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しょうねん

「おい。そこの人間」


 リンゴを齧りながら、不機嫌そうにシグが吐く。


「な、なんだよって……ガキじゃないか」


 ここは薄汚れた裏通り。

 表の明るさや華やかさとは縁のない影の場所。


(われ)を子ども扱いするな! 吾は竜人族の皇女シグルデ! おまえのようなコソ泥のガキとは違う!」

「お、お前この前竜殺しと一緒にリンゴ魔神!」

「リンゴ魔神とは何だリンゴ魔神とは!!」

「け、捕まるかよ!」


 少年はシグから飛び退るかのように駆け出した。


「ファラエル! 逃がすな!!」

「アイスフリーズ!!」

「うわぁ!?」


 地面から伸びる氷の柱。それがたちまち少年の両足を覆い尽くす。


「冷たい、冷たい、冷たい! どうなっちゃうんだよ俺の足!!」

「財布を返せ」

「な、何の事だよ」

「ジュリア、こいつの体を調べてくれ」

「うん。シグちゃん。この子なのね、本当に……」

「人間は油断も隙もない。アレフの言う事はもっともだった」

「お、俺に何をする気だよ!?」

「何もしない。財布を返してもらうだけだ」


 ジュリアが少年の体を探る。

 そして、ゴールドの詰まった皮袋を見つけたようだ。


「アレフが言っていた。覚えておけ人間」

「え?」

「『金貨を一枚くれてやる。盗みは止めろ。困る人が出る悪い事をするな』だ、そうだ」


 チャリン……。


 シグが一ゴールド少年に投げて寄越す。


「さて、ファラエル、ジュリア。これでアレフ財布は取り戻した。かなり軽くはなっていだろうがな」

「掏られる方が悪いんだ!」

「それは知らん。良く考えろ人間。ファラエル、ジュリア。帰ろうアレフの元へ」

「ちょ、ちょっと! 魔術を解いてくれよ! 冷たいよ!!」

「罰よ。一時間もすれば術は解けるわ。解けた後は良く体を温めておくことね」

「女神ライアは全てを見ているわ。今までのあなたの行いを。……そしてこれからのあなたの行いもね! だから、頑張ってね!」


 ◇


「おいアレフ! あの小さな人間から財布を取り戻してきてやったぞ!」

「やっぱりあいつだったのか」

「残念だったがアレフ、お前の予想通りだった」

「仕方ないさ。俺もあの店の親父の言葉が嘘とは最初から思っちゃいなかった。嘘なら良いな、とは思っていたけれど」

「そうなのか? アレフは最初からあの小さな人間を疑っていたじゃないか」

「まぁね。でも、心のどこかではそれが嘘だったなら良いな、とは思ってたいたよ?」

「難しいのだな、人間は」

「竜人族は違うのか?」

「吾らはシンプルだ!」

「リンゴ食うか? シグ」

「食べる食べる!」


 シグの目が期待に輝く。


「まぁ、確かにシンプルだ」


 ◇


「お前がアレフか? お前が竜殺しって、本当なのか?」

「なんだ、また財布を狙いに来たのなら残念だったな、今は持ってないんだ」

「違うよ! お前……孤児だったんだろ?」

「誰から聞いた?」

「吟遊詩人が歌ってた! 散々バカにされていた元孤児の冒険者が沢山の冒険を繰り返して、最後には悪いドラゴンをやっつけたって!」

「ああ、エリフキンさんか……」

「エリフキン?」

「その吟遊詩人の名前だよ。どうせお前も最近王都に来た吟遊詩人から聞いたんだろ? その歌」

「そうだけど……」

「その吟遊詩人さんの名前がエリフキン。俺の名前より、こんな短期間に歌を広める実力を持ったその凄い吟遊詩人さんの名前を覚えていてやってくれ」

「そんな! あんた凄いじゃないか! 竜殺しのアレフ! みんな言ってるよ、あんたこそ真の英雄だって!」

「俺はまだまだだよ。たいした事はしちゃいない。俺達の戦いはこれからだ。俺達の冒険はこれからなんだ」

「そ、それじゃ本当にあんたはドラゴンスレイヤー……!」

「まぁね」


<<竜殺し>>のスキルも持ってるし、嘘じゃないな、嘘じゃない。


「アレフさん……あんた、まだ冒険するのか!? もっと凄い事をするのか!? 悪いドラゴンをやっつけて、悪い魔法使いをやっつけて、悪い悪魔をやっつけて……今でも凄い英雄じゃないか! なのにまだ冒険を続けるなんて!!」


 ──ちょ!? 俺はいつの間にそんな冒険をした事になってるんだエリフキンさん!?

 ハードル上げてくれるなぁ……簡単な仕事、請けにくくなるじゃないか。


「俺はまだ冒険者を続けるよ? いや、俺はまだ何にもやっちゃいない。たいした事はしていないんだ」

「なぁ竜殺し! お、俺もさ、あんたみたいになれるかな!?」

「どうだろうな。俺はずっと役立たずって言われていたし」

「俺もいつか、あんたみたいな大英雄になれるかな!?」

「さぁね。無能無能と言われ続けていたからな」


 俺は諦めかけて、そしてシグに食われた。

 ──でも俺は……。


「生きたかった。生き抜きたかった。戦って戦って、生き延びたかった。そして今、俺はこうして生き延びている。だから今の俺がここにあるんだと思う」

「うわぁ……」


 少年の目が輝いている。

 ちょうどリンゴを上げたシグの顔がそうなるように。


「俺も! 俺も戦う! 生きる、生き抜くよ!! 頑張る! 諦めない!!」

「そっか」

「ありがとう! 竜殺し!!」

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