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どらごんのうわさ

「うんまうま。なーアレフ。この街のリンゴは蜜が甘くて美味しいのだー!」

「うんうん、良かったなシグ」

「なのだー!」


 シグもこの街が気に入ってくれたようだ。

 草原の交易都市。


「なぁシグ。街に出てみないか?」

「買い物か!? リンゴか!?」

「いや、リンゴだけじゃないんだけどね?」

「ほら、せっかく新しい街に来たし、色々と見て回ろうよ?」

「そうだな! 美味しいリンゴが見つかるかも知れん!」

「はいはい。リンゴな、リンゴ」

「なのだー!」


 ◇


 まず目に付くのは人の多さだ。

 それに荷車を引く馬や駱駝。

 牛や羊も行きかっている。


「なぁシグ。この服なんてどうだ?」

「服?」


 ふりふりのレースのついた服をシグの目の前に見せてやる。

 赤いその服は、まるでリンゴその色だった。

 王都で買ってやれなかった服。

 今はドラゴンスケイルを着ているけれど、普段着としてここは可愛い奴を……。


「おおおおお? アレフ、買ってくれるのか? (われ)に服を買ってくれるのか?」

「まぁね。普段着にどう?」

「おおおおお! これが吾のためにアレフが選んでくれた服……リンゴと同じ赤い色……はっ! リンゴ! リンゴが良いのだ!!」

 おおう、色気より食い気……。


「おじさん。ドラゴンの噂なんて聞かない?」

「ドラゴン? ドラゴンってあの大きなモンスターのことかい?」

「そうそう」

「ずいぶん前に見たなぁ。空を飛んでいたけど」

「え? そいつがどこに行ったか知らない?」

「ちょっとわからないな。で、その服、買うかい? お嬢ちゃんに」

「ええ。ください」

「あいよ、ありがとう」

「アレフ! 本当に買ってくれるのか!?」

「うん、シグに似合うと思って」

「ありがとうなのだ!」


 シグの顔が、嬉しそうにパアッと輝いた。


 様々な商店、露店。

 色々な商品、色鮮やかな品物。

 それがたくさん並んでいる。


「なぁなぁアレフ、ジュリアはどうしたのだ?」

「ジュリアはこの街のライア教会に挨拶に行っているよ」

「ファラエルは?」

「魔術学院を冷やかしに。『氷の魔術は最強!』って言ってた」

「そうか! ならば今日は吾とアレフの二人だな!」

「まぁね」

「で……お、おおー! あそこだ! あそこでリンゴを売っているぞ!」


 ◇


 ドラゴン。

 シグの種族、竜人族に至る手掛かり。

 ジュリアは教会の伝手(つて)を使ってドラゴンの資料を求めに。

 ファラエルさんは魔術学院に竜人族について調べに。

 みんな、シグのためを思って動いている。


 この世界に一人残されたかもしれないシグ。

 竜人族を崇める変な教団に世話になっていたシグ。

 んーと。俺もシグのために何かしてあげたい。


「リンゴがウマウマだー! ほれアレフ! お前も食ってみろ! 凄く美味いぞ?」

「こらこらシグ、お金は払ったんだろうな?」

「払った。一個二カパーだった。うんまうま」

「リンゴ美味いな! 人間!」

「おやおや。気に入ってくれたんだね。そう美味しそうに食べてもらえるとこっちまで嬉しくなるよ」

「当然だ! ここのリンゴは最高だ!」

「おやまぁ。この子は。本当に上手だねぇ」

「ええい、子ども扱いするでない! 吾は竜人族の皇女シグルデ! 立派なレディなのだからな!」

「おやおや、竜人族。そうかいそうかい」

「竜人族!? おばさん! おばさんは竜人族について何か知っているの!?」

「知らないのかい? ああ、見れば旅人さんだね。竜人族はこの辺りに伝わる昔話さ」

「昔話?」

「そうさね。昔々、人々を襲う恐ろしい化け物がいたんだ。そんなとき、街を一人の旅人が訪れた。街の人々が化け物に苦しむ姿を見かねた旅人は竜に変身して化け物を退治してくれた。街の人々はみんな喜んでめでたしめでたし、ってね!」

「へぇ……その竜人族の人って、どこから来たのかな?」

「さぁねぇ。物凄く昔の話しらいいよ?」

「昔か」


 昔。どのくらい昔なのだろう。


「名前ってわかるかな?」

「名前? 名前も知らないねぇ。でも、かなり有名な話だから、この位の子が竜人族に憧れるのも無理は無いね! ほら、お嬢ちゃん、リンゴ一つオマケだよ!」

「あ! リンゴ!! ありがとうなのだー!」


 英雄譚の主人公が名前も忘れられるような遥かな昔。

 竜人族が生き生きとこの世界を歩いていた時代。

 シグを見た。

 リンゴをうまうまと齧っている。

 シグお前……本当にどこから来たんだ?


「アレフアレフ! 今の話を聞いたであろう! 竜人族は偉いのだ! 平和の使者なのだ!」

「そうだね」

「その竜人族の姫、この吾の騎士たるアレフ! お前も凄いのだぞ? なにせ吾に選ばれたのだからな! これからも宜しくな、なぁアレフ?」

「うんシグ。よろしくな?」


 俺は自然とシグの頭を撫でていた。

 髪もグッチャグチャになるほどに。


「こら、アレフ! 止めるのだ! 吾はお子ちゃまでは無い!!」

「本物のレディは大声で叫んだりしないよ?」

「~~~! アレフ! お前は吾の騎士! 偉大なる竜人族の皇女シグルデの騎士であることを忘れるな!!」

「はいはい」


 軽く流す。でも、シグ、俺はお前についている。寂しくなんかないからな? 

 そして俺が、お前を守る。


「~~~!」


 そんなシグはむくれ顔。リンゴのように頬は赤かった。

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