せきぞうのうた
「アレフ。アレフー。お前からもエリフキンにもっとお話をしてくれるように頼め! なぁなぁエリフキン、もっと面白いお話は無いのか?」
荒地を馬車で揺られてガラゴロガラゴロ、パカラパカラ。
シグがリンゴを齧りながら旅の連れの吟遊詩人にねだる。
「すまんシグ。俺、謝るよ。シグはリンゴの事しか頭にない思ってた」
「何だとアレフ! 当然ではないか! 吾だって考える! 何せ吾はもう立派な大人、一人前のレディなのだからな!!」
と、またしても無い胸を張るシグ。
「アレフ君。村が見えてきたわ」
「ファラエルさん?」
荒地が開け、緑が見える。
農地だ。久しぶりの人里……。
「おお! よくやったファラエル! これでリンゴの買い増しが出来るな!」
「やっぱりシグはリンゴのことしか頭にないんじゃないか!? どうなんだ!?」
「アレフ、あんまりシグちゃんをいじめちゃダメだからね~」
「いじめてない!」
◇
「お客さん。剣を持ってあるという事は、腕に自信がおありで?」
「え?」
宿の主人から告げられたのは、この村を訪れた冒険者に関する話だった。
「ええ、確か『遺跡』『お宝』『村の近く』と言ってらっしゃいまいた。ただ、もう一週間になりますし……まだ戻って来られないんですよね、その冒険者の方々」
「事件の匂いがするわねアレフ君。それに『お宝』と言うのが気になるわ」
「そうだなファラエル。吾も『お宝』というものに興味がある。『お宝』があればリンゴがたくさん買えるのだからな!」
「でも、どれほどの強さの冒険者のみなさんだったかはわかりませんけど、危なくないですか? ねぇ、アレフはそう思わない?」
「親父さん、その遺跡の場所に心当たりは?」
俺は聞いてみた。
「近くに石像の並ぶ遺跡があります。いつ崩れるかわからないので危なくて。村の者は誰も近づきません」
「「「それだ!」」」
「そうね。あたしもその遺跡、怪しいと思うわ。巣食っているのはゴルゴンか、それともメドゥーサか……そんなところでしょうね」
「エリフキンさん、良ければ俺達の冒険に付き合いませんか? 俺達、その冒険者たちを探しに行こうと思うのですが。ねぇみんな?」
「えええー! そんな危ないよアレフ!」
「何を言うかジュリア! 人が遭難しているかも知れんのだぞ! プリーストが助けに行かなくてどうする!」
「そうよジュリアちゃん。あなたの神聖魔術の出番かもよ!? そしてこの試練をこなせば、神様の声があなたに届くかもしれないでしょ!?」
「え? ライア様の声……そ、それもそうですね! 人助けですもんね!」
◇
クェーーーーーーーーー!! コッコッコッコッコ、コケッコッコー!
何だか大きな鳥が、俺を俺達を追いかけて来るんだよ。
「何だよこいつ!? この大きな鳥は何なんだ!?」
「アレフ君、良い質問ね。この鳥はコカトリスね。たぶん」
俺達は色々な表情、色々なポーズを取った石像の間を走り回る。
「まだ走るんですか!? 私もう疲れて……!」」
「頑張れジュリア! とりあえず石像の林を抜ける! そしてみんなで囲んでボコる!」
シグが物騒な事を言っていた。
「♪走れ、走れ、勇者よ走れ、背中から魔獣が追ってくる~♪」
「コカトリス?」
「コカトリスはね、石化のブレスを吐くのよアレフ君。だから今は一生懸命走ってね?」
「石化!?」
「シグルデちゃん、ジュリアちゃんだけは守ってあげて?」
「わかったぞ!」と、シグは息を切らせるジュリアをヒョイと担ぎ上げる。
「きゃっ」
「さぁ、石像の林を抜けるぞぉおおおおおお!」
クェーーーーーーーーー!! コッコッコッコッコ、コケッコッコー!
◇
クェーーーーーーーーー!! コッコッコッコッコ、コケッコッコー!
「お、おおお、おう。どうしてこうなった。鶏がいっぱい……」
俺達は石像の森で、沢山のコカトリスに囲まれていた。
「林じゃなくて、森に来たみたいね、シグルデちゃん」
「う、うおおお……吾のせいでは無い! 知らん知らん知らん!」
「♪石像の森で魔獣に囲まれる~♪ そうして魔獣に囲まれる~♪」
「仕方ない、ここで戦おうシグ。ファラエルさんも良いですね?」
「そうするか、仕方が無いな」
「そうね。まぁ良いわ」
「ああ、仕方ない……ってジュリアーーーーーーーー! 何してるんだジュリアーーーーー!」
シグにどさりと地面に落とされたジュリアが早速コカトリスの嘴に啄まれている。
「きゃー! アレフ助けて、私の体が石にーーーーー!」
「神に祈れ、急げジュリア!!」
「女神ライアよ、この私を助けてください! キュアストーン!!」
俺は地を蹴る、宙へ舞う。
ジュリアを苛めてくれた一際大きなコカトリスの首を剣で刎ね飛ばす。
クケーーーーーーーーー! どさり。
「悪は滅びたぞ、ジュリア!」
「あ、ありがとうアレフ」
「油断するなアレフ! 次が来る!」
クケーーーーーーーーー! ごろん。
シグの蹴りが炸裂。コカトリスが転がった。
「ブリザード!!」
カチコチ……カキコキ……どさり、どさり、どさり、どさり……。
ファラエルさんの吹雪の魔術が炸裂。コカトリスが次々と転がった。
「♪ るるる~勇者達は大きな鶏を切り倒す~次々と切り倒す~」
「やったかアレフ!」
「アレフ君片付いた?」
「こっちは何とか。ジュリア──」
「きゃー! アレフ助けて、私の体がまた石にーーーーー!」
おいおい。




