩かない? あたし、頭に来ちゃった」




