もえよ、けんせい
「久しぶりのリンゴの味なのだ!」
道中色々あったけど、故郷の街に戻った俺。
温かく迎えてくれたサンディさんたち。
そんな中。
シグはリンゴを齧りながら、ここでもニッコニコと笑ってくれた。
「そうだな。報奨金も入ったし。おっちゃんもリンゴ代を負けてくれたしな!」
◇
あの爺さんは……と。
俺は河原で釣り好きのお爺さんを探す。
いつも、あのお爺さんが座っていた大岩。ファラエルさんと二人並んで釣り糸を垂れていた大岩の辺りを。
だけど、お爺さんの姿は影も形もなかった。
俺は街の人を捕まえて聞く。
「いつもここで釣りをしてた爺さんがどこに行ったかしらないか?」
「なんだ、無能のアレフじゃないか。戻ってきたのかよ」
「心配してくれてありがとよ。だけどそんな事よりもお前、爺さんの居場所はわからないか?」
「あの爺さんか。街中じゃなくて森に一人で住んでいるって聞いた事があるな」
「そっか。ありがとう」
◇
で、街から程近くの森の中。
「人間の臭いなぁ……アレフは吾を何だと思っているんだ?」
「シグ。もしかするとお前ならわかるかもと思ったんだけど」
「アレフ、大丈夫? いくらシグちゃんでもそんな事がわかるはずないじゃない。何か焦ってないアレフ?」
「そうよアレフ君。さすがに強引だと思うわ。もっと他の人に聞いてみた方が良かったんじゃないの?」
「だよな、さすがのお前でも無理だよなシグ」
「何を言っている。人間の臭いだろ? 吾はわかるぞ?」
「え!?」
「本当シグちゃん!?」
「シグルデちゃん凄い! と言うより、その斜め上の発想にたどり着いたアレフ君凄い!」
「ファラエルさん俺をバカにしてますねバカにしてるでしょうバカにしてますよね!? ですよね!?」
「さぁ。あたしには何の事だか、さっぱりわからないわねアレフ君」
「ファラエルさん~!?」
「あ、アレフ! こっちにケモノ道があるぞ。くんくん。人の臭いがする。行ってみるかアレフ?」
「え、あ、うんシグ。もちろん!」
◇
森の開けた場所に古びた小屋がある。
「この中だ、アレフ。誰かいる」
「入ってみよう」
コンコンコン。ノックを三回。
「こんにちはー」
「……」
「返事がないね、アレフ」
「そうねアレフ君。シグルデちゃん、確かなの?」
「吾を疑うのかファラエル!?」
「こんにちはー。誰かいませんかー?」
ギィイイイ……。
扉を開ける。部屋の隅の寝台を見る。そこには見慣れた老人が、力なく一人横たわっていて──。
「お爺さん!!」
「お爺ちゃん!」
「おい爺さん!?」
「どうしたのだー!?」
◇
「爺さん……」
「アレフ、まぁ元気出せ? な? お前は吾が騎士なのだからな!?」
「アレフ君、まぁ、世の中には仕方ない事があるのよ……」
「ちょっと! 勝手にお爺さんを殺さないで! キュア・ディジーズ……慈悲深き女神ライアよ、この者から病魔を取り去り給え……」
小屋の中は柔らかな輝きを放つ白い光に包まれる。
◇
そして、お爺さんは元気になった。
「そうじゃ。わしが剣聖アグライアじゃ。少年、お前には世話になったようじゃな」
「もう、驚かさないで下さいよ。俺はてっきり爺さんが……」
「そうね。動かないものだから、もう天に召されたものかと」
「礼ならジュリアに言うのだ! 助けたのはこのジュリアなのだからな!」
「そうか。ありがとうな、お嬢ちゃん。じゃが、お主らの助けなくば天に召されておったろうな。再度礼を言うぞ?」
「いえいえ」
「それで、わしに何か用があるのじゃろう? 剣聖がどうの、と言う話をしておったが……釣り爺としてのわしではなく、剣聖としてのわしに用かな? お前さん方」
◇
「なんと。剣の稽古を?」
「はい! お願いします! 更なる高みを目指したいんです!」
「吾からもお願いする。吾の騎士を鍛えて欲しい」
「ねぇお爺さん、アレフったら自己流で危なっかしいから、きちんと鍛えてあげて欲しいの」
「そうそう。お爺ちゃん……アグライアさん? あたしからもお願い」
「ふむ……剣の稽古をの」
「お願いだ爺さん! 俺は強くなりたいんだ! もっと強く! スキルに頼らなくても良いほど強く!」
「勝ちたい相手でも出来たのか少年?」
「闘技場のチャンピオンに勝ちたい! そして誰にも負けない強さが欲しい! みんなを守れる力が欲しい!
「そうか。若いのう」
「お願いだ爺さん! 俺に剣を教えてくれ!!」
「少年。先程お前さんはスキルに頼らないほど強い力と言っておったが、新しいスキルが欲しくは無いか?」
「え? それってどういう事?」
何だって!? 俺は目を丸くした。




