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ようかんのおそうじ

「んぐんぐ。しかしアレフ、人間は何を考えているんだ? 悪い事をした山賊がどうして三度も襲ってくるのだ」


 シグが珍しく真面目な事を聞いてくる。

 手にはもちろん、リンゴだ。


「さてね。牢番がマヌケなんだろ。毎回脱走でもしているんじゃないか?」

「それでは四回目があるのか!? またあいつ等の相手をしなくちゃいけないのか!?」


 シグが身を乗り出し、俺はのけぞる。

 ペタンコな胸が際立った。


「どうだろうなー。でも、もしそうだったとしてもまた返り討ちにしてやれば良いだろ? ほら、リンゴ」

「おおお! さすがアレフ! 用意が良いな! ……では早速……うんまうんま、美味いぞアレフ!」


 ◇


 今、俺の目の前には一軒の古ぼけた洋館がある。


「おー。何なのだここはアレフ」

「やだアレフ……またお化けでも出そうなところじゃない!」

「元貴族の屋敷だよ。長い間、誰も済んでなかったらしいんだ。ほら、庭木は荒れてるし、屋敷の中もどうなってる事だか……」

「でもどうしてここの調査を? ねぇアレフ君」

「金持ちがこの家を改装して住みたいらしい。物好きもいるよね」

「ここに住むのか? 面白そうだな! 早く住みたい! いつからなのだ!?」

「良く話を聞こうな、シグ。住むのは俺たちじゃなくて、依頼人だから」

「なんだ、そうなのか……」

「アレフ君、そこで依頼人から屋敷を本格的に手入れする前の下調べをお願いされたって事ね?」

「そうです。……簡単な仕事でしょう?」

「そうね。あたしの氷の魔術に今回の出番はなさそうね」

「ちょ、アレフあの窓見て窓!」

「どうしたんだよジュリア」

「今ちょっと、何か動いたんだけど……」

「風だろ? きっとどこかの窓が開いているんだろ。まぁ、どう考えても楽勝っぽい仕事だし、手早く終わらせようよ」

「ええと、蛇や大蜘蛛、大ネズミくらいは住み着いているかも。一応注意して──って、聞いてるジュリアちゃん?」

「やだやだやだ、アレフ怖いって! ファラエルさんも怖いってば!?」


 ◇


 ギィイイイイイイイイ……。

 軋む扉を開けて、俺たちは玄関を潜る。


「ごめんくださーい」

「何言ってるのよアレフ君。無人なんでしょ?」

「はい。でも一応」

「そう。この屋敷には誰か見えない住人が住み着いているって言うのね、アレフ君は」

「ひぃいいっ!?」

「うわ、確かに蜘蛛の巣だらけ……良くこんな家、住みたいなんて言い出す物好きがいたものね」

「さぁ……お金持ちの気持ちは俺にはわからないよ」

「うんまうんま。それで(われ)は何をすると良いんだ?」

「とりあえず周囲に注意して。何か住み着いているかもしれないから」

「わかったぞアレフ!」

「ほ、本当に大丈夫なの……? お化け、いない?」

「ジュリア……大丈夫だと思うし、もしゴーストがいたとしてもそれこそジュリアの出番だろ?」

「やっ、やだやだやだ! お化け怖い!?」


 ◇


 別に、何もない。

 蜘蛛の巣が張っている程度。

 特におかしなところは無い、この屋敷。


 とっとっと、たったった……。

 ステップを踏む音が聞こえる。


 二階に上がって部屋を調べているときだった。


 それはシグが入っていった部屋の中から聞こえる。


「うわわ、アレフ、アレフ~!?」


 おい、シグ!?

 俺はその部屋に飛び込む。

 見れば、右手は上に、左手は下に。

 そうと思えば右手は下に、左手は上に。

 シグが変な踊りを踊っていた。


「シグ、何してるんだ? 先に行くぞ?」

「って……あり?」


 見れば、シグの向こうにクネクネ踊る色鮮やかな模様の蛇が一匹。

 体が勝手に動く。シグの踊りに誘われる。


「お、俺の体が勝手に……!」

「な、蛇!?」

「どうしたの!? シグちゃん、アレフ!」

「ダメだ来るな!」

「アレフ!?」


 ジュリアが顔を出した。

 その視線はまず俺たち、そしてクネクネ動く蛇に注がれて。


「なに踊ってるのよ。しかもキレッキレの変だダンス!」

「ちょっとどうなっているのだアレフ!」

「知らないってば!」

「ちょっとどうなっているのよアレフ!」


 ジュリアも釣られて踊り出す。


「あはは、そういうジュリアも変な踊り踊ってるじゃないか!」

「好きで踊っている訳じゃないってば! ちょっとアレフ!?」

「あの蛇の動きが怪しいんだけど!?」

「確かに手足がこいつの動きに合わせて動くんだよ!?」

「あはは、アレフ変な格好!!」

「笑うなジュリア! それを言えば今のお前だって!」

「何よ」

「何だよ」


 蛇が体をくねらせる。

 どんどん動きが早くなる。

 釣られて俺たちの踊りの動きも早くなる……!


「アレフにジュリア、(われ)を助けるのだ、疲れたのだ~!」

「も、もしかしてこの蛇、私たちが疲れて動くなった頃に襲い掛かってくるんじゃ!?」

「何それもう! アレフ、どうにかして!」

「それは俺の台詞だって! ファラエルさん、ファラエルさん助けて! 変な蛇がいるんだよ!!」


 ああ、目が回る。

 目が回って回って……うう、もうダメだ。


 それは、俺が倒れるのと同時。


「アイスアロー!」


 部屋の入り口からファラエルさんの魔術が放たれたんだ。


 ◇


「あはは。三人とも最高だったわ! 特にシグルデちゃん。今度ステージの上で踊ってみない? きっとみんなの人気者になれるわよ?」

「見てたのかよ!?」

「アレフ君とジュリアちゃんも上手だったわよ?」

「忘れてよ!」

「そうよ、ファラエルさん! あの事は早く忘れて!」

「三人で踊りのユニットデビューしないの?

「「しません!」」

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