りょうり
「うんまうま。アレフはアレフでも悪いアレフもいるんだな!」
「まぁね」
シグがリンゴを齧りながら、他人事のように言ってくる。
結局俺たちは、山賊を役人に突き出した。
役人が『「竜殺し」のアレフ! 大人しくしろ!』と最後まで叫んでいたのが、俺はなんだか痛々しくて……。
ガラゴロガラゴロ……パカラパカラ……。
今の俺は馬車の人。
「アレフ。世界には自分に三人は同じ顔の人がいるって言うよね?」
「いやいやジュリア。俺とあの山賊は顔似てなかったし、たまたま名前が同じだっただけだしスキルが被っていただけだし!?」
「アレフ君ももうしばらくするとあんな凶悪な顔になるのかしら……」
「ならないなりません無理無理無理無理! あんな恐ろしい顔になんてなりませんってば!」
「アレフも髭面になるのか?」
「だからならないってばシグ!?」
◇
ガラゴロガラゴロ……パカラパカラ……。
「ホント何もない荒地ねー。ねぇアレフ君もそう思わない?」
「そうですね。でもファラエルさんそんな事言ってると突然モンスターに襲われたりするので止めてください」
「何アレフ君。モンスターが怖いの?」
「油断してモンスターにやられるのがバカバカしいだけですってばファラエルさん!?」
「まぁ、そこはアレフ君が何とかしてくれるでしょ。でしょでしょ? ねー、ジュリアちゃん?」
「え!? 私ですかファラエルさん?」
「それとも、女神ライアさまの加護があればモンスターなんて出るはずないかしら」
「そうですね、お昼の休憩したときにライア様を祭る簡単な祠を作りましょうか。簡単ですがそこで旅の安全を祈りましょう」
「ジュリアちゃんも真面目ねー」
「ファラエルさんは不真面目ですね?」
俺はすかさずファラエルさんに突っ込む。
今まで散々言われっぱなしだったんだ。
ちょっとぐらい言い返したって……!
「まぁね」
「ですよね、真面目なら氷の魔術なんて学ばなくて、炎の魔術を学んでるはずですからね」
「何ですって!? 氷の魔術の素晴らしさがまだわからないのアレフ君! 良い!? 氷の魔術はこそ最強、氷の魔術こそ最高にして至高なの! 良い!? 炎の魔術なんてしょぼい魔術と一緒にしないでね!」
「あ、はい……」
「なぁなぁ、荒地にはどんなモンスターが住んでいるんだ?」
「そうねぇシグルデちゃん。たとえば──あんな奴とか」
ブーン……。
え?
空飛ぶトカゲ! リザードフライ!!
その一匹から、ぎょろりと俺は睨まれる。
「トカゲが飛んでるし!?」
「アレフ君は初めて? アイスアロー!」
軽い口調のファラエルさんは、そのままの調子で魔術を放つ。
俺? 俺は馬車の外に転がり出る。
躍り来るトカゲに向かって一薙ぎ。
突っ込んできたトカゲは勢い余って真っ二つ!
「このトカゲ、次々飛んでくるんだけど!」
「さすがアレフ! トカゲなど楽勝だな!」
「アレフ! でも気をつけてね!」
シグとジュリアの言葉が俺を元気付ける。
「まぁ、動物だからねー アイスアロー!」
俺は剣を振り回す。
ファラエルさんも前方で戦っている。
俺は次々と飛び掛って来るトカゲに合わせて剣を構えた。
突っ込んできたトカゲは勢い余って真っ二つ!
「アレフー、こいつ食えるのか!?」
「食うのか!? 本当に食いたいか!?」
ヒラキになった空飛ぶトカゲを見てシグはそう言ってくれたんだ。
◇
「美味そうなのだ……」
俺が真っ二つにしたトカゲの切断面に塩コショウをして火で炙る。
ジュウジュウと油が流れ落ちている。
確かに、美味そうに見える。
……俺の気のせいで無ければだが。
「もう食えるんじゃないのか? 火は通っただろ?」
「おおおアレフアレフ! そうなのかー!」
「シグちゃん、この果実の果汁を振り掛けて食べると美味しいかも?」
「おおお! 気が利くのだジュリア!」
はむはむ……。
「どうだシグ?」
俺は肉汁滴り落ちるトカゲ肉に齧り付いたシグに聞いてみた。
「ふんぐふんぐ、美味いのだー! アレフも食え! 食ってみろ!!」
そうか、このギョロリとしたトカゲの肉が美味いのか。
リザードフライの炉辺焼き、柑橘風味といったところ。
「ジュリア、お前も食えよ。ファラエルさんも」
「ん、私はライア様の祠がもう直ぐできるから後で……」
「ああ、アレフ君、あたしもジュリアちゃんと一緒に食べる事にするわ。シグルデちゃんと仲良く食べちゃってくれて良いわよ? アレフ君」
「んじゃ、お言葉に甘えてお先に……」
俺は串を手に取った。
トカゲ。だけどトカゲ。
ただでさえ肉汁が滴りこんがりと焼けて香ばしい匂いが鼻を擽る。
柑橘の汁をかけると良い香り……。
これは期待できる!
かぷ!
俺は串肉に齧り付く。
コリコリ……。
う゛。
なんだ、今の感触は。
この肉。確かにジューシーで香ばしいけど何だこれ!?
「くふふふふ、あははははは! どうアレフ君? リザードフライのお肉の感想は? 軟骨や筋が多いでしょう?」
く、確かに。
「食べにくいでしょう! くふふふふ!」
噛み千切ろうとすると、伸びる伸びる。ふんぬー、ふんぬー!
ダメ。切れない。
く、確かに。
「確かに味は良いんだけど……」
「煮込み料理にはお勧めよ?」
そうかもしれない。煮込み料理ならばこの欠点は無くなる……。
「調理法を間違えたわねアレフ君。シグルデちゃんは平気のようだったけど、アレフ君はね! あははははは!」
「と、いう事でジュリアちゃん、シチューを作りましょうか。炙り肉を細かく刻んで中に入れて」
「そうですね、ファラエルさん!」
くうぅ、どうりで調理中ファラエルさんがニヤニヤしていたはずだ!
「そんな顔しないでアレフ君。シチューはきちんとアレフ君の分も作るから」
「吾の分は!?」
「シグルデちゃんの分も作るわよ?」
「やったのだー!」
してやられた。だけど、俺は一つ学んだ。
それはリザードフライの美味い調理法。
その晩のシチューは確かに美味かった。




