さそい
「さすがアレフ! 吾の騎士を名乗るだけの事はある!! よく王国騎士団長の誘いを断ったな!!」
「まぁね、だって俺はまだまだ冒険するんだ」
「アレフ、でももったいなくなかったの? 騎士団長さん自らの、王国騎士団へのお誘いだったんだよ?」
「良いんだよ。その気になれば、またチャンスはあるさ」
「でもでも、騎士団へのお誘いなんて凄いことなのに!」
「良いんだよジュリア。俺はジュリアと一緒にもっと冒険をするんだ」
「アレフ……」
気のせいか、ジュリアの頬が赤い。
「アレフ君は暢気ねぇ。人生そう何度もチャンスは巡って来ないわよ?」
「大丈夫! 俺はみんなと冒険するんだ! もっともっと! そしてもっと大きな事をやる! ドラゴンの一匹や二匹やっつけたぐらいじゃ俺は満足してないんだから!!」
「もう、アレフったら」
「さすがアレフ君も男の子ね。そうよ、夢は大きく持たなくっちゃ」
◇
「アレフ君、強くなりたい? もっともっと強くなりたい?」
「え? ファラエルさん」
「<<鑑定>>
アレフ 人間 男 15歳
冒険者レベル:20
スキル:剣士 習熟度S
竜殺し 習熟度D
才能限界突破
うーん。もう習熟度がSなのね。でも、<<才能限界突破>>って何かしら。レベルの制限がないって事? それとも習熟度がもっと上がるって事なのかしら。ちょっと調べてみましょうか。後で調べておくわねアレフ君」
「なー、ファラエル。アレフはどこまで強くなると思うのだ?」
「<<才能限界突破>>ってあるぐらいだから、どこまでも強くなるんじゃない? まだ詳しく調べていないから、なんとも言えないけれど」
「そうか、アレフはどこまでも強くなるのか……凄いな!」
「うん、アレフは凄いね!」
「そうねぇ、お姉さんもアレフ君がどこまで強くなるのか、楽しみだわぁ」
「俺、もっと強くなれるのか?」
「かもね。そうだ!」
ファラエルさんが大きく両の掌を打つ。
「アレフ君、腕試し……する? いえ、是非しましょう!」
「腕試し?」
「そうそう!」
と、ファラエルさんは意味ありげにニンマリ。
◇
闘技場の大歓声の中に俺はいる。
どうしてこうなった?
観客席に目をやる俺。
紙の束を掴み、手を振り回し叫ぶファラエルさんの姿が見える。
「いけーアレフ君! チャンピオンなんてやっつけちゃえー! そしてあたしに万馬券!!」
……。
どうやら、この試合、俺の勝ちに小遣いを注ぎ込んだらしい。
手に持っているのは賭け試合の札だろう。
「アレフー! 頑張ってー!」
「勝って吾にリンゴを持って来るのだアレフ!!」
「挑戦者は竜殺しだ!」
「あの竜殺しのアレフだぞ!?」
「勝ってお願いアレフ君! お姉さんはアレフ君に全額賭けたの! 負けたらお仕置きだからね!?」
なんだか物凄く邪念が混じっている声援を背中に受けつつ、俺は相手、チャンピオンに向き直る。
鋼のような筋肉の鎧。一回りも二回りも大きな体の大男。
ダルガン。それがこの男、常勝無敗のこの男の名前だ。
得物は巨大な両手剣。
「『竜殺し』……まさかこんなガキとはな!」
「俺は勝つ!」
「良い度胸だ。俺はチャンピオンのダルガン。容赦しねぇぜ!」
試合開始の銅鑼の音と共に、膨れ上がるチャンピオンの体。
まるで押しつぶされるかのようなその気迫。
違う、ダルガンが俺に迫ってきてるんだ!
ブオッ!
大剣が振るわれる。
剣で弾こうととし、赤い火花が上がる。
ギギギと軋む。
「どうだ小僧! 銀級か。ドラゴンを屠った力がどれほどのものかと思っていたが、まだまだ力が足りないなお前!」
「力勝負……俺は、それでも負けない!!」
鍔迫り合い。
もう少しで鼻と鼻がくっ付く距離。
押しては引いて、引いては押す。
「小僧、戦いはこんなものじゃないんだぜ!?」
胴に激しい衝撃。
鍔迫り合いの最中に、何とダルガンが蹴りを入れたのだ。
「くはっ!?」
一瞬息の詰まる俺。
剣を握る力が緩む。
ガキン!
剣が弾き飛ばされた。
銀色の軌跡が宙を舞う。
ダルガンが大剣を投げ捨てて──俺の顔面に拳を一撃!
「うわぁ!?」
迫る拳は目の前に!
誘いか、と思ったときには遅かった。
激しい痛み。
「アレフー! 起きろー! 俺でも吾の騎士かーーーー!」
「ちょっとアレフ大丈夫!? 」
「今月のお小遣いがーーーーーーー!!」
ふらりと揺らめく俺の体。
俺の目の前は闇に包まれた。




