かゆいのだ!
「リンゴを掴んだ手が痒いのだ……」
「シグ? どうかしたのか?」
バリボリ。バリボリ。
「いや、手がとても痒くて痒くて……」
バリボリ。バリボリ。
「ちょっとシグちゃん手を掻き過ぎ! 血が出ちゃう!」
「ジュリア?」
「偉大なる女神ライアよ……この者の傷を治したまえ、ヒール!」
「おおー。傷が塞がって……って、痒いのだ! 暖かくなって余計に痒いのだ!!」
バリボリ、バリボリ……!
「あー! ちょっとダメだってシグちゃん! 何かの病気かな? 慈悲深き女神ライアよ、この者の病を治したまえ! キュアディジーズ!」
「うわぁ、痒い痒い痒いのだ! やはりライアは邪神なのだ! 吾にはライアの治癒魔術は効果が無いのだ!!」
「傷は塞がっていただろ!?」
「なんなのでしょうか……」
「竜人族特有の病とか?」
「病気だとしたらさっきの魔術で治ってなきゃおかしいよ!」
「なら……なんだ? やはりシグがドラゴンだから?」
「ドラゴンではない! 吾は偉大なる竜人族の皇女シグルデ! っ~~~、痒い痒い、両手が痒いのだぁ!!」
「リンゴの食べすぎなんじゃないのか?」
「そんなバカな事あるわけ無いじゃない」
「やっぱり竜人族特有の何か何じゃないのか?」
「例えば?」
「シグはお子様だから、大人に脱皮するとか」
「脱皮だとぅ!? 吾は蛇か! てかアレフ! いい加減に吾の事をお子様言うなぁ!! ああもう! 痒い痒い痒い~~~!!」
◇
まぁ、仕方ないからパーティー一番の知恵袋、ファラエルさんに相談してみた。
「と、言うわけなんです。ファラエルさん、シグに何が起こっているのか分かりますか?」
「そうねぇ……ええとアレフ君。そうだ! シグルデちゃんはあのリッチーから貰った成長促進剤を飲んだのよね? ほとんど吐き出したように見えたけれど」
「ええ、一応」
「もしかして、薬の副作用じゃないかしら。ほら、あの魚たちってバシャバシャ暴れていたでしょ?」
「ええ、まぁ、活きは良かったですね」
「あれって痒くて暴れていたり?」
「そんなバカな。ありえませんよ」
「否定できるの? それだけの証拠は? 材料は?」
「それじゃ、シグはどうして今頃になって! あれってかなり前の話でしょ!?」
「ほら、シグルデちゃんはおつむが結構ゆるいから、体の感覚のほうもユルユルだったり……しないかな?」
「推測ですか!」
「と、お姉さんは思うわけよね? アレフ君はどう思う? この可能性」
「薬の副作用……と、言う事はこのまま放っておくとシグの体は今のお子ちゃまから変身して本人の望むようにボンキュッボンに……」
「さぁ? それはわからないわ。ただ、この事をまたあのリッチー……名前なんだっけ、彼に聞いてみるのも手でしょうね。彼も自分の研究成果がどういった感じに使われ、その結果どうなったのかについてはとても興味あることでしょうし」
「研究者ですしね」
「そうね。魔術師なんて変人ばかりだし。あたし以外は」
◇
「痒いのだ痒いのだ痒いのだ! アレフ! またこんな所につれてきてあのゲロマズなポーションを吾に飲ませようというのではなかろうな!?」
まぁ、その、当たらずとも遠からずなんだが……本人には黙っておいたほうが良いだろう
俺たち四人はまたあの山奥の塔に来ていた。
自称大魔道バーバルーガ(リッチー)さんの住処……いや、研究所だ。
◇
骨。
大魔道バーバルーガは以前のときと変わりなく、豪奢なローブを纏ってそこにいた。
「なんだ。また招かれざる客かと思えばお前達か。久しぶりだな」
「ええ。バーバルーガさん。お久しぶりになります。実はですね、あのポーションを飲んだシグ……このチビッ子なんですが、こいつが両手の痒みを訴えまして。初めは何かの病気か毒かと思ったのですが、キュアディジーズもキュアポイズンも効果なく、どちらも違うようで。考えるに、こいつが飲んだバーバルーガさんから頂いたポーションに思い当たったんです」
「ふむ。成長するとき人は成長痛をともなうことがある。また、時と場合によっては痒みのときもある。君の推測は正しい。可能性はあるだろうな。だが、確証のある話ではない」
「はい。そこで、何かのヒントになればとバーバルーガ様のご意見を伺いたく、こうして再び研究室をお尋ねしたのです。なにか思い当たりませんか?」
「痒い痒い痒い! 両手が痒いのだぁ~~~!」
「そうだな……」
考え込む骨。
「成長が早すぎるのかも知れんな」
「成長が早すぎる!?」
「成長速度を抑える試薬……ポーションもある。もちろん試作品なのだがな? 試すか? 上手くいけばその両手の痒み、治まるかも知れんぞ?」
でも、それ飲んじゃうと永遠のロリっ子にまた一歩近づくことに……ああ、このことも言わないでおこう。
ボンキュッボンの夢を壊しちゃ悪いものな!
「は、早くそれを寄越せ! いや、是非くれ! もう我慢ならん。痒くて痒くてたまらんのだ!」
「良いだろう。持って行くがいい」
「いや待てん! ここで飲む!」
「好きにしろ」
「シグちゃん……かわいそう」
「シグルデちゃん……辛いのね」
シグはバーバルーガの取り出した青いポーションを素早く奪い取ると、鼻を摘みつつ速攻で飲み干した。
うん。一滴残らず。
さらば。ボンキュッボン……俺は心の中でシグに謝る。
別に……良いよね? 本人に伝えなくても。
「どうだシグ? 効果あったか? 即効性らしいが……」
「おお……おおおおお! ありがとうバーバルーガ! ありがとうアレフ! お前の機転のおかげだ! 痒いが見事に治まったぞ!」
「それは良かった」と、骨。
「シグちゃん良かったね」とはジュリア。ああジュリア。わかってないのか優しいな?
「シグルデちゃん、これからが辛いわよ?」とはファラエル。……あ、笑ってる。やっぱりこの人……わかって仕掛けたな!?」




