初めてのダンジョン
「いいかいシグ。ダンジョン探索には充分な準備が必要なんだ」
「どうして?」
「そりゃ、怖いモンスターがいっぱい住み着いているからね!」
「おお!」
「だから急がず慌てず……」
「行くぞアレフ! その『怖いモンスター』をいっぱい倒していっぱいリンゴを食べるのだ!!」
◇
ここはダンジョン、昔のお墓。
周りは見渡す限りの──、
骨。骨。骨。
俺たちは今、スケルトンの大群に囲まれている。
俺、ここで死ぬのかな? いや、こいつらは弱い。
<<剣士>>スキルを持ったオレの方が強いんだ。
俺が短剣で薙ぐと、それだけでバタバタとスケルトンが脆くも砕け散る。
飛び散る骨。骨。骨。
だけど、次から次へとこいつら湧いてきてキリがない!
いい加減、疲れてきたんだけど……。
「シグは大丈夫!?」
「楽勝なのだ! だけどこいつら殴っても殴ってもキリが無いのだ!」
あ、同じ事を思っていてくれたんですねシグルデさん。
俺はなんだか嬉しいよ。
「骨の欠片って幾らで売れるのだ? 三カパーか!? 五カパーか!?」
「……」
おおう、すでにそっちの方を計算されていたんですね、シグルデさん。
俺はなんだか悲しいよ。
◇
「それにしてもどうしてこのスケルトンはキリが無いのだ?」
「それは!」
短剣で鎖骨を折る。
「何かの仕掛けが!」
短剣で大腿骨を折る!
「って……仕掛け?」
短剣で肋骨を纏めて折る!
仕掛け。そうだよ。おかしいよ。何か仕掛けが……。
「あ!」
俺は一体のスケルトンの右手が赤く邪悪に光っているのを見つける。
「あのスケルトン! あいつの右手が光ってる! 何か持ってる!!」
「ええと、奥のあいつか?」
「そうそう!」
「あいつを殴れば良いのだな!?」
「うん、やっつけてくれシグ! あいつきっと、お宝を持ってる!」
間違いない。あのスケルトンの右手が赤く光るたび、新たなスケルトンが生まれてきている。
きっと召喚しているんだ。
「あいつ絶対怪しいって!」
「わかった! 吾にまかせろ!!」
「おう、やってくれシグ!」
俺は目の前に押し寄せるスケルトンの波を切り伏せる。
「うりゃりゃりゃりゃ!」
シグが跳んだ。
突進と共に砕ける骨。
飛び散る骨。
散らばる骨。
骨を踏みつけ掻き分けて、シグの小さな体はそのスケルトンに迫る。
「お宝ぁ!」
シグの右手が光って唸る。
ストレートパンチはそのスケルトンの頭を砕き、粉々にする。
「やったぞアレフ! ん? アレフ!?」
それどころでは無い俺は押し寄せるスケルトンを切る、薙ぐ、叩く!
骨ばった突きをかわし、蹴りを避け、繰り出される拳を摺り抜けつつスケルトンの猛攻を掻い潜る。
「うりゃぁあああああああああ!」
シグの雄叫びが聞こえる。
背が小さくて見えないけれど、スケルトンを俺とシグとで挟み撃ちしてるのだろう。
そしてちょこんと見えるのは、栗色のツインテール。
シグルデだ!
「うりゃぁあああああああああ!」
「うぉおおおおおおおおおおお!」
二人でスケルトンをなぎ払う。
もうスケルトンは増えない。もう赤い光はどこにも無い。
きっとオレの読みは当たったのだろう。
◇
「さすがはアレフ。見事に敵の正体を見抜くとは」
俺は骨の欠片を袋に詰める。綺麗なものから次から次へと詰めてゆく。骨細工の材料にぴったりだ。
「それにしてもアレフ! お宝はあったか!?」
「無いね……あの赤い光、あのスケルトンのスキルだよ。きっと」
「魔術師か何かのスケルトンだったという事か?」
「たぶんそうだろうね」
「むー! アレフがお宝だといったから頑張ったのだぞ!?」
「ごめんごめん」
「リンゴ三個だ!」
「今日のおやつ?」
「そうとも!」
「はいはい。ごめんよ。機嫌直してね」
「む~! 仕方ないな、許してやろうではないかアレフ!」
「ありがとう」
あれ? 俺、どうして謝っているのかな?
◇
俺は商人の前で袋いっぱいになった骨の欠片を見せる。
「ええと、骨の欠片ね。魔力もこもってないようだし……一個一カパーだな」
「ちょっと待て! 一つ二カパーは堅いだろう!? アレフももっと怒れ!」
「よせ、止めてくれシグ。止めるんだ」
「アレフも言ってたじゃないか! 一個三カパーは貰えるはずだって!」
「シグ、我慢するんだ。今日は一個一カパー。これで我慢しよう」
「アレフ!」
「そうだぜ。お嬢ちゃん。そこの能無しの言うとおりだ。何せこの街ではお前達と取引してやろうなんて商人は俺様だけなんだからな! ありがたく思え。がはは!」
商人は勝ち誇ったように笑う。
「ぐぬぬぬぬぬ!」
シグは怒ってくれている。
俺も当然悔しい。
でも今は我慢だ。
そのうち、そのうち絶対見返してみせる!
そうとも。
いずれこの商人の方から頭を下げさせて「どうか売ってください!」と言わせてみせるんだ!