はるか、けんせいをもとめて
「アレフ、アレフ! どうして元の街に戻るのだ?」
リンゴを齧りながら、揺れる車内でシグが話す。
ガラゴロガラゴロ。パカラパカラ。
馬車は俺らを連れて街道を行く。
「ええとな、剣聖さんに剣の稽古をつけてもらうんだ!」
「誰が?」
「俺がだよ!」
「アレフ……もっと強くなりたいのか?」
「当然だよ! 俺は剣の技をもっともっと修行して、最強の<<剣士>>になるんだ!」
「アレフは凄いな。吾ならそんな面倒な事はしないぞ?」
「え?」
「吾はいざとなればドラゴンになってガオーってやるからな! 吾は変身前も、変身後も強いのだ!」
「……ま、まぁそうだね」
「なのだ!」
◇
村に差し掛かると、そこは暗い雰囲気に包まれていて。
「冒険者様、冒険者様が怪物を倒してくださった遺跡なのですが、山賊が住み着いてしまったんです。どうか倒してもらえないでしょうか。村のたくわえは僅かしかなく、充分なお礼も出来ませんが……」
「アレフ、手助けしてあげましょうよ」
「待って、ジュリアちゃん」
「はい? 何ですファラエルさん?」
「厚かましいお願いとはわかっております。ですがどうか、どうか願いをお聞き届け下さい!」
村長はそんな俺たちのやり取りの合間にも、頭を下げ続ける。
「お願いします! 冒険者様!」
「アレフ君、どうしましょうか。あたしたち確かに先を急ぐ旅の途中だけど村長さん困っているっぽいし……悩むわね。せめて報酬に色をつけてもらえればね……」
「お急ぎの旅……そ、そこを曲げてお願いします冒険者様! どうか、どうか山賊たちを追い払ってください!」
「そう言われてもねぇ……困ったわ……協力してあげたいのは山々なんだけど、本当に困ったわね」
「ファラエル? 今度の旅は急ぎだったのか? 今までのんびり来たのに?」
「シグルデちゃんは黙ってて! ここは大人の話し合い、勝負の場なのよ!」
「お願いします冒険者様!!」
「ファラエル、吾を子ども扱いする出ない! これでも吾は大人! 立派に成人しているのだ!!」
「わかりました冒険者様、もう少し礼金を弾みます! 約束しますので冒険者様、どうか厄介な山賊たちを追い払ってください!!」
「そう? どうアレフ君。手間だけど、村人たちがかわいそうだからここは手を貸してあげる? それともそんな余裕は無い?」
「わかりました、わかりましたから冒険者様、何とか謝礼のほうはご用意いたしますから!!」
◇
俺は遺跡に向かう途中、馬車の中でぼやいた。
「ファラエルさんの鬼」
「どういうことアレフ?」
「ファラエルさんは山賊退治の報酬を釣り上げてたんだよ」
「えー!? そうなの!? そうなんですファラエルさん!?」
「ジュリアちゃんは何も心配する必要なはいのよ? ジュリアちゃんは今のジュリアちゃんのまま、いつまでも純粋無垢でいてくれて良いの。汚れ仕事はあたしに任せてくれて良いのよ」
「ファラエルさん、それ本気で言ってる?」
「ああ、進んで汚れ仕事を請けるあたし……まさに魔術師の理想って感じじゃない? 偏屈で、根性が捻じ曲がっていて……やっぱり魔術師はこうでなきゃね! いえ、魔術師たるもの絶対にこうであるべきなのよ!」
俺はファラエルさんの夢見る瞳を覗き込む。
そこには謎の星の輝きがあった。
だめだな、この人。ほんとダメ。
◇
石造りの遺跡を望む、林の中。
いるいる。見張りが二人。
そして奥では焚き火をしている山賊が数人。
ああ、こいつらが村人を困らせている山賊か。
「ちょっとシグルデちゃん。山賊に挨拶して来てくれないかしら?」
「ん。わかったぞファラエル」
「ちょ!? ファラエルさん!?」
なんて事を言い出すんだこの人は!?
「シグちゃん気をつけてね?」
「では、行ってくるのだ!」
と、迷いもなさそうにシグは歩いていく。
◇
「はーっはっはは。山賊ども! 偉大なるこの竜人族の皇女、シグルデ様がお前たちを退治に来てやったぞ!」
いきなり名乗りを上げたチビッ子に、ぽかんと目を向ける山賊の皆さん。
「なんだ? このメスガキ。ちょっと頭がおかしいのか? ……いや、でも結構顔は良いな。高く売れそうだ。おいお前、お頭に知らせて来い。俺はこいつを捕まえる」
「おう、わかった」
「村人を困らせる悪党ども! 一人残らず捕まえてくれる!! おとなしく捕まるが良い! ええい、その汚い手を離せ!」
捕まるシグ。いや、わざと抵抗していないのか?
「おい、何があった!」
奥から出てくる山賊ども。結構な人数だ。その数みんなで十数人。
それがひとところに集まったところで……。
「シグルデちゃん上出来よ。良く頑張ってみんな集めてくれたわね!」
「お、良い女!」
「こ、この女……捕まえた奴が一番先にいただくって事で良いですよね、ねぇお頭!?」
と、ファラエルさんの登場に山賊たちが騒ぎ立てるが。
「アイスボール!」
「「「「ぐぎゃーーーーーーー!」」」」
ファラエルさんの無慈悲な詠唱が遺跡に響き渡る。
「アレフ君、ジュリアちゃん! 退路を塞いで! 逃がさないでね!? 生け捕りにするのよ!?」
「生け捕り!?」
「そうよアレフ君。捕まえて街の衛視に突き出して報奨金! わかってるでしょアレフ君!?」
そうでした。
ファラエルさんはそんな人でした……。
「アイスフリーズ! さぁ、動けない山賊どもを全員縛ったら、溜め込んでいるお宝も根こそぎいただきよ!!」




