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たいせつななかま

「ダメだ! ジュリアは(われ)らの大切なパーティメンバーだ! 今さら渡すわけにはいかない! なぁアレフ!」

「もちろん。ジュリアは俺たちの仲間だ!」


 その日。

『ジュリアを教会に帰せ』って、神父様が押しかけて来たんだ。


「あたしには良くわからない話しなのだけど……で、神父様はジュリアちゃんを教会に帰して欲しいって事?」

「施設にいた頃から言ってただろ神父様。俺とジュリアは連れ立って冒険者になる、って。それを今さら何だよ!」

「修行半ばで勝手にジュリアを連れ出したのはアレフ! お前では無いか!」

「でもその教会に帰せ、という理由がジュリアがいないと『美少女プリースト目当ての信者が来ないから』ってのは何かが違うだろ」


 俺はそう言ってみたのだけれど、肝心の神父様はこう言うんだよ。


「正当な理由では無いか! 神の力の源は信者の数が全て! 信者がいなければどんなに由緒ある偉大な古代神でもその力を発揮できぬ! ジュリアを使ってライア教会の勢力を拡大! 偉大なるライア神に奉仕する教団の方針として何も間違っておらぬ!」


 はぁ、どうしよう。


 ◇


 とりあえず神父様には帰ってもらった。

 後で正式に返事すると言い訳をして。


「しつこかったなー、あの神父」


 リンゴを齧りながらシグが言葉をこぼす。


「確かにジュリアちゃん、女のあたしから見てもとても美人だしね」


 と、ファラエルさん。


「ファラエルさんも充分に魅力的ですよ?」

「あら。いつの間にそんなにお世辞が上手くなったのかしらアレフ君は」

「アレフ! お前はやはりボンキュッボンが好きなのだな!? どうりで吾とジュリアやファラエルを見る視線の色が違うと思っていた! 見損なったぞ吾が騎士よ!!」

「え? シグはほら、お子ちゃまだから……」

「ええいアレフ! (われ)の事をお子ちゃま言うなぁ!!」


 ◇


「ライア教会は領主様や街の人たちからの寄付で成り立っているの。それは私とアレフがお世話になっていた孤児院も同じ。教会のお世話になっていたから今の私やアレフがあるの。だから、断るにしてもそれなりの言葉を尽くさないといけないと思う。ねぇアレフはどう思う?」

「俺は神父様からは嫌われていたからな……良くわからないけど、ジュリアが気にするのなら、神父様にきちんと話をしておいたほうが良いと思う」

「やっぱりそう思うよね! 良かった。アレフならそう言ってくれると思ってた。今から神父様に断りに行くのだけれど……ねぇアレフ、でも私について来てくれるよね?」


 ──と、言うわけで。

 俺とジュリアは二人で街の広場に向かう。

 目指すは街のライア教会だ。


「ああ、さすがライア様の聖域……心が洗われるみたい!」

「見慣れた教会じゃないか」

「なによアレフ、感じないの? ライア様の偉大なお力を! この波動……一体感……」

「でも、神様の声は聞こえないんだろ?」

「う゛。痛いところを突くわね、アレフ」

「あはは、ごめんごめん」


 ◇


 神父様はジュリアの顔を見るなり満面の笑みを浮かべてくれた。


「おおジュリア! ジュリア! 戻ってきてくれたのか! そうだろうとも。まさか能無しのアレフと同じパーティに入って、冒険者として生き抜けるはずもないからな!」

「悪かったな、ジュリアが俺のパーティで」

「うぉ、アレフいたのか!」

「気づいてもいなかったのかよ。ま、しょせん俺はその程度の認識か」

「神父様、実はそのことでお話が」

「ジュリア。もちろん歓迎するとも。戻ってきてくれるのだろう?」

「いえ、お断りします。私、アレフと一緒に冒険者として頑張ります」

「何だと!? ジュリア、考え直してくれ! こんな能無しと一緒に冒険などしても何もならん! 成功など何も無い! 考え直せ!」

「今さらながらに酷い言われようだな」

「なぁジュリア。わかっただろう。悪い事は言わない。この教会で働くことだ」


 神父様がなおも言い続けたその時だった。

 大勢並んでいた病人や怪我人の中から声があがる。


 ガヤガヤガヤ……うわぁ!? ひぃっ!?


「うわぁ!?」

「病人が暴れ出したぞ!」

「どうしたんだよ!?」

「わからねぇよ!?」


 その男、黄色い目を猫の目のように細ませて皆を(にら)み付け──。

 長い爪。振るわれるたびに悲鳴が上がる。


「狂猫病!」


 それは人が獣人化する凶暴な病。


「早く、早く逃げなきゃ! みんなを避難させないと! アレフ!?」


「うぉお!!」


 俺は咄嗟に剣を抜く。一閃。

 男の長い爪がパラパラと床に落ちた。

 そしてすれ違いざまに鞘で腹を打つ。

 それは男の鳩尾にめり込んだ。


「ジュリア! こいつの治療を! 病気を何とかしてくれ!」

「う、うん。キュア・ディジーズ……!」


 ◇


 神父様は驚いていた。

 鮮やかに男を沈めた、俺の剣技に。


「すまなかったアレフ。能無しのアレフもそれなりに……いや、もう能無しではないな。強くなったのだな、アレフ」

「そうだよ神父様。もう俺は昔の俺じゃないんだ」

「悪かった。謝る。このとおりだ。謝罪させてくれるか?」


 神父様が頭を下げる。

 俺は慌てた。

 だって、こんな事には慣れてない。


「よしてくれよ神父様。俺が強くなったって事、神父様は知らなかったのだから……」

「アレフ……お前も立派になって!」

「そうなんです神父様。アレフは毎日毎回良くやってくれます。冒険者としてやっていけるだけの実力があるんです。今は能無しと言われていたとしても、こうして頑張れば誰だって! だから私はアレフについていきます。そんなアレフと一緒に冒険するんです。ですからごめんなさい神父様。私、神父様のご期待には添えません。私、アレフと共に頑張ります!」

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