りゅうじんさまだ!
「ドラゴンだー!」
俺は叫ばずにはいられない。
シグに始めて出会ったときの恐怖が蘇る。
大きな顎、鋭い牙、巨大な体躯。
青色の鱗が煌いている。
恐怖が蘇る……って、あれ? 俺、こんなブルードラゴンを見ても怖くない。
「こいつがもしかして、竜神様って奴か……!」
「ぐおおおおおお、ごおおおおおおお!」
「……う、うーん……むにゃむにゃ……」
「すーーーー、すーーーーー、すーーー」
「アレフさん? ってアレフさん!? 何ですかこの化け物は!?」
繊細なエリフキンさんは起きたけど。
神経のず太い三つの花……三人娘はまだ寝てるんですけど!
「ど、ドラゴンだ……たぶんコイツが竜神様って奴!」
「これがドラゴン……」
「だが大丈夫だ。俺には何せレアスキル<<竜殺し>>があるからな!」
「おお! さすがアレフさん! 英雄の素質バッチリですね! でも、縛られてるじゃないですか!」
「人間。我ガ怖クハ無イノカ?」
「ドラゴンは慣れてるからな! お前なんか直ぐにでもこの俺が退治してやる! お前なんか、きっと一撃だ!」
うん、<<竜殺し>>のスキルの効果に違いない。
体の芯からホクホクする。
蓑虫となった俺はヒョイと跳び上がり、なんとか立ち上がる。
でも、両手と両足が縛られていて動かせないんですけど!
「え、えへへ……ドラゴンさん、ここは話し合いといきませんか? ドラゴ……いや、竜神様!」
「ドウシタ。先程ノ威勢ハドコニ消エタ」
「嫌ですよ、竜神様。そんな冗談でしょう? 退治? そんなこと無理に決まって……えへ、えへへ……」
「我ヲ倒スノデアロウ? 一撃デ倒スノデアロウ? ウン!?」
お、俺ピンチ!? ピンチなの!?
「貴様ヲ食ラッテカラ、ソチラノ柔ラカナ雌ヲでざーとニ……ククク、肉ハ柔ラカイダロウナァ……?」
竜の顔が近づいてくる。
だけど、絶体絶命のピンチだけど。
頭のどこかが……どうかしたものか、全然なんとも怖くないんだ。
近づいて……ん? もしかして。
俺は体を反らせて弓なりに……狙って狙って……!
ドラゴンは油断している。
こっちが何も出来ないと思って完全に油断している。
ドラゴンの顔が近づく。
今だ!
俺は反らした体をバネに、ドラゴンの鼻っ柱に頭突きを思いっきりくれてやった。
「グアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーー!」
狙い的中!
さすが俺! さすがスキル<<竜殺し>>!
俺のおでこは唸りをあげて竜神様、ブルードラゴンの鼻先を圧し折っていた。
「グォオ……キ、貴様何ヲシタ人間!?」
「俺……俺? えへへ……えへへへへ……へっへっへ、形勢逆転だな。おいドラゴンさんよ」
「ナニヲ生意気ナ!」
振るわれる爪。だが俺はそれをわざと受け、手を縛る縄を断つ。
よーし!
あとはこんな奴、俺の<<剣技>>スキルの一撃で切り裂いて……って。
おり!?
俺は腰の辺りを探る。
無い。無い。無いんだってば! 剣が無いよ!?
しまったあの村長に取り上げられたか!?
「ドウシタ人間……!」
まずい、まずいけど……頭突きは効いた。
剣無しでも何とかなるかもしれない。
そうと決めれば……!
俺は必死に足を縛る縄を解く。
よし、解けた!
それを無駄な足掻きとでも言うように、グヒヒと笑い見守るドラゴン。
よしよし、ドラゴンはまだまだ油断している。
そうとも俺は<<竜殺し>>!
剣が無くったってドラゴンなんかに負けるかよ!
ドラゴンは一歩一歩と俺に近づくと、再び爪を振るってくる!
俺はそれを捕まえた。
「ナニ?」
「こうするんだよ!」
俺は爪を逆に掴んで引き投げる。
ほら。相手は簡単に浮き上がる。
ブン! 俺はそのまま投げた。
「グアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーー!」
バシャーン!
水煙が上がる。ブルードラゴンの巨体は滝壺から引き抜かれ、俺が投げつけた滝向こうの崖に激突したのだ。
ピヨるドラゴン。
俺は駆け寄るなりドゲシドゲシと蹴りつける。
「どうしたブルードラゴン! お前の力はこの程度か!!」
「グァアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーー!」
蹴りつけ踏みつけ投げ飛ばしては壁に叩き付け。
やがてドラゴンは動かなくなった。
◇
俺の目の前には豪勢な料理が山のように盛り付けられている。
「旅の冒険者様、勇者様! この度はとんだ失礼を! 何とお詫びを、そして感謝の気持ちを伝えたら良いのか!」
「うんうん、そうだろうそうだろう。で、村長。あんたたちはバカそうな旅人を探しては宴に招き、こうして眠り薬を仕込んでいつもあの化け物……竜神様に生贄として捧げていた訳だ」
「すみません。すみません! あの竜は私たちを脅していたのです。若い年頃の娘をいつもいつも生贄に寄越せと何度も何度も要求していたのです!」
「いや、でも村長? あんたさっき確かに『バカそうな』人間を選んでいるって」
「そりゃ、捕まえるには賢そうな娘よりバカな娘のほうが罠に引っかかりやすい……ってすみません、許してください! 勇者様たちがバカだとかマヌケだとか、そんな事は一言も! ええ、そうですとも!」
「俺がたまたまスーパーな英雄様だったからこそこうして被害無く終わり、この先、二度と生贄を要求される事も無くなったわけだけど……」
「わかっております! 感謝しております! どうか、どうかお許しを勇者様! あなた様のような大英雄にこの村を訪れていただいた幸運、本当に言葉もありません!!」
村長が余りに謝るものだから、仕方なく俺は許してやった。
村長……いや、この村の人々が行ってきた誘拐儀式は当然責められるはずのものだけど、元を正せば村長や村人に罪は無くて。
……全部、生贄を要求していたブルードラゴンが悪いわけだし。
「ブルードラゴン? アレフが倒した? おお、やるではないかアレフ! さすが吾に仕える騎士! その武勲褒めてやるぞ!」
「えーっ!? アレフったら一人でドラゴンやっつけたの!? しかも小山のような大きさ? 凄い凄い!」
「アレフ君、やる時はやるのね……さすがね。あたしが見込んだ男なだけはあるわ」
「アレフさん? 正直アレフさんを見直しました。まさかドラゴンを一人で、それも素手で倒すなんて! アレフさん、あなたはまさに大英雄、英雄の中の英雄です! 早速詩を作ります! これは良い題材ですとも!」




