ばしゃをてにいれた
「報奨金と馬車を手に入れたのだ! 馬車いっぱいにリンゴを積むのだ!」
シグがリンゴをウマウマと齧りながら俺に微笑みかける。
こうやって見ると、本当に子どもにしか見えない。
ツルペタ。
まぁ、体の成長の機会はこの前のリッチーさんのポーションで永遠に失われてしまったと思うんだけど。気のせいかな?
「アレフアレフ! このまま行商人でもするか? それともまだ英雄になる夢を諦めきれないか!?」
「アレフはみんなに褒められ憧れになるような大英雄になるのが夢なんだよね?」
「うん。ジュリア。俺は今でもそう思ってる」
「そうなの? じゃぁアレフ君、どうしましょう。馬車、売り払う?」
「いや、世界を巡ってみるのも良いんじゃないかな。この混沌に満ちた世界を巡って、俺達が旅の先々でこの世の悪を討つんだ! 俺は能無しのまま終わりたくない。役立たずのまま終わりたくは無いんだ!」
「あー、アレフ君ってば英雄譚の読みすぎなんじゃない?」
「アレフってば、昔からヒーローものが好きだったから……」
「そうなの? さすが幼馴染、アレフ君のことなら何でも知ってるのね? ジュリアちゃん」
「え、ええ。私、アレフのことなら好きな事から嫌いな物まで何でも知ってる……」
「どうだろうみんな! 世界に向けて旅立とう! 世界の悪を倒して回るんだ!!」
「良くぞ言った! それでこそこの偉大なる竜人族の皇女シグルデの騎士アレフ!!」
「えええ、そんな危ないよアレフ。危険だよ……」
「ジュリア、こう考えるんだ。世界には偉大なる女神ライアの教えを知らないかわいそうな人々もいるだろ? そんな人々にライア様のありがたい教えを広めるんだよ! みんなで幸せになるんだ!」
「それって……凄い、凄く良い考えだよアレフ! うん、アレフの言うとおり!」
「そうね、世界中の炎の魔術師達に氷の魔術の偉大さを……強大さを知らしめる良い機会かもね! わかったわアレフ君!!」
「おお! それではみんな旅立つのに賛成なのだな!?」
「あのねあのね、それで一つお願いがあるの。王都の大教会ではね、世界中にライア教会の教えを広める人に『宣教師』という資格を配ってくれているの! それが欲しいな、私。それがあれば堂々と宣教師を名乗れるから!」
「あたしも王都行きは賛成ね。王都で胡坐をかいている炎の魔術師……愚か者達に、氷の魔術の素晴らしさをまず見せておく事が重要かも!?」
「アレフは言っていたな! 王都の『としょかん』なる場所に吾ら竜人族に関する記録があるかも知れん、と。吾らの偉大さを記した書物に目を通しておくのも吾の騎士として仕える者としての務めではないのか!?」
◇
受付嬢のサンディさんにはお世話になった。
だから、きちんと挨拶をね。
「サンディさん、俺、王都に行くことにしたんだ」
「そうなんですかアレフさん。それは寂しいですね……ああ、良い仕事がありますよ? 王都へのお手紙配達です。受けていきませんか? 姉のシンディが王都の冒険者ギルドで私と同じ仕事してるんです」
「そうなんですか?」
「それと。アレフさん達に渡すものがあります。銀級冒険者の証です。おめでとうございます。どうぞ!」
◇
酒場で声を掛けられた。
「よう無能! この街を出て行くって?」
「ああ、とりあえず王都に行く。そして国中を、世界を回るんだ!」
「そうかよ。まぁ頑張れやアレフ。何せお前は俺を負かせたんだからな!」
「え? 今なんと……アレフ?」
「名前で呼んで悪いかよ。もう誰もお前を無能だなんて呼ばないさ。山賊団を壊滅させた話、聞いたぜ? お手柄だったなアレフ!」
◇
いつもの市場にやって来た。
「よう役立たずのアレフ! また何か売りに来たのか?」
「いや、今日は違うんだ。俺、旅に出ることにしたんだ。だから挨拶に来た」
「挨拶だって? それに旅!? 大きく出たな。どこに行くんだ役立たず」
「役立たずの俺が役に立てる場所だよ」
◇
そして最後。
本当は足も向けたくなかったけれど、この街で俺が一番お世話になった場所。
「神父様、俺……この街を出て行くことにしたんだ」
「そうかアレフ。ジュリアも一緒か?」
「うん」
「冒険に出るのだろう。長い旅か?」
「うん」
「そうか。二人仲良くするんだぞ? それに他の仲間ともだぞ? お前は一番手がかかった子だからな?」
「神父様……」
「意外か? 私がアレフ、お前の心配をするのは?」
「うん」
「私はアレフ、お前の親代わりだったからな。父親が息子の旅立ちの心配をするのは当然の事だ」
「神父様……!」
「アレフよ、強く生きよ。ジュリアを幸せにするんだぞ?」
「うん……うん!」
◇
夕日が赤い。
ここは街を見下ろす丘の上。
俺とジュリアの思い出の場所。
「出発、明日だねアレフ」
「うん」
「いよいよ私たち、本当の冒険に出るんだね」
「そうさ。たくさんたくさん冒険をして、俺は、俺達は英雄になるんだ!」
「ふふ、アレフったらいつもそう」
「何だよ、ジュリア嫌なのか?」
「嫌な訳ないじゃない。だって、アレフと一緒なんだもの」
「それにさ? もしかしたらこの世界のどこかに、まだ生き残りの竜人族がいるのかもしれない」
「え?」
「俺はシグのおかげでスキルを手に入れる事が出来た。俺はシグのためにさ……俺に出来る事は無いのかなって。──そう思ったんだ」




