としょかん
「アレフは最近リンゴの買出しをサボっているからな!」
「ごめんよシグ。そんなのじゃないんだ。ただ俺は自分に正直に生きてるだけ──」
「アレフは吾の事などどうでもいいのだ。吾の騎士だと言うのに……アレフ。吾に対する愛はないのかー!」
「あはは、あ、はい」
「ええいアレフ! お前など!」
「はいシグ、リンゴ」
「おおおおおおおおおお! わかっておるではないかアレフ! うん、うんまうんま」
シグは俺の差し出したリンゴに齧り付く。
「シグ、今日は図書館に行かないか? それにみんなも」
◇
ここは図書館。
静かな空間。
並ぶ紙の匂い。
「これは……凄い量の本だな」
「本が一杯あるのだ……!」
「本当! 凄いねアレフシグちゃん!!」
広い入り繰りを抜けると、ファラエルさんが色々手続きをしてくれた。
「竜人族について調べるのね?」
「そうですファラエルさん」
「失われた竜人族、幻の民族……見つかるかしら。ドラゴンと人とが共存していた時代の話でしょ? 相当昔の書物じゃないと……」「でもでも、王都の図書館に行けば何でもわかるって、街の神父さんは言ってましたよ?」
「そうね、ジュリアちゃん。普通の事ならね。でもまさか竜人族に関するお話、文献となるとさすがにどうかしらね」
「そうなんですかファラエルさん?」
「えー!? じゃぁ、シグちゃんの仲間の話はわからないんですか!?」
「シグは何も覚えてなさそうだしな……」
「何を!? 吾は竜人族の皇女、シグルデだ! 吾ら竜人族はドラゴンにその身を変じる民! だが、その力を簡単に見せる事は無い!」
「俺は簡単に食われたんだけど……」
「あれは不味かったな! 本当に美味しくなかった!!」
「あーはいはい」
ええと、手分けして探しましょうか。
「ええと、シグルデちゃんは文字読める?」
「絵ならわかるのだ!」
「あー……ええとね、昔話の本を探してね? ドラゴン出てくる本が良いわ。ええと……」
看板は『児童書』
「ここね、ここでシグルデちゃんは本を調べてね? ええと、ドラゴンが出てくる昔話の本を集めて?」
「わかったのだ!」
シグ……。文字、読めなかったのか!
でも絵本を早速集めている今のシグ、栗色のツインテールが揺れる姿はあれはあれで可愛いかも……って、可愛い!?
気のせいだ、きっと気のせい。
「あたしは古文書を調べるから、アレフ君とジュリアちゃんはこちらの棚をお願い。
看板は『歴史・民俗』
「わかった」
ジュリアがうなずく。
ええと、竜人族竜人族……。
◇
「アレフアレフ! この本なー? 絵が一杯で綺麗なのだー!」
「へー。よく見つけたなシグ。偉いぞ?」
「当然だ! 吾は元々偉いのだからな!!」
ええと、何々?
古の昔、人とドラゴンがお互いに手を取り合い、力を合わせて世界を作っていた時代がありました。
時代が下るに従って人はその数を増やしましたが、ドラゴンの数は減るばかり。
いつしかドラゴンは世界の端々へと追いやられていました。
そして人が気づいたときには、ドラゴンが人の前に現れることはめったになくなりました。
──。
俺はそんなドラゴンに二回も食われかけたんだけどな!
◇
「竜人族の秘密。それは竜人族だけが知っているらしいわ。古文書にも詳しいことは書いてなかった」
「当然なのだ! 竜人族の秘密は皇女であるこの吾だけが知っている!」
「竜人族がどうしてドラゴンと人、その両方の姿を取れるのか……それについてもわからなかったわ」
「そうであろう、そうであろう! 吾らがそうそう容易く秘密を漏らすわけがないのだ!」
「シグ、はいリンゴ」
「おおおお! アレフ! 食べていいのか!?」
「ああ、もちろん」
「うんまうんま」か
「で、シグ。シグはどうやってドラゴンの姿になったんだ?」
「そんなのは決まっている! 竜石があれば吾ら竜人族はドラゴンの姿に変身できるのだ! ……ぁ」
「それが竜人族の秘密か」
「なるほどね、それが秘密なのね」
「あ、あああああ。あうあうあう、ち、違う! 竜石なんてなくてもドラゴンになれる! いつでもなれるのだ!! 本当だ、本当だぞ!?」
「ありがとうシグ。はい、もう一個リンゴやるよ」
「ありがとうなのだー! うんまうんま」
「そうなると竜人族は世界のどこかにまだいるかもしれないわね……その竜石を隠し持って。人に混じってどこかで生きているに違いないわ」
「じゃぁ、ドラゴンそのものと竜人族は違うのかな?」
「それはどうでしょうね。元々違う種族なのかも。なにもわからないわ」
「ドラゴンはドラゴン。竜人族は竜人族って事?」
「さぁ。あたしに聞かれてもね……」
「……あ、シグ。はいリンゴ」
「くれるのかアレフ!?」
「ああ。それでシグ、ドラゴンと竜人族って別物なの?」
「うんまうんま……ん? 知らないのだ。全然わからないのだ! ……って、ぁ」
「これも竜人族の秘密か」
「し、知らないのだ! ……い、いや、分からないのだ! ……い、いや、そうではなく、あうあうあうあう!」
「そう。古文書には竜人族について書いてなかったのよね……あたしの調べ方が足りないだけかもしれないだけかもだけど」
「結局は手掛かりなし、か」
「いえ、可能性は残されているわ。シグルデちゃんの世界の仲間がどこかで隠れ住んでいる可能性ね」
「そうですね、ファラエルさん」
「何の話をしているのだ? それよりもうリンゴは終わりか? アレフ?」




