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おこちゃま

「鎧、鎧、ドラゴンメイル!」


 シグがニッコニコしてリンゴを齧っている。

 おっちゃんから鎧を作ってもらったのがよほど嬉しかったらしい。

 シグの体は鎧なんて必要ないぐらい防御力が高いのだけれど……ああ、可愛い服の一枚ぐらい王都で買ってやれば良かったな。

 そうか、そういうお年頃なんだ、シグは。

 女の子だものね!


「アレフ、アレフ! ありがとうな、アレフ!」

「シグちゃん、良かったね」

「なのだ!」

「シグルデちゃん、ご機嫌ね?」

「なのだー! アレフが色々とおっちゃんにデザインの話をしてくれた鎧なのだー!」


 ガラゴロガラゴロ、パカラパカラ。


「空気が湿って来たわね」

「雨ですかね?」

「さぁ、どうかしら。どちらにしても、この馬車にはホロがあるから大丈夫よ」

「それもそうですね」

「すーすー」


 お? お子ちゃまが騒ぎ疲れて寝てるぞ?

 さっきまではしゃいでいたのに。

 よっぽど鎧が嬉しかったんだな……。

 俺は毛布を取り、シグにそっとかけてやる。


「アレフ……アレフ……(われ)の騎士よ、何処にも行っちゃ嫌なのだ……むにゃむにゃ」


 ドキッとした。

 俺はシグに相当気に入られているらしい。


「あらあら。シグちゃん眠っちゃったね」

「そうだな。ジュリアも一休みしておくか?」

「私は良いよ。それよりも、今日一日無事に旅ができますように、女神ライア様にお祈りをね!」

「全くジュリア真面目だよな」

「ふふふ。でも、祈り疲れて私も眠っちゃうかもしれないから、その時は私にも毛布をお願いね!」

「え? ジュリア?」

「シグちゃんだけ特別扱いはずるいもの」

「はいはい。そういうことにしておくよ」

「あはは。アレフったら照れてる」

「照れてない!」

「ウソウソ。それじゃ、お願いね」


 そしてジュリアは目をつぶり、両手を合わせてお祈りのポーズに入る。

 全く。ジュリアまで何を言い出すんだか。


「アレフ君、閉めてくれない? 雨が降って来たわ」


 御者をしていたファラエルさんが荷台に飛び込んで来た。


「ねぇ、アレフ君」


 気づけばファラエルさんの銀髪が俺に触れている。

 近い、近い近い近い!


「あのねアレフ君。お姉さんからお願いがあるんだけど」

「な、何ですか?」

「お姉さんね、雷が怖いの」

「は?」

「ほら、ゴロゴロ言ってるでしょ? 遠くで」


 ピカッツ!


「きゃっ……ほら、光った」


 ズドーン、バリバリバリバリ……。

 ザー……。


 雷鳴の音を合図に、雨が降ってきた。


 柔らかな感触。

 気づけば俺はファラエルさんに抱きしめられていて。


「ね、お姉さん、これでも結構可愛いところあるでしょ?」

「あ、はい」

「お願い、ちょっとだけ、ちょっとの間だけこうしていてね?」


 ドキドキドキドキバクバクバクバク。


「ねぇアレフ君、緊張してる?」

「(コクコク)」

「参ったわね……お姉さん、誰に甘えれば良いのかしら? えーと、こんなときはジュリアちゃん?」

「はい!?」


 ジュリアが目を開ける。


「あー! ファラエルさん、それにアレフ! 何二人してそんなにくっついてるんですかー!」


 ピカッツ!


「きゃっ!?」


 ファラエルさんがまたも可愛い声。


「きゃー!」


 ファラエルさんに巻き込まれ、俺とともに抱きしめられたジュリアが悲鳴を上げる。


 ズドーン、バリバリバリバリ……。


「ジュリアちゃんは怖くないの!? あたしは怖いわ雷……」

「わ、私は平気です! で、ですからそんなに締め付けないで離してください! 私のアレフからも離れて!」

「ごめんなさい。あたしとした事が。ごめんなさいね、ジュリアちゃん」

「いえ」


 と、やっとファラエルさんから解放された。

 柔らかな肉の感触が離れてゆく。


「うーん、それにしてもシグルデちゃんはこんなときにも良く寝てるわね……」


 すごい雷が鳴り、外は大雨だと言うのに身動き一つしないシグ。


「すかー、すぴー、すかー、すぴー」

「うーん。シグルデちゃんにはリンゴさえ与えておけば大丈夫なのかしら」

「何変なこと言ってるんですファラエルさん!?」

「ほら、サンダードラゴンっているじゃない? あれ手なずけるにはやっぱりリンゴなのかしらって、一瞬あたし、閃いたのよ」

「はぁ?」

「やっぱりあたし、天才?」

「いや、バカでしょ」

「ちょっとアレフ!」


 ジュリアの大声で気づいた。おっと、心の声が漏れていたぞ!?


「ふーん。アレフ君は今までお姉さんの事をそんな目で見ていたわけね?」

「違う、違います! ファラエルさんは天才、なぜなら前人未到の氷の魔術を極めた偉大なる人!」

「そうね。でもそれは控えめな表現ね! なぜなら私は天才! 優秀! 偉大なる稀代の氷の魔術師なんですもの!!」

「「はぁ」」


 俺とジュリアの声がハモった。

 さすが幼馴染。


 ピカッツ!

 

「光った!?」とはファラエルさん。

 

 ドーン、バリバリバリバリ……。


「近い!?」とも、ファラエルさん。

「ぎゃぁあああああああああああ、光ったのだ地鳴りなのだ何事なのだアレフアレフ!?」


 あ、お子ちゃまが起きた。


「ふぁ、ファラエルは魔術師なのだろう! 外で何が起こっているのだ! 怖いのだー!!」

「雷よ、シグルデちゃん。シグルデちゃんも雷怖い?」

「ん、なんだ、雷か。悪いドラゴンの襲撃かと思ったのだ」


 ピカッツ!

 ドーン、バリバリバリバリ……。


 辺りが一瞬白くなる。


 悲鳴を上げたのは二人。

「きゃぁーーーーーー!」

「ぎゃぁああああああ!」


 ファラエルさんと、シグ。


「なんだ、シグも雷怖いのか」

「黙れアレフ! 吾は怖くなどない! 雷が怖いのはお子様なのだ! 吾は大人! 立派なレディ! だから怖くない! 怖がるファラエルはでかい乳と尻をしておるのにまだまだ子どもだな! はっはっ──」


 ピカッツ!

 ドーン、バリバリバリバリ……。


「ぎゃぁああああああ!」


 雷鳴と共に、シグがやっぱり悲鳴を上げた。


「やっぱり怖いんだ? だろ? シグ?」

「そんなことは無いのだ!! 怖がりはファラエルだけで充分だ!」


 いやいやシグ。充分怖がってるぞお前……。

 で、ファラエルさん。

 いい加減に雷に慣れたのかな?

 いつもの可愛らしい悲鳴を上げなかったぞ?


「あれ? ファラエルさん今度は大丈夫なんですか──って、白目剥いてるーーーーー!!」

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