きしだん
「ぷはー。今日のリンゴも美味いのだ! やっぱりアレフが選んでくるリンゴは美味いな!」
と、リンゴを齧りつつシグ。
「そう言ってくれると嬉しいよ」
「そういえばアレフ、アレフにお客さんが来たのだ!」
「お客さん?」
「お城から来たらしいぞ? アレフがいないから帰ったのだ!」
「ええと、誰?」
「騎士団長って人だった!」
「騎士団長!? 王国騎士団長!?」
「おお! そうそう!そんな事も言ってたのだ!」
「騎士団長が俺なんかに何の用なんだよ」
「知らないのだ!」
「アレフ……もしかして何か悪いことしてないよね!?」
「何言ってるんだよジュリア!?」
「アレフ君……ムキになって否定するところ、怪しいわね」
「怪しくない、怪しくないからファラエルさん!?」
「アレフ君、あたし達に隠れてあんな事やこんな事をしちゃってたり?」
「止めて止めて!? 変な噂流さないでファラエルさん!?」
「本当なのアレフ! 嘘つかないで! 本当の事を言ってアレフ。私、私ね、何があってもアレフのこと信じているから!」
「だからジュリア、俺は何もいていないんだってば!」
◇
俺は王城に向かって歩いていた。
「どうしてみんなついて来るんだよ」
「アレフ、アレフは本当に何もしてないの?」
「ジュリア、だからね、俺は別に何も悪い事はしていないよ」
「それはどうかしらねアレフ君。アレフ君は色々王都で目立ってきたから……気づかないところで何かやっちゃってるのかも……」
「嫌ぁああああ! アレフアレフ、本当に大丈夫なの!? 一体アレフ、どうしちゃったの!? ねぇ、答えてよアレフ!?」
「落ち着けよジュリア! 俺は無実だってジュリア! ファラエルさん!? 変にジュリアを煽らないでよ!?」
「それはそうと、お城に着いたわよ?」
「止まれ! 何者だお前達は! この怪しいやつめ!」
「って、こいつ『竜殺し』のアレフ!」
「あのアレフ!? ……あの、どのような御用向きで?」
片方の衛兵がもう片方の衛兵の耳に耳打ちした時、衛兵の態度がガラリと変わった。
「あの、王国騎士団長さんが俺に面会に来たと聞いて。それで今日は、俺の方から何事かと聞きに来たんです。良かったら取り次いでもらえませんか?」
「す、少し待たれよアレフ殿!」
あれ? 俺の名前、いつの間にか呼び捨てから『殿』付けに変わっているんですけど。
一体この王都で俺の噂はどうなっているんだよ。
◇
「君がアレフ君か。探していたよ」
出てきたのはロングソードを腰に下げた、髭がダンディなおじさん。
その身のこなしは軽く、油断のなく隙のない動き。
「私が王国騎士団長のランスロットだ」
「アレフです」
「吾はシグルデだ!」
「……ジュリアです」
「あたしも名乗るの? ファラエルよ、騎士様」
「君がドラゴンを倒したと言うのは本当かい? 良かったらその武勇伝、私も興味があるな」
「本当だぞ!? アレフはブルードラゴンを倒したのだ!」
「そうそう! アレフったら凄いの! 一人で、それも素手でドラゴンを倒したの!」
「そうね、アレフ君は凄いわ。生贄を次々と要求していたブルードラゴンをあっさりと退治するなんて」
「なんと! ブルードラゴンを素手で!」
「と、なるとアレフ君は剣技ではなく体術が得意なのかな?」
「いえ。俺は<<剣士>>です。<<剣士>>スキルを持っています」
「でも君は、ドラゴンを素手で倒したのだろう?」
「はい。<<竜殺し>>のスキルも持っていますから」
「何だって!? <<竜殺し>>のスキル!?」
「ええ。ですから俺は正真正銘の『竜殺し』を名乗れるんです。その力の程は、この前のブルードラゴン戦で試しました」」
「それに<<剣士>>……上級スキルじゃないか。一つ、手合わせを頼めないか?」
「構いませんが……騎士団長自らが?」
「なに、訓練だよ。君の力が見たいんだ」
「おお、アレフ! 騎士団長なんてやっつけてしまえ!」
「アレフ!? 騎士団長さんと勝負って何!? やっぱり大変なことなんじゃない!!」
「まぁまぁジュリアちゃん。ジュリアちゃんはアレフ君を信じないの? ……違うわよね、信じているわよね?」
「ううう、ファラエルさんってば、その言い方はズルイです……」
◇
城内の練武場。石造りの塔の中にそれはある。
重なり合う剣の音、それは甲高く響く。
「やるな? アレフ君」
「騎士団長さんこそ!」
「ランスロットで構わんとも」
「じゃあ、ランスロットさん行きますよ!?」
俺はランスロットさんの剣が下がった瞬間を狙って床を蹴る。
迫る胴、縮む距離。
「掛かったな! アレフ君!!」
「なっ、誘いか!?」
煌く剣閃。
ランスロットの剣が閃いた。
ガキン!
金属音。
気づけば俺はランスロットさんの剣を弾く。
そして返す刃を首筋へ。
「勝負ありです、ランスロットさん」
「さ、さすがだなアレフ君。アレフ君はドラゴンを倒すだけではなく剣の腕も一流か! やはり私の睨んだとおり! 私が負けたのは剣聖様以来だ……どうだアレフ君。騎士団に入らないか?」
「え?」
喜ぶランスロットさん。
だけど、俺は聞き返すしかなかった。




