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じゃきょうのおしえ?

「アレフ! この前は災難だったな、はっはっは! 笑いすぎて腹が減った。リンゴをくれ!」


 ああ、あの腹が捩れるほど笑わされた笑い箱の件ね……次からは依頼を選ばないとな、うん。


「あー。あの笑い箱な。うん。今度から注意するよ」


 と、そんな時だ。

 テーブルに飛び込んでくるジュリアがいる。


「アレフ聞いて! ライア様の危機よ!」

「はぁ? いきなり何を言い出すんだジュリア」

「神様のお告げを聞いたって人が市場の広場に来てね、王都の人々の悩みを聞いているの!」

「別に悪い事でもなんでもないじゃないか」

「ダメよアレフ! 神様はライア様だけで充分なの! ライア様こそが人類の救いであるべきなのよ!」

「おいジュリア、俺にはお前のほうがアブナイ人に思えてきたぞ」

「何言ってるのよアレフ!? ライア様の素晴らしさが分からないなんて、人生の半分以上を損してるわ!!」


 ◇


 そこは広間の真ん中。

 一人の女の人を囲んで人だかり。


「ほらアレフ! あの女の人! あの見てくれだけは綺麗な女の人よ!!」


 うん。

 あー確かに。綺麗な金髪の女の人がいるな。


「悩む事などありません。悩みのあるときは休みましょう。休んで良いのです。あなたの変わりに働く人のことなど考える必要は無いのです。その人が疲れて休めば、他の人が変わりにやりますから」

「……」

「あなたは良く頑張ってます。いいえ、それが他の人にはわからないだけなのです。気にする事はありませんよ?」

「……」

「頑張らなくても大丈夫。ごらんなさい。あなたの他に、あなた以上に頑張っている人が他にいますか? いないでしょう?」


 人だかりが出来ている。


「あれよ! あれ! 怪しいことばかり言ってるでしょ!?」

「アレフー。リンゴなのだー」

「あー、リンゴなー。ちょっと待ってくれよシグ」

「むむむ、ここは素直に待ってくれないとリンゴを買ってくれないから待つのだ」


「我慢する必要はありません。自分に素直に生きて良いのです。大丈夫です。他の人も自分に素直に生きてらっしゃいますよ?」


「もー! 勝手な事ばかり! ちょっと頭に来ないアレフ!?」

「リンゴー。まだなのか?」


「怒る事などありません。イライラする事もないのです。自分に素直に生きましょう。あなたが立派に生きている事は、あなた自身が一番良く知っています」


「ああ言えばこう言う……!」

「なぁなぁアレフー」


「人は勝手な物言いをするものです。あなただけが我慢する必要なんてどこにもないのですよ? 好きに生きましょう。もっと気持ちを楽に持って良いのです……」


 ああ、そうだよな。もっと好きに、自由に生きて良いんだ。

 俺はスキルを貰った。

 この力で、もっと好きに、自分に正直に生きて良いんだ!

 何もみんなのために力を使わなくったって、自分のために、自分のためだけに──。


「──そう、あなたにも自由の翼があるのです。自由に生きて良いのです。もっと自分に正直に──」


 もっと自分に正直に。

 うんうん、良い言葉だ!


「ちょっとアレフ! 聞いてるの!?」

「そうなのだ! 早く早くリンゴぉ!」


 どげし!

 後頭部を叩かれる。

 ぐらぐら。

 胸倉を掴まれて揺さぶられる。


 ──って。

 俺、いつの間にか惹き込まれてた。

 俺、いつの間にかあの女の人の話に──。


「一体何なのよあの女!」

「そんな事よりもリンゴぉ!」


「もっと自分に素直に。もっと自分に正直に。もっと肩の力を抜いて。もっと楽に生きましょう」


 そうだよ、そうなんだよ。

 今まで苦労してきた。

 今まで嫌な事も嫌と言えずに我慢してきた。


「あなたは良く頑張っています。あなたは良くやっています」


 ──そう、もう我慢する必要ないんだ……!


「もう良い! 帰るわよアレフ!」

「リンゴぉ……」

「はいシグちゃん。リンゴ。これで良い? もっといる?」

「もっとたくさん食べたいのだ!」

「そうよね、はいシグちゃん。どう? 持てる?」

「かごに一杯なのだ! 大丈夫なのだ!」


「あなたは素晴らしい人。今はただ、疲れて力が出せないだけ。休んで良いの。もっと自分に素直に正直に。もっと楽に生きましょう──」


 ◇


「それでですね、アレフったらあれからずっとこの調子なんです」

「ちょっと困りものね、ジュリアちゃん」

「ですよね、ファラエルさんもそう思いますよね!?」

「そうねぇ……」

「俺はもっと自由に、俺はもっと正直に……!」

「何洗脳されてるのよアレフ!? いい加減目を覚ましなさいよ!?」


 俺は疲れてなどいない、まして洗脳されているなんてとんでもない!

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