さわぎのあとで
「はっはっは! もっと吾らに感謝しろ、ラルフとやら! そして我らが英雄譚をみんなに語り伝えるが良い! はっはっは!」
「色々ありましたが、無事に街に着けてよかったですラルフさん」
「いやぁ、山賊に囲まれたときは冷や冷やしました。もう生きた心地がしませんでしたよ。でも今私はこうして命がある。アレフさん達には感謝してもしきれない。ありがとうございます。本当に助かりました。アレフさん達に護衛を頼んで本当に良かった」
「いえいえ」
「そうだろうそうだろう! 吾らに頼んで良かったであろう!」
「おい。シグ」
「何だ! 今が恩を売る絶好の見せ場では無いか!」
「こういうのは控えめなほうが良いんだよ!」
「そうか? だがこうしてラルフは本心から喜んでいるのだぞ? 恩を売って何が悪い」
「それはそうだけど……」
「ははは。それでは皆さん、私はこれで市場のほうへ向かいます。道中は本当にお世話になりました。縁があれば、またよろしくお願いします!」
「はい、こちらこそ」
「ラルフー! まったなー!」
「はい、シグルデさんもお元気で!」
パカラパカラとラルフさんの馬車が去ってゆく。
「さぁアレフ君。急いで元の街に戻るわよ? これからは時間との勝負。良いわね?」
「え? ファラエルさん?」
◇
ここは暗い洞窟内。
例の山賊たちの元ねぐらだ。
「松明の明かりって……ここ、薄暗くて怖いんだけどアレフ……」
「少しの間だから我慢してジュリア」
「うん、わかったアレフ」
「しかしファラエル、ここに何をしに来たのだ? こんな場所に用は無いだろうに……」
「シグの言うとおりだよ……って、もしかして! まさかファラエルさん、これを狙っていたんですか!?」
「何の事かしら。あたしは盗賊たちから装備を引き剥ぎ金品を奪ったあげくに衛兵に突き出して報奨金も頂き、しかも本拠地に乗り込んで溜め込んでいる財宝まで奪おうなんてこれっぽっちも思って無かったんだけれど」
「やりますよね、やりましたよねファラエルさん、今まさにそれ、やってますよねぇ!?」
「何の事かしら。昔の偉い魔術師も言っていたわ。『悪人に人権は無い』って」
「やっぱりそうなのファラエルさん!?」
「ファラエルお前、天才か!」
「え? 何? 何なのみんな。何喜んだり驚いたりしてるの!? ねぇアレフ、どうしたの?」
◇
俺達は意気揚々と街に戻ってきた。
そして市場でお宝や装備を売り払おうとした訳だが……。
「よう役立たず。最近調子はどうだ……って、何だこの財宝!? 何!? 買取!? お、おう、俺も商人だ。ありがたく買い取らせてもらうぜ! なんだよ無能のアレフ。お前いつの間にか無能でもなんでもなくなってるじゃねぇか。しかも綺麗どころを三人も引き連れて……無能……いや、アレフ。お前もこれで一端の冒険者だな!」
なんだか、最初の頃と凄い違いだな。
あれ? 熱いものが目頭に溢れてくるんだけど。
俺、無能じゃなかったの?
俺、役立たずじゃなかったんだ?
◇
ジャラリ。
ドスンと音を立ててゴールドの入った皮袋をテーフルの上に置く。
中身を見たみんなの目が金色に輝く。
「おおおおおお、これでリンゴ食べ放題だな!!!」
「冒険に役立つ装備を整えるのも良いね!」
「そうだなジュリア。防具や魔法のアイテムも買えるかもだぞ!」
「良かったわねアレフ君。全て誰のおかげかしら?」
「ファラエルさんです」
「ふふふ。もっと褒めてくれても良いのよ?」
「いやぁ、俺、ファラエルさんに声を掛けて良かった。ファラエルさんが仲間で本当に良かった!」
「そうでしょう。どう? 炎の魔術師じゃこうはいかなかったわ。あたしが氷の魔術師で本当に良かったでしょう?」
「ええ! もちろん!!」
「わかってくれた!? わかってくれたのよね!? やっぱりあたしの見込んだとおり、アレフ君はあたしの最大の理解者よ!!」
あ、はい。
◇
シグはリンゴを。
ジュリアは鋼の胸当てを。
ファラエルさんは氷属性を強化する貴重な魔法の指輪を。
そして俺は、ジュリアと同じく鋼の胸当てを買った。
「おお、見違えるではないか吾が騎士アレフよ! まるで本物の騎士のようだぞ! それにジュリアもカッコ良いぞ!!」
「シグは装備を買わなかったのか?」
「吾は最強の竜人族の皇女シグルデ! 装備の一つや二つで強化できるような柔な存在では無いわ! それに吾の得意は体術! 重い防具や魔道とは相性が悪い……だから体力をつける! それでリンゴをたくさん買った! 今日はリンゴをたくさん食べるのだ!!」
「はいはい。シグはただ単にリンゴが食いたかっただけ、と。で、ファラエルさんは……」
「ふふふ……この輝き……青白い揺らめき……指から伝わるヒンヤリとしたこの感触……ああ、良い買い物よ……最高。最高の気分! 氷の魔術こそ最強! 炎の魔術なんて滅べば良いのよ滅べば!! ビバ、アイス!! ナイス、アイスマジック!!」
ダメだこの人。
目が逝っちゃってるし!?




