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リッチーのけんきゅう

「ここが最後の扉だぞアレフ」


 さすがにリンゴは食べていない。偉いぞシグ!


「本当に行くのかシグ?」

(われ)がボンキュッボンを諦めると思うのか? アレフもツルペタよりそちらのほうが嬉しかろう?」

「いや、あの、その」


 シグのストンと落ちる胸板。

 ──どう答えろと?


「アレフ、そうなの!? そうなのね!?」

「そう。アレフ君は豊満な体が好みなの。お姉さんお勉強になったわ~」

「いや、あの、その」


 甲乙つけがたいジュリアとファラエルさんの突き出た胸。

 どう答えろと!


 ◇


 それは豪奢なローブを纏った骨だった。

 リッチー。

 恐るべき魔力を持つ邪悪なる魔術師の成れの果て……の、はずだ。


「貴様らは何を勝手に人の家に踏み込んで来たのだね? この盗賊ども」

「吾らは盗賊では無い! 吾はお前と話に来た、お前に頼みがあって訪ねて来たのだ!」

「ほう」

「ズバリ言おう! 吾はお前の研究に興味があるのだ!」

「何? お前のような小さな子供がこの偉大なる大魔道バーバルーガ様の研究に興味があると?」

「吾を子ども扱いするでない! 吾こそは竜人族の皇女シグルデ!! 吾は既に立派に成人しておるわ!!」

「いや、どう見ても子ども……」

「違う! バカにするな! 吾は、吾は……うわーーーーーーーん! 吾はお前の研究成果を試してもらって一日でも早く大人らしいボンキュッボンな体に成りたいのだ! 吾はそこのジュリアやファラエルのように豊かな胸が欲しいのだ!! 欲しいのだぁ! うわーん!!!」

「すみませんバーバルーガさん。日々のご研究でお忙しい身だと思いますがちょっとだけこの可愛そうなシグの頼みを聞いてもらえないでしょうか……いえ、本の少しお時間を頂いてこのバカの話を聞いて貰うだけでも結構なので……」

「子ども扱いした! 子どもって思ってる! 吾が騎士アレフまで吾を子ども扱いするのだ! ううう、うわーん!!」

「盗賊では無いと?」

「はい。違います」

「うわーーーーん、ボンキュッボン、ボンキュッボンに成りたいのだぁ! うわーーーーーん!!」

「おい、いい加減にしろシグ! バーバルーガさん本当に困ってるだろ!? 頼むには頼み方ってものもあるだろ! わがまま言うな! お子様か!」

「またお子様言った! アレフがお子様言った!! うわーーーん!!!」

「苦労しているようだな、人間よ」

「すみません。本当にすみません。ウチのバカがご迷惑をおかけします。用が済んだら直ぐにでも帰りますんで。どうか、どうかお話だけでも聞いてあげてください」

「そうだ! 吾にはお前の研究の成果が必要なのだ!」

「確かに我は成長促進の研究をしているが……」

「おお! やはりそうか! そうだったか!!」

「しかしなにぶん、我は植物専門でな……」

「吾は植物では無い!」

「うむ。結論が出たな。吾は貴様の役には立てぬ。帰れ」


 シグが固まった。


「う、う……うう……ううううう、うわーーーーーーーーん! ボンキュッボンが! 大人の魅力が! 魅惑の姿態が! 妖艶な体が!! 羨ましい、羨ましい、ジュリアの胸が羨ましい、ファラエルの見事な肉付きが羨ましい、吾もボンキュッボンな体に成りたいのだぁ!」


 ああ、うるさい。


「シグちゃん……」

「シグルデちゃん……」


 でも、女性陣二人はそんなシグを哀れみのこもった眼差しで見詰めている。

 二人ともデカイ胸を張って。


「あの、そこを何とかなりませんかバーバルーガさん。何かヒントになるような事は……?」

「人間……」

「うるうる、うるうる、何か手は無いのか!? なぁリッチー。バーバルーガ様? 吾は、吾はお前に賭けてここに訪ねて来たのだ。頼む、頼む!!」

「俺からも頼みます! バーバルーガさん、あなたの研究にシグ……このバカは賭けてるんです! あなたの腕を信じているんですよ!」

「頼む、頼む~ぅ!」

「生者が死者に肉体美を頼むか。まぁ、たまにはお遊びも良いだろう。次は土産の品が欲しいものだ」

「え? それでは吾に何か……」

「ああ。試作品で良ければくれてやろう。ただし、効果の程は保障せぬぞ?」

「おお、おおーーーー! 話せばわかる、何事も通じ合えるのだな人類は!?」

「我は人類を捨てたのだがな……さすがにそう泣かれては、気分が悪い。さぁ、成長の薬だ。この薬を持って早々に立ち去れ」


 そして、シグは謎のリッチー、バーバルーガから謎の成長薬を貰った。

 次は訪ねて来るときは土産の品を忘れるなと念を押されながら。


 ◇


 帰り道。


「良かったね、シグちゃん! あのバーバルーガってリッチー、邪悪な魔道士じゃなくて」

「本当よ。話しの通じる相手で幸運だったと思うわ。あたし、氷の魔術をいつでも放つ準備をしていたんだから」

「いやぁ、アンデッド相手とはいえ、話せば何とかなるものだな! 話し合えばどんな争いでも避けられるのだ! 種族の壁も越えられる!」

「シグ? お前は話し合いの前に俺を一呑みに腹の中に収めてくれた事、忘れたんじゃないだろうな!?」

「はっはっは! そのような事もあったなアレフ! まぁ過ぎた事。水に流せ! はっはっは!」


 シグめ。すっかり元気になっちゃって。


「でもアレフ! 今日は感心したぞ。そして嬉しかった。ありがとな、アレフ! お前の必死の訴えが無ければあのリッチーの心は動かなかっただろう! 本当に助かった。吾はそんなアレフに感謝するぞ!」

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