けんせいのうわさ
「失望した! 失望したぞアレフ! 吾はお前に失望した!!」
リンゴを齧りながらシグが口を開く。
ガツガツ、ガツガツと。
まさにリンゴの自棄食いだろうか?
「シグ! 何もそんな言い方しなくっても!」
「ああ、あたしのお小遣い……あはは、あたしの、あたしのお小遣いが飛んで行ったの……」
「ファラエルさんは賭け試合にお金を全部、賭けてたんでしょう!? そうなんですよね、そうなんでしょ!?」
「あはは……さようなら、あたしの今月のお小遣い……」
ダメだこの人。
ファラエルさんってば、目が泳いでいるや。
「アレフ、大丈夫だからね、大丈夫。私はいつまでもアレフの味方だよ?」
「ジュリア……」
ジュリアが優しく俺に声を掛けてくる。
止めてくれよ。
下手な慰めは。
俺が惨めになるだけじゃないか。
やっぱり俺は役立たず、ただのダメ人間なんだ……。
「アレフ。何も心配することは無いわ。私がいつもついているからね。だからアレフは大丈夫。大丈夫なんだから」
「そんな事言ったって、俺、負けたんだぞ? しかもあんな大勢の人の前で」
「大丈夫よアレフ。また強くなって、もう一度挑戦すれば良いじゃない。辛い事なんてみんな忘れて、もう一度がんばるのよ!」
「……」
もう一度、挑戦?
何だそれ。もう一度挑戦。再チャレンジ?
止めてくれよ。希望を持たせるのは。
下手な希望を持って、それが裏切られるのは……とても嫌なんだ。
そうだよ……。
「いいえアレフ君。あなたならできるわ。だってあなたにはスキル<<才能限界突破>>があるもの。レベルの限界も、スキル習熟度の限界も突破できる。この上ない素晴らしいレアスキルよ!」
「え? それっとどう言う事? ファラエルさん」
「今言った通りの意味よ。アレフ君良く聞いて」
「うん」
「アレフ君はもっと強くなれるの。可能性ではなく、確実に強くなれる。間違いないわ。あたしね、図書館に行ってちょっとスキルについて調べて来たの」
「それって……!」
俺の謎スキル<<才能限界突破>>。
いまいちどんなスキルかわからなかったけれど、何だかいける気がして来た。
俺の目の前には無限の可能性が──未来が広がっているんだ!
そう思うと、体中にヤル気がみなぎってくる。
俺はジュリアを前に、拳を握ってみせる。
「俺、もっと強くなりたい。もっと強くなって、チャンピオンのダルガンにもう一度挑戦するんだ!」
「え!? まだやるのアレフ!?」
「もちろん! だって負けたままなんて、悔しいじゃないか!」
「うーん、仕方ないよ。だって相手は闘技場のプロだったんだよ?」
「まぁね」
「しかもチャンピオン」
「それはそうだけど。でも俺は、負けたままでいたくないんだ」
「アレフ……」
「俺はもっと強くなって、あのチャンピオンに俺は勝ちたい!」
「でも、どうするの?」
「剣聖って人を見つける」
「剣聖?」
「うん、剣の扱い方をしっかりと教えてもらおうと思うんだ」
「騎士団長さんが言っていた人?」
「そうそう」
「剣聖って言うぐらいだから、とってもかっこいい人なんだろうね。でもアレフ、そんな人どうやって探すの?」
「騎士団長さんに聞く。何か知ってると思うから」
「ああ、その手があったね!」
「うんうん!」
◇
俺はお城に騎士団長さんを訪ねていた。
「剣聖様?」
「はい。騎士団長さん──ランスロットさんなら何か知っているかと思って」
「確か東の街で隠遁生活を送っていらっしゃるはずですよ? 釣りがお好きなので、毎日釣りをされているかもしれませんね」
「東の街って……ジュリア?」
「私たちの街よ!」
「アレフ君の街でしたか」
「うん、ランスロットさん。俺……このジュリアもだけど、その街の出身なんだ」
「そうでしたか」
「奇遇ですね」
「俺もそう思います! それに、毎日のように釣りをしている人って……」
「もしかして、あのお爺さんかしら!?」
「河原で毎日のように素振りをしていると、『腰が入ってない』なんて言ってくれていたお爺さんかも!?」
「きっとそうよ! アレフ君、そう言えばいつも指導を受けてたじゃない!」
「あの人が剣聖さんだったんだ!」
「意外ね……でも、良かったじゃない。それらしい人が見つかって」
「そうだね」
「でも、ただ『剣を教えてくれ』って言っても、あのお爺さん──いや、剣聖さんは俺に剣を教えてくれるかな!?」
「そんなの考えるのは、まだ後々! とりあえずお爺さんに会いに行かなきゃね! ね、アレフ君?」
「え? ファラエルさん?」
「だって、あのチャンピオン、ダウガンにもう一度勝負を挑むんでしょ!?」
「ま、まぁそのつもりだけど」
「その時こそ、あたし今度こそ賭けに勝って見せるわ! だから頑張りなさいなアレフ君。このあたし、お姉さんのためにもね!」
「ファラエルさん?」
「ね、アレフ君? 頑張ってあたしのお小遣いを増やしてね!」




