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あんまりだよ!

 毎日のように死にたい死にたいと思っていたけれど、こんな最期はあんまりだ!

 まさかドラゴンの胃袋の中なんて!


「畜生……ちっくしょう!!」

 

 俺は<<戦士>>持ちのガイムやラルスのように強いスキルを貰って、もっと活躍したかった。

 いずれは英雄になって、みんなから羨ましがられたかった。

 そして、堂々と幼馴染のジュリアと……畜生!

 それが、それが……こんなドラゴンの胃袋の中で終わるのかよ!

 足元がひりひりして来た。

 さっそく消化されているのかもしれない。

 

 嫌だ、嫌だ、嫌だ!

 死にたくない、死にたくない、死にたくない!!

 俺は呑まれた後も短剣を振り回す。

 見えない壁に短剣が刺さる感触。

 真っ暗闇の中で短剣を振り回すたびに生暖かい液体が俺の全身に降り注ぐ。

 でも、そんな俺の体はじくじくと染みる液体に足元から満たされてきて。

 生暖かく、気持ち悪い。

 

 スキルなんて知らなかったあの頃が思い起こされる。

 街を見下ろす夕日の丘で、ジュリアと共に夢を語り合ったあの頃。

 俺とジュリアで冒険に出る夢。

 世界を困らせる悪をやっつけて、みんなに認められるヒーローになる!

 何と子供だったのか。

 ああ、全ての思い出が足早に流れていく。

 俺っていったいなんだったんだろう。

 こんなモンスターに食われて終わる人生だったなんて。

 親に捨てられ。

 孤児院で悪ガキどもとやり合って。

 冒険者になってみれば何とかなるかもと飛び出したのはいいものの、思うようにならなくて。

 そしてせっかく選んでもらった簡単なクエストで、こんな化け物に目を付けられて。

 そして俺はその腹の中……。


「糞、くそ……なんなんだよ、なんなんだよ!!」


 と、液体が満ちてきた。

 終わりだ。何もかも。

 胃液に溶かされて終わるんだ。

 どろりとした液体が俺を包む。

 もがけばもがくほどそれは俺の体を包み込み、俺はその生暖かく苦い液体の中に沈んでいった。


 ◇


 ぺしぺし、と頬っぺたが叩かれる。

 ん? 何だ? 死後の世界か?

 森か。緑が見える。

 死後の世界も人間界と余り変わらないんだな……などと、つまらない事を思う。

 でも、聞いたことがある。これはきっと転生なんだ。

 転生を待つ魂が待つ場所。ついに俺の番が来たって事か。

 あーあ。最悪だった。何なんだよ俺の人生。

 みんなにはバカにされ、幼馴染には哀れみの目で見られ、最期はドラゴンに食われて終わり?

 冗談じゃないんだよ!

 ええい、良いや。

 次だ次! 次は失敗しないからな!! 見てろよ!?

 

「何をブツブツ言ってる。人間。起きたか?」


 見れば八重歯の光る、栗色の髪をツインテールにまとめた女の子が俺の顔を覗き込んでいる。


「君が女神?」

「何を言っている。吾はシグルデ。とっても偉い竜人族の姫なのだ!」


 チビッ子は無い胸を張る。


「姫? 何の事?」

「うきゃぁあああああ! 頭が悪いのか人間!」


 ちょ、耳元で大声出すなよ。

 頭がキンキンする。


「頭が悪いって……酷いな。確かに俺はスキル無しの無能だけど。君さ、俺を転生させてくれる神様なんだろ? 俺、死んだんだろ?」

「死んでない! 殺してない! 食べてない! 吐き出したからな!! おかげでお腹は()くわ、何やらチクチク痛むわで散々だ! お前のせいだ!」

「え?」

「竜人族には『(おきて)』がある。痛みを与えた相手の願いを聞くという掟だ!」

「はぁ?」

「さぁ人間! 願いを言え! (われ)が叶えてやろう。吾にできることならなんでもな!」

 

 何を言っているのだろうか。このチビッ子は。

 俺がこのチビッ子に痛みを与えた?

 願いを聞く? 何のことだろう。


「意味がわかるように話してくれよ。俺、死んでないの?」

「食べてないのだ! 人間は美味しくない!! お前を口に入れたらこの上なく不味かった!!!」

「君……ドラゴン?」

「シグルデ、シグだ! それにドラゴンではない! 竜人族の高貴なる姫、シグだ!! 痛かったんだぞ!? お前、お腹の中で散々暴れてくれたからな!!」


 話をつなぎ合わせると、だ。

 このシグルデ……シグは俺を食ったドラゴンで、俺がお腹の中から短剣を突き刺したんで堪らず吐き出した、と。

 で、掟とやらで俺の願いを叶えてくれる……と。

 

「なぁシグ。俺と一緒に冒険しないか? 冒険者になるんだ。俺、仲間がいなくてさ? ドラゴンが仲間なら、どんな難しい依頼でもこなせると思うんだよね」

「ボウケン……シャ?」


 シグはクリッとした目を丸くして俺を見返してくる。

 今度は彼女が驚く番だったらしい。

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