竜人族のひ・み・つ
「アレフの選んでくるリンゴは相変わらず美味いな!」
「ありがとよ、シグ」
「ときにアレフ、サンディがお前を呼んでいたのだ! クエストかもしれん。聞いて来い!!」
シグがリンゴを齧りながらメシを食い終えたばかりの俺を促す。
そうかそうか。受付嬢のサンディさんが俺をねぇ……。
◇
「アレフさん。護衛の依頼のご指名です。交易商ラルフさんのご紹介になります」
ああ、あの山賊騒ぎのときの商人のおっちゃんな?
金髪の先をクルクル回しつつ、サンディさんが説明をしてくれる。
「と、いうとまた隊商の護衛ですか?」
「いえ、その方は街の資産家で、古代の遺跡に興味がおありだとか。ただ、一人で見物に行くのは危険なので腕の立つ冒険者を護衛に雇いたいとのことでした。それでその方はラルフさんに相談を持ちかけられたみたいで……」
「なるほど」
「どうなさいます? 話だけでもお聞きになりますか?」
「いや、受けるよその依頼。ラルフさんの紹介だろ?」
「わかりました。先方にはお知らせしておきますので直接お屋敷をお尋ねになられてください」
◇
白い屋敷。
庭の草木は綺麗に刈り込まれている。
「でっかい屋敷だな!」
「そうねシグちゃん。このお家、とても大きいね」
「ふーん。趣味は良い……か。ただの成金ではなさそうね」
俺は鉄の門扉を押し開いた。
◇
太った紳士。
椅子に座るおっちゃんの周囲には、謎の石作りのオブジェが所狭しと並んでいる。
「おじさん、凄いコレクション! アレフこれ見て! この赤くキラキラした石!」
「おい、ジュリア」
「ごめんごめん、あんまり綺麗なものだから、ついはしゃいじゃって……」
「このガラクタは全部遺跡から? 本棚に並んでいる本、全部古代の文献ね。おじさん──ミケレさんは歴史に興味があるの?」
「さすが魔術師殿。わかりますか?」
「ええ。『赤詩篇』『竜王伝』『十三詩集』『列王覇記』……これだけのコレクション、王都でも珍しいかも?」
「そうでしょうともそうでしょうとも! このミケレ、金に糸目をつけず集めましたからな!」
「ええとミケレさん? それで今回の仕事、俺達は何をすると良いのかな?」
「私は実際に遺跡を見てみたいのですよ。特に私は古代竜人族の残した遺物に興味がありまして。冒険者の方々から伺う冒険譚はそれはそれで胸踊るものがありますが、実際に自分で現地に足を運んで、古代の香りを体験してみてみたかったのです。行商人のラルフとは長い付き合いで、あれが余りにもアレフさん、あなた方の活躍を褒めるものですから」
ラルフさん、ラルフのおっちゃん、ありがとう!
「そこでですね、今回は古代竜人族の残した装飾壁画のあると聞いたイドの遺跡に行ってみたいのですが……」
「おお! イドの聖地! そこは吾ら竜人族の残した地!」
「え? このお嬢さんは……」
「ちょ、シグ落ち着け!?」
「何だと!? 吾ら竜人族の活躍を語って見せようじゃないか!」
「良いから、良いから! 今はそれ良いからシグ!!」
◇
「素晴らしい! 素晴らしいですぞアレフさん!」
壁といわず天井といわず貼り付けられた色とりどりのタイル。
そこにあらわされていたのは長い歴史の物語だと思われた。
「これが、古代竜人族の残した聖地……! そしてこれがその壁画!!」
ドラゴンが人に炎を教え、畑作を教え、家作りを教え……そしていつしか人に転じたドラゴンは人と溶け込み──話はぷつっとそこで途切れる。
そんな長い長い物語。
「女神ライア様の物語と違う……ライア様の物語だと、もっとこう……」
「神話でしょうね。竜人族に伝わる神話。女神ライアの伝える神話と違っていて当然よ」
「なぁシグ。竜人族は人の中に混じってどうなったんだ?」
「ぅ……ううう……秘密だ! 吾に仕える騎士たるアレフといえど、簡単には教えられんな! うん、教えない!!」
「どうしてだよ」
「掟だからだ!」
「お前、実はお前も知らないんじゃ……」
「そ、そそそそそそそんな事は無いぞ!?」
「怪しいなぁ」
「皇女たるこの吾が一族の秘密を知らぬなど、あるわけが無かろう! はっはっは……はぁ」
「……怪しいなぁ」
「怪しくない! しつこいぞアレフ!」
「そうよね。シグルデちゃんは何でも知ってるのよね?」
「知っているぞ!」
「他にも竜人族の聖地ってあるの? シグルデちゃん」
「いっぱいあるぞ! 古代の遺跡のほとんどは吾ら竜人族が造ったものだ!」
「そうなの。たくさんありすぎてシグルデちゃんは忘れちゃったのよね」
「そうだぞ! 何せ数が多すぎてな!! はっはっは!」
「……やっぱり忘れてるんじゃないか知らないんじゃないか」
「何だアレフ!? なにか言ったか!?」
「いや別に何も」
「吾が何も知らぬと思うなよ!? たとえばこの赤い突起を押すとだな!」
「押すと……?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!




