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スキルなし?

「「スキル無し」? 「無能」? 何を言っているのだアレフ」


 俺は依頼品の薬草を沢山つめた袋を担ぎながら、シグの話を聞いていた。


「<<鑑定>>」


 シグが何やら呪文を唱えた。魔術だろう。

 <<鑑定>>と口にしたから、きっとスキルを見る魔術なんだろうな。


「凄いではないかアレフ。


 アレフ 人間 男 15歳

 冒険者レベル:1

 スキル:剣士     習熟度D

     竜殺し    習熟度E

     才能限界突破


 これだけお前はスキルをもっているぞ。中でも竜殺しはちょっと見逃せんな。お前は(われ)が見張る。そして剣士もレアと言えばレアだが、よりにもよって才能限界突破か。レアスキルではないか」

「嘘だろ? 俺は鑑定士から「スキル無し」って判断されたんだぞ?」

「なにかの間違いではないのか? もしくはお前が吾の……ドラゴンの血を山ほど浴びたから隠れたスキルが目覚めたのかもしれんな! 良かったなアレフ! 吾に感謝せよ!!」

「そんなバカな」

「バカとはなんだバカとは! その鑑定士がへっぽこだっただけであろう! 吾がアレフに血を与えたのだ! 良いから吾に感謝せよ!」

「あ、ありがとうシグ」

「うんうん。もっと褒めろ? そして吾は腹が減ったぞ! 何せ人間は不味かったからな! 人間以外のものが食べたいぞ!!」

「いや、あの……人間は食べないでくれると助かる」

「そうか! お! あそこに赤い木の実が山のようにあるではないか! あれはリンゴか? 一度食べてみたかったのだ!」


 と、言うなり屋台に積んであるリンゴの山からリンゴを一つ取っては齧る。いや、一瞬で呑み込む。


「て、テメェ糞ガキ何しやがる!」


 そりゃ、店の親父は当然怒るわな。


「すみません!」


 俺は必死に謝った。

 つい、いつもの癖で。

 卑屈になるのなら俺はどこまでも慣れたものだ。


「お前は無能のアレフ! ああもう汚ねぇ! 金払って向こうにさっさと消えろ! 3カパーだ!」

「うんまうんま。いくつでも食えるぞアレフ! リンゴとはとても美味いな!」

「だから食うなよ盗むなよ!? すみません、本当にすみません。1シル置いておきますんで勘弁してください! お願いします」

「うるせぇ! とっとと消えろこの無能! 疫病神!!」


 ◇


 冒険者ギルドに向けて街路を歩く。

 時々シグがキョロキョロト周りを見る度にとんでもない事を起こさないかとハラハラしながら。


「人間……いや、アレフ。時に吾は思うのだが」

「なんだよシグ」

「アレフは随分と同胞から嫌われておるのだな。同じ人間ではないか」


 確かに、俺はあからさまに街の人間から避けられている。


「俺が無能さからだよ。俺がスキルなしで生きる価値すらないのは街のみんなに知れ渡っている」

「アレフは吾のおかげで素ばらしいスキルを得たではないか」

「そんなこと、まだみんなは知らないんだよ」

「早く教えてやればよいのに。さすれば、先ほどのようなことも無くなろう?」

「それはシグがリンゴを盗んだ事なんですかね?」

「吾は美味そうなリンゴがあったから食べただけだ」

「それを盗みって言うんだよ。人間の社会じゃやってはいけないことなんだ。あれは売り物なんだから」

「売り物?」

「お金と交換して手に入れるんだ。ほら、俺が親父さんに銀色の硬貨を一枚渡したろ?」

「おお!」

「『おお!』じゃないよ。痛い出費だよ……」

「では、その『お金』とやらがあれば吾はリンゴ食べ放題なわけじゃな!?」

「そうだけど『お金』は稼がないとね。ほら着いたよ。ここが冒険者ギルドだ」

「ボウケンシャ……」

「俺たちが『お金』を稼ぐ手段さ」

「おお! リンゴが食えるのだな!?」

「違うよ。俺達が冒険者として働いて、しっかり『お金』を稼が無きゃダメなんだ」

「おお! ではそのボウケンシャ何とかとやら、見せてもらおうではないか!」


 不安だ。とても不安。

 このちチビッ子……ドラゴンだけど、何を仕出かす事か。


 ◇


「よう、無能まだ生きてたか」

「おー、スキル無し。なんだ、クエストに行ってきたんだって? お? 何だそのガキんちょは」

「俺のパーティメンバーだよ」

「へぇ。無能に付いていくパーティメンバーがいたとはね。ま、どうせ使えない奴なんだろうけど」

「アレフ! これではないのか『お金』とやらは!」


 シグの手にはジャラジャラと音を立てる皮袋。そしてそれは目の前の男の持ち物で。


「て、てめぇ俺の財布をスリやがったな!? いつの間に!?」

「すみません、こいつ、覚えたてのスリ技能を試したくて試したくて仕方が無いみたいなんで」

「ふざけんなコラ!」


 男の腕が唸りをあげる。

 ガシッ……。


 その瞬間、誰もが俺が殴り飛ばされたと思っただろう。

 だけど、俺は男の拳を左手の掌で受け止めていた。

 俺は自分でもびっくりだ。

 体が勝手に動いた。

 これが、スキルの力……<<剣士>>スキルの防御の力……。

 スキルって凄い。

 俺は改めて思った。

 スキルなし。無能。……それがどれほどのハンデだったのかを。

 

 俺はシグから男の財布を取り上げると男に返す。


「すみませんでした。俺からきつく言っておきますんで」

「お、おう。おい無能。今日はこれぐらいで許してやるが、次ぎやったら承知しねぇぞ!」

「はい。ごめんなさい」


 謝りはしたが、なんだか心が清々しい。

 俺も今日からスキル持ち。新しい世界が始まるんだ!

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