けっとう
【前回のあらすじ】
『竜殺し』のアレフと名乗る山賊の首領を追い詰めたが後一歩のところで取り逃がしてしまったアレフら一行!
◇
「まさか脱出用の抜け穴を用意していたとはね。やるじゃないの、『竜殺し』のアレフ!」
「知恵が回るのですね、『竜殺し』のアレフは」
「さすがアレフ……偽者とはいえ、吾が騎士に恥じぬ行い」
「おい、お前らな……!」
酷い言われようだ。
山賊の首領がやった事なのに、まるで俺自信が悪者のようで……ううう!
「探すぞ! 奴を逃がすな!」
「当たり前じゃないアレフ君」
「そうよアレフ」
「アレフ! こっちから人間の臭いがするぞ!」
◇
そして追いつき見つけたのは俺と似ても似つかぬ一人の男。
「どうやらどうしても痛い目にあいたいみたいだな! この俺、『竜殺し』のアレフに剣を向けるとは!」
あ、あ、ああああああああああ。
禿げ上がった頭、野太い眉、山賊も真っ青な傷入りの顔、血管の浮いた筋肉!
「ああっ、アレフ君いつの間にそんな物騒な姿になったの!?」
「嫌ぁ! アレフがおじさんに!」
「アレフ、アレフが二人いるぞ!」
「おいおいおい! みんなして何だよ!?」
とりあえず突っ込みを入れておかねば!
「ちょっとお茶目な冗談じゃないの。何アレフ君。余裕ないわね」
「そうよアレフ。見ればわかるでしょ? どちらが本物のアレフかどうかなんて」
「アレフ、吾はリンゴが欲しいのだ」
こ、こいつら……。
「何を言う! この俺が本物の『竜殺し』のアレフだ! ブラックドラゴンを退治したスキル<<竜殺し>>持ちの!」
「え? ブラックドラゴン?」
「この人も本物の『竜殺し』?」
「ふむふむ、そうなのか!」
「でも悪人なんでしょう、この偽者!」
「そうよ! 闘技場のチャンピオンを倒したのはうちのアレフなんだから!」
「そうなのだ! リンゴをくれるのは吾が騎士アレフだけなのだ!」
そうか、この山賊もスキル<<竜殺し>>持ち。
気が抜けない強敵か!?
「仕方ないな、お前達には本当の『竜殺し』の恐ろしさ、思い知らせる必要があるようだ!」
「さ、アレフ君! 出番よ!!」
「そうよアレフ! 本物の力を見せるときよ!」
「吾が騎士アレフ! やってしまえ!!」
って俺!? 俺が一人で相手をするの!?
俺は左右を見回した。
だが、三人から注がれるのは期待の眼差し。
「ふははははは、笑わせるな小僧! お前が俺の相手だと!?」
「アレフ君、構わないからやっちゃって!」
「何してるのアレフ! 早くかたずけちゃいなさいよ!」
「頑張るのだアレフ!」
信じて疑わないジュリアやシグの瞳。
ファラエルさんの視線も俺から動かない。
ううう、やるしかないのかよ!
「行くぞニセ者!」
「なにを言うか、俺こそが本物よ! 考え直せ、逃げるなら今のうちだぞ!」
俺は剣を抜き放つ。
ギラリと光る、鋼の光。
「おまえ本気か!? 俺は『竜殺し』のアレフ! 最強の男だぞ!?」
「やかましい! 俺が本物のアレフだ!!」
「え? 本物……?」
俺は『竜殺し』目掛けてザッと駆け寄る。
「食らえニセ者!」
「ば、バカなことはやめろ! 俺こそが本物の『竜殺し』……! お前などこの俺がちょっと本気を出せば……!」
左、右と切りかかる。
ブンブン!
「ば、バカな真似は止せ!」
「問答無用!」
俺は真正面にニセ者を見据えて剣を振る!
ざくざく!
「ぎゃぁああああああああああ! 止め、止めて殺さないで、俺は、俺は最強の……!」
あれ?
この偽者『竜殺し』、めちゃくちゃ弱い……。
「なんて事してるのアレフ君! やりすぎよ!」
「そうよアレフ! ちょっと懲らしめる程度で良いじゃない!」
「そうだぞアレフ! 弱い者苛めでは無いか!」
「ちょっと、この自称『竜殺し』、死にそうなんですけど!」
「おじさんおじさん大丈夫!? 今ヒールかけてあげるからね! お願いだから死なないで!?」
「アレフ、本気を出しすぎなのだー!」
おいおい……どうしろと。
◇
「『竜殺し』か……。<<鑑定>>!
アレフ 人間 男 45歳
冒険者レベル:12
スキル:戦士 習熟度C
竜殺し 習熟度E
『竜殺し』のアレフ。吾が騎士アレフとは比べるまでも無い小悪党だったが、嘘ではなかったな!」




