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はっはっは

「凄い活躍だったなジュリアは! そうは思わないかアレフ!」

「そうだね、ジュリアは頑張ったよ」

「そんな、私……結局怖がってばかりで……」

「そんなことないって! 何事も一歩一歩だよ。そのうちジュリアもアンデッドに慣れるさ」

「そうとも! ジュリアは頑張った! だからこうして今日もリンゴが美味い! はっはっは!」


 シグの意味不明なバカ笑いは置いておくとして。

 ジュリアは頑張ったと思う。

 結局今回も「キャーキャー」言い回っていたけれど、結局はジュリアが幽霊を退治してくれた訳だし。


「そうね。ジュリアちゃんは頑張ったわ。そしてアレフ君、そんなジュリアちゃんに力をあげたのはアレフ君よ?」

「え?」

「もう! お姉さん羨ましいわ~。ね、アレフ君?」


 しなを作ってファラエルさんが片目を瞑る。

 そしてジュリアは耳まで顔が赤くなる。

 うーん。

 俺、何かジュリアにしたのかな?


 ◇


「アレフさん、アレフさん? もしくはファラエルさん? ファラエルさんは、おられますか?」


 それは受付のシンディさんの声。

 流れる金髪が煌いている。


「なにか?」


 と、俺に気づいたシンディさんはトトトと俺に寄って来る。


「ご指名の依頼です。魔術学院からです」

「魔術学院!?」


 ファラエルさんが炎の魔術師たちの伸びた鼻を圧し折った場所。

 日陰者のファラエルさんが毛嫌いしていた場所。

 そんな魔術学院が、俺たちを指名してきた?


 ◇


 俺はみんなにその話をした。

 すると絡まれる絡まれた。ファラエルさんがムキになって噛み付いて来たんだ。


「どうして依頼を受けたのアレフ君。あたし……お姉さんは怒らないから、これがどう言う事か説明してもらえるかしら」

「いや、そのあの……報酬が破格で……ちょっとお金に目が眩んだんですごめんなさい!」

「そう。それで? どんな内容の仕事なの?」

「なんでも魔術学院のお偉いさんが大ポカをやっちゃったみたいで、魔法のアイテムを無くしたとか。そしてそれが厄介な物らしくて……」

「何その依頼! めちゃくちゃ怪しいじゃない! どう考えても面倒よそれ!?」

「そうかな?」


 そんなに怪しい依頼だったのかな?


「で、それってどんなアイテムなの?」

「直接、その無くした人が教えてくれるらしいんです。話を聞きに行きましょう?」


 ◇


「で、導師、話してくれるかしら」

「うむ研究のために封印の間から出したは良いものの、なぜかどこかのバカ者が金目の物と勘違いして盗んで言ったのじゃ」


 老魔術師──導師だそうだ──は実に軽く言ってくれた。


「あ、あの……それは危険なものなのですか?」


 俺はファラエルさんと老魔術師の会話に割り込む。


「ああ。魔神の作った厄介極まるアイテムでな? 実害は無いのじゃが、とにかく騒動になるのは間違いない」

「魔神!?」

「そうじゃ。悪魔は人の嫌がる事を心の喜びとして糧とするからの。その「人の嫌がること」をするのがあやつら、悪魔の役割じゃ」「どうしてそんな危険な物の封印から解いたんです!?」

「研究のためじゃ。魔神の作ったアイテムじゃが、何とか人の役に立てる事はできぬかと思っての……」

「もう良いでしょアレフ君。それで導師、誰に盗まれたのか心当たりは?」

「ない! じゃが、直ぐアイテムの在り処はわかる筈じゃ」

「なら、どうして自分で探さないんです?」

「言ったじゃろう。あのアイテムは危険なのじゃ。それに年寄りにはちと辛い」

「……?」


 ◇


「笑ってる人が怪しい!? なにそれアレフ」

「笑うアイテム!? 何だそれは! 食えるのか!?」

「……食べものじゃないと思うよ、シグ」

「なんだ、残念」

「とにかく、聞き込みだ」

「……そうね」


 ──こうして俺達は「近くに笑っている人物がいないのか?」などというバカな聞き込みを始めたのだ。


 ◇


「ハンスの奴がおかしいんだよ。急に笑い出したと思ったら笑い声が止まらなくってさ……その箱を捨てたとたん笑い止んだんだ」

「エリスが箱を拾ってきたんだけど、エリスったらおかしいんだ。狂ったように笑ってて……綺麗な箱だったけど、気持ち悪いからその箱は捨てちゃった」


 笑いの箱。

 それは噂と共に多くの人手に渡っていて。


 ◇


「結局、箱の在り処はわからなかったなアレフ!」


 とリンゴを齧りつつシグ。


「そのうち見つかるよ」


 と、その時。冒険者ギルドの門を潜る怪しすぎる笑い男がいた。

 その姿はどこかで見た事のある吟遊詩人──エリフキンさんだ!


「あははははははは! あっはははははは、ははは、ははは、ははははは!」

「苦しそうな笑い声だな? って、エリフキンではないか!」

「エリフキンさん!」

「あっははははは! アレフさん、あははははは! 君達がこの箱を探してあはははは! 聞いてね、あっはははは!」

「エリフキンさん!?」

「ほら、渡すよあっはははは!」


 そしてきらりと輝く小さな小箱が投げられる。


「いただきなのだ!」


 ストン。


「はっはっは、手に入れたのだーはっははっは、は? わ、笑い声がわっはははは、と、とまらなはっはっは!」


 箱を手にしたシグの笑い声が止まらない。


「お、おいシグ?」

「はぁ、はぁ、疲れたよアレフさん。笑いを届けるのが僕の仕事だけど、こんな笑いはちょっとね」

「はっはっは! はっはっは! おいアレフはっはっは! なんとかしろはっはっは!」

「確かに魔神の作ったアイテムね。ああ、恐ろしい──あははははは! どうしてシグルデちゃんあはははは! あはははは! あたしに渡すのよあはははは! ほ、ほらジュリアちゃん!?」

「い、いらないですあははは! あはははは! た、あはははは! 助けてははははは! ライア様はははははは! アレフあはははは!」

「いや俺に押し付けるなよジュリあはははは! あっははははは! あははははは!!」


 酒場は今夜も笑い声が止まらない。

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