いばしょ
「アレフ! 王都までどのぐらいの距離があるのだ!?」
でこぼこの道をゆっくりと馬車は進む。
ガラゴロガラゴロ。パカラパカラ。
「そうだなー。ジュリア、知ってるか?」
「ええと……私も詳しくは知らないんだけど……途中に村がいくつかあるはずよ?」
「ファラエルさん、知ってますか?」
俺は馬車を操っているファラエルさんに聞こえるように、声を張り上げる。
「そうねぇアレフ君。王都まではそう遠くないと思うわ。だけどジュリアちゃんの言うように村が幾つかある。途中の村々に立ち寄りながら行けば、苦もなく旅が出来るはずよ?」
「さすが魔術師。ファラエルさんは詳しいんですね」
「元々王都の魔術学院に通っていたから。でも、王都に氷の魔術師の居場所はなくって」
「俺達の街にはあったのですか? ファラエルさんの居場所」
「何を言ってるの? あたしの居場所はアレフ君が作ってくれたのよ? 感謝してるわ」
「俺が?」
「そうよ? あたしをアレフ君のパーティに誘ってくれたのは君でしょ?」
◇
「みなさん、仲がよろしいのですね」
とは、馬車に同乗している吟遊詩人のエリフキンさんだ。
「そりゃ、俺達は仲間だからね。沢山の死線を掻い潜って来た仲間なんだ」
「冒険の話を聞かせてもらいたいものです。面白いお話があれば、皆さんの事を謳いましょう」
と、ポロロンとリュートを鳴らす。
「そうだな、ん、あったぞ面白い話が!」
「シグ?」
「お、それはどんな話ですか、可憐なお嬢さん……シグルデさんでしたか」
「うん、吾がシグルデだ! ドラゴンに一呑みされた冒険者が、そのドラゴンの胃の中で運命を嘆く話などどうだ!?」
「おお、それは面白そうですね!」
「そうだろう、そうだろうとも! 良かったなアレフ。お前の輝かしい冒険の一端が評価されたぞ! 喜べアレフ!!」
「シグ! お前俺に喧嘩を売ってるよな、そうなんだよな!?」
ポロロン♪
「あの、私……良いですかエリフキンさん」
「何でしょう。美しいお嬢さん。確か女神ライアのプリースト、ジュリアさんでしたね?」
「はい。あの、その……神様の声が聞こえないプリーストの話などはいかがでしょうか。祈っても祈っても神の声は敬虔な信徒たるそのプリーストの耳には届かず、それでも日々神の奇跡を起こし人々を救う幸薄い少女の迷いの日々の物語などいかがでしょう……」
「おお。それも面白そうですね!」
「何だよジュリア、お前有名になりたいのかよ!?」
「悪い!? 私だって悩みがあるのよ! だってライア様の声を聞いた事がまだ一度もないのよ!? おかしいじゃない! 私こんなに毎日頑張ってるのに!!」
ポロロン♪
「こんな話はどうかしらエリフキンさん」
「ああ、これは麗しの方。魔術師のファラエルさんでしたか?」
「そうよ。あたしは真なる氷を操る偉大なる魔術師ファラエル。そうね、こんなお話はいかが?」
「どんなお話でしょう? ファラエルさん」
「それはね、邪悪な炎の魔術を操る魔術師を偉大なる氷の魔術で追い込み、最後には見事討ち果たす世にも珍しい氷の魔術を極めた執念の魔術師の姿を描いた復讐譚。そして、その氷の魔術師が物凄い美女だったりすると話が盛り上がらない? どう? 吟遊詩人さん。この詩を聴いている観客の引き込まれる姿が目に浮かばないかしら」
「おお、それも面白そうですね!」
「ファラエルさん何だか黒いよ!? それにその話どこか怖いよ!? 俺の気のせい!?」
「さぁ、何を言っているのかしらねアレフ君は。もう、変な子ね。このあたしがそんな腹黒い訳ないじゃない」
「それはまぁ……そうかもしれないですけどファラエルさん」
ポロロン♪
「そういうアレフ君は何か面白い話を思いつかないの?」
「そうですね……リンゴ好きのドラゴンのお話なんてどうです? ドラゴンの姿に変身できるという伝説の竜人族、最後の竜人族の生き残りの姫が失われた仲間の手掛かりを求めて忠実で無敵の騎士と共に世界を旅し、リンゴを齧りながら知らず知らずのうちにかかわる人々の心を次々と救っていき、その旅の最後には失われたはずの生き残りとめぐり合う。そんなお涙頂戴な冒険譚です」
「アレフ……アレフ!」
ん? シグが急に立ち上がって……。
わしっ!
何だシグ!? 急に抱きつくな!?
「アレフ、アレフ!! 吾が間違っていた! お前こそ最高の騎士! 騎士の鑑! 吾は感動した!!」
「それは良い話ですね。しかも面白そうです」
「アレフ、アレフ~! 吾は、吾は……!!」
「はぁ、シグは全くお子ちゃまだな!」
「な! 何だとアレフ! お子ちゃま言うな!!」
「しかし、皆さんに出会えたのは本当に幸運でした。私はちょうど王都まで行く護衛の方を探していたのですから。アレフさんたちと出会えたこと、本当に感謝しております。みなさんとの王都への旅。これはとても面白いものになりそうな予感がしますよ!?」
ポロロン♪




