こうえきとし
「うんまうんま。寝起きのリンゴは実に美味いのだ」
「そう?」
「それにこの雨上がりの風。草の匂い。気持ち良いのだー!」
草地を走る馬車。
道はどこまでも先に続いている。
「交易都市……」
「え?」
「この先にね、交易都市があるのよ。この辺りの草原地方の中心ね」
「荒地を抜けて、モンスターともばったり出会わなくなりましたね」
「それは油断のし過ぎよアレフ君。草原には草原のモンスターがいるわ」
「ぷよみたいな弱いモンスターでしょう? この辺りは俺たちより弱いモンスターしかいないから馬車が襲われないんじゃないんですか?」
「そうとも限らないわよ? 草原のモンスター……バカにいていると、怪我をするわよ?」
「えー? でも俺<<剣士>> 習熟度SSだし」
「うーん、体験してみないとわからないか。ねぇアレフ君。考えてみて?」
「考える?」
「そう。あたしたちはドラゴンを追っているのよ?」
「そうですけど……」
「もしドラゴンが何も隠れるところの無いこんな草原で、空の上から炎の息を吹きかけて来たらどうするの?」
「あ……」
「逃げる? 戦う?」
「もちろん戦います! 俺は<<竜殺し>>のスキルで頑張るんです!」
「戦うにしても、相手は剣の届かない空の上よ?」
「あ……」
「ブルードラゴンのときは運が良かったと考えるべきでしょうね」
「ですかね?」
「ええ。相手がアレフ君を完全に舐め切っていたのかも知れない」
◇
やがて、街の周囲を覆う城壁が見えてくる。
そして、行き交う人の群れも。
「ほら、人や馬車の出入りが見えるでしょう」
「ホントだ! 凄く大きな街……」
「ええ。ここが草原の交易都市よ!」
「おおー! 人間だらけなのだ! 違う味のリンゴがまた手に入るのか!? 美味いのか!?」
「異教徒が一杯! 真実の教え、ライア様の教えを頑張って広めないと!!」
「アレフ君とシグちゃんはまぁ良いけれど、ジュリアちゃんは人を選んで布教して頂戴ね? お尋ね者は嫌よ?」
「も、もちろんですよ! やだなぁ、ファラエルさん!」
「しばらくはこの街で活動しましょう? シグちゃんの事。何かわかると良いわね?」
「ですね、ファラエルさん」
「アレフ、頑張って見つけてあげましょうね?」
「ドラゴンの手掛かりか。どこでわかるのかな?」
「ゆっくり探しましょう、アレフ君」
「そうよ。何も慌てる事は無いわ。頑張りましょう、アレフ」
「そうだな、俺も頑張るよ」
会話は弾む。
だけどついて来れないお子ちゃまが一人。
「んー? アレフにジュリア。何を頑張るのだ?」
金色のツインテールが揺れる。
シグが可愛く小首を傾げた。
◇
冒険者ギルド。
俺たちはその扉を潜る。
「おい、あれって……」
「ああ、間違いない。<<竜殺し>>のアレフじゃないか?」
「王都で闘技場のチャンピオンを倒したって言う?」
「あの若さでかよ! まだガキじゃねぇか」
「女三人も侍らせて……まぁ、一人は子どもだけどよ?」
ツカツカツカ!
ピクリと耳を動かし、その男に歩み寄るシグ!
「お子ちゃま言うな! 吾は竜人族の皇女シグルデ! もう立派な大人だ! 一人前のレディなのだ!」
「あーお嬢ちゃん? ここは子どもが来るところじゃないんだ。さっさとお家に帰りな」
「吾は冒険者! この立派な鎧が見えないのか!!」
と、自慢のドラゴンスケイルを見せびらかす。
「あー可愛い可愛い。お嬢ちゃん、似合ってるけど冒険は子どもの遊びじゃないんだ」
「なにおぅ!? 吾は強いんだぞ!? 吾の仲間もだ! 特に吾の騎士、ア──」
「シグ、止めるんだ」
「アレフ……」
「あんた、やっぱりアレフなのか? あの<<竜殺し>>の?」
「ああ」
「こいつは……たまげた」
「だけどよ、そんな凄い奴がこんなガキ連れ歩くか? 騙り何じゃないのか? おい坊主!」
「試してもいいですよ?」
と、言うが早いか鞘付きの剣先が男の喉を一瞬で捕らえる。
俺が目も止まらぬ早業で喉元に突きつけたんだ。
「ちょ……ちょっと待て」
「このガキ……いつ動いた?」
「お前。見えたか?」
「いや、一瞬の事で俺には何がなんだか……」
「俺はアレフ。そしてこいつは俺の大事な仲間の一人、盗賊のシグ」
「お、おう……」
「仲良くしてやって欲しい。俺たちはしばらくこの街で世話になるつもりだから」
◇
「あれが<<竜殺し>>のアレフ……」
「噂以上の剣の使い手だったな」
「仲間も強いのか?」
「どうだろうな。でもあのアレフの仲間なんだ。一癖もふた癖もあるに違いない」
「そうだな」
「ああ」




