ハントにはんと
「おお、美味い肉なのだ!」
「どう? リンゴジュースとよく合うでしょう?」
「うむ! 美味いぞ人間! アレフも試せ? 凄く美味しい」
言われるまでもなく、焼肉と絞りたてのリンゴジュースを試す。
うん。
凄く美味しい。
肉がピリッと辛い……香辛料? 隠し味か!
ファニーさんが村一番の料理人と言った理由もうなずける。
「でも、良いんです? こんなにたくさんご馳走してもらっちゃって」
「良いの良いの。痛みやすい場所だからね。こうしてみんなで食べてもらって本望でしょ」
「それにこの立派な角や革……一財産になりませんか?」
「何言ってるのよ。それも報酬。約束だったじゃない。こっちは保存食用の肉が大量に取れて大助かりよ。それに骨や筋は骨細工師に売るしね! 大丈夫、わたしにもかなりの儲けがあるのよ?」
「アレフ、私シグちゃんとファニーさんが潰されそうになったとき、ほんとドキドキしたよ」
「あ、実は俺も」
「なんだ、アレフもなんだ。あはは!」
「何言ってるの。このファラエルお姉さんの計算が間違うはずが無いじゃない。二人はあたしの最強の氷の魔術で救ってあげたわ!」「そうでしたね、ファラエルさん」
「ええそうよ、アレフ君」
◇
「シグに?」
「シグというのかい、この軽業師の嬢ちゃんは」
皿を三枚、お手玉して遊んでいる。
確かに軽業師と見られても不思議は無い。
「彼女──シグも凄腕の冒険者なんですよ? 盗賊なんです」
「そうか! それは都合がいいや!」
「若いの、実は俺は鎧職人でな。その立派な竜革で鎧を作ってみる気は無いかい?」
「え?」
「この嬢ちゃんにぴったりのドラゴンメイルを作ってやろうってんだ。どうだい? 見ればこの嬢ちゃん、革鎧も装備していないじゃないか」
「おおお! 吾に鎧! しかし、吾はもう直ぐボンキュッボンになる予定の体……今の体格に合わせて大丈夫なのだろうか?」「そうだな、子どもは直ぐに大きくなるからな……大丈夫だ、余裕を持たせたつくりにしてやる。なぁに、任せておけ! 安く作ってやるよ!」
「吾に鎧、吾にピカピカの鎧! はっ!? こ、子ども扱いするなぁ!」
「おやじさん、シグにぴったりの鎧をお願いします! ぜひよろしくお願いします!」
「アレフ? お前はそうまでして吾の事を大事に思ってくれていたのか……?」
「もちろん。だってシグは大切な仲間だろ?」
「アレフ! アレフ! 大好きなのだ!!」
シグが俺に飛び込む。
……胸ではなく、脚に。
◇
ファラエルさんが酒場で飲み物をストロー越しにブクブクブク。
「鎧が出来上がるまで暇ねー」
「そうですねファラエルさん」
「そうだ! モンスターの話を聞いたの!」
「モンスターですか?」
「そうよ?」
怪しい。
何かが怪しい。
「アレフ君。お金になるお話しよ?」
「何! リンゴ代が稼げるのか!?」
「そうよシグルデちゃん」
「おおー! リンゴリンゴ!」
「それで、そのモンスターって何です?」
「つむじ風。つむじ風はね、よく磨かれた宝石を持ってるのよ」
「宝石!? 宝石って言いましたファラエルさん!」
「お、食いつきが良いわねぇジュリアちゃん。ジュリアちゃんも宝石好き?」
「好きです!」
「そうよね、女の子だものね」
「えへへ、綺麗な石だったら指輪にして……」
ええと、頭の中がお花畑になっているジュリアは放っておいて。
でも、やっぱりそういうことか。
怪しいと思ったら……モンスターの持っている財宝が目当てなんだ?
「つむじ風?」
「そう。つむじ風というモンスターがいるらしいのよ。本当はもっと草原の近くにいるはずなんだけどね……」
「モンスターなど吾が騎士アレフがばったばったと薙ぎ倒してくれるのだー!」
「そうねシグルデちゃん、シグルデちゃんもそう思うわよね?」
「当然なのだ!」
「どう? アレフ君。村のピンチ、旅人は困ってる。シグルデちゃんも応援してくれているし。英雄の血が騒がない!?」
「剣、効くんですかそのモンスター」
「たぶん。風の中心に悪魔みたいな本体がいるんですって」
「魔術、効くんですかそのモンスター」
「ふ……舐めない事ね。あたしは最強の氷魔術を操る最強の魔術師よ?」
「怪我、しませんよね俺たち」
「大丈夫、そのための女神ライアの使徒、ジュリアちゃんなんだから! ねー、ジュリアちゃん?」
「はい! もし皆さんが怪我をされても、私が治療の魔術で何とかしちゃいます!」
◇
ここは村から程なく離れた岩ばかりの丘の上。
なびく枯れ草が寂しい丘だ。
「風が強くなってきたわね。これはいるわ。きっといる。あたしのお宝、つむじ風ちゃんが……!」
すぱ。
その時、肌に痛みが走った。
「あいた!」
「ちょっとアレフ、血が出てる! ……慈悲深き女神ライアよ、ヒール!」
ジュリアが優しく手をかざすと、俺の傷が塞がってゆく。
「ありがとうジュリア」
「いいえ、どういたしまして。でも、あれがそうなんじゃないアレフ。あの風を纏った青い人影がつむじ風……」
渦巻く風を身にまとい、青い人影が三体見える。
「あれですかファラエルさん。つむじ風ってモンスター」
「そう! そうよあれがつむじ風! あいつがいつも風で宝石を磨いているから、持っている宝石はピカピカなのよ……うふふ」
「そ、そうですか」
ファラエルさんの目が金貨に見えた。
「じゃあ、下手にかまいたちで傷だらけにならないうちに早くやっつけてしまいましょう」
「そうね、それがいいわ。でもねアレフ君、くれぐれも宝石に傷をつけないように注意してね……!」
「はいはい、ってあ痛ぁ! どうして俺だけ!」
「あら、言ってなったかしら。つむじ風は人間の男が嫌いなのよ?」
「聞いてませんよそんな事!」
と、言ってる間にも次々と新しい傷の増える俺。
痛い、痛いってば!
「アレフー! 怪我する前にやっつけてしまえー!!」
「ヒール! アレフにヒール!!」
「ほら、こうしてシグルデちゃんもジュリアちゃんも応援してくれているし、それじゃつむじ風をやっつけに行きましょ?」
ファラエルさんがつむじ風に氷の矢の魔術を放つ。
俺はシグと共につむじ風の集団に切り込んだ。
シグの拳が唸りをあげて、俺の剣が肉を断つ。
そして次々と血煙が上がる。
え? どこから?
それは俺の体から血風が。
ちょ、俺が囮かよ!
ううう……痛いってば!




