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ダンジョンアタックに願いをこめて

「もうリンゴはないのか? アレフ?」

「シグ……緊張感無いな、おい!?」


 俺はこの()に及んでリンゴを要求するシグに呆れる。

 森の中、山登りに飽きたのだろうか。


 ここは山奥の、蔦に覆われた石造りの塔だった。

 ファラエルさんの推測と、あくまで伝説によれば、この場所に死者の魔法使いリッチーがいると言う。


 ◇


 俺達は湿り苔むした石造りの通路を歩く。


「ここにも毒水パセリがいるな。ジュリア、どう思う?」


 俺は迫り来る触手を切り払いながら口にする。

 俺は幹に剣を突きたてた。


「他にも動く草や木もいたよ! ここは怖い場所だよ!」

「確かに植物系のモンスターばかりだ」


 これまで出会ったのは全て植物のモンスター。


「リッチーさんごめんなさい、勝手にお家に上がりこんでごめんなさい! ここのモンスターってば、どれも大きいよ! 怖いよ! ねぇ、やっぱり引き返さないかな、アレフ、シグちゃん!? ねぇ、ファラエルさんもそう思うでしょ!?」

「そうねぇ、あたしはどちらでも良いわよジュリアちゃん」

「俺もどうでも良いかな」

「ダメだ! ここには(われ)がボンキュッボンになる秘密がある!!」

「そんなのどうでも良いじゃない! シグちゃん!?」

「よくない! ジュリアやファラエルは立派な胸を持っているからペタンコな吾の気持ちがわからんのだ! 持たない者の苦しみが……! ああ狂おしい! 吾は立派なレディだと言うのに……もう吾も十二歳、立派な大人だというのに……! うおお、この苦しみ、この悩みからやっと解放される日が目の前に……!」


 シグが魂の叫びを上げている。


「……そうだ! 炎の魔術ならこの程度のモンスター、簡単に焼き払えるのではないか? この際やつらを全部焼き払ってしまえば早いと思うのだ! ファラエル!」

「ちょっと! あたし炎の魔術なんて下品な術は使わないわ! 氷の魔術こそ相応しい! 美しさ溢れる氷の魔術こそ最高の技なのよ!! 見なさい! ほら、アイスジャベリン!!」


 氷の槍がまとめてお化けチューリップを貫いた。赤い花弁が舞う。


「ダメだよ! この植物はきっとリッチーさんが大事にしているペットなんだよ!」

「何言ってるのジュリアちゃん! こんなおぞましいモンスター、氷の刃でみんな切り刻んであげる! 氷の槍で串刺しよ! 凍れ、凍れ、貫け切り刻むのよ。……ふっふっふ」

「わかったからファラエルさん落ち着いて」


 何だか危ない顔のファラエルさん。俺はとっさに止めていた。


「そうだよ! やりすぎだよ!」

「あたしとした事が……あたしってば、つい氷魔術の事となると熱くなってしまうのよね。なぜかしら?」

「なぜって言われても俺にはわからないよ。でも、どうしてファラエルさんは氷魔術を選んだの?」

「聞きたい!? 聞きたいわよねアレフ君! さすがあたしの最大の理解者を名乗る事だけの事はあるわ。あのね、思い起こせば遠い昔、とっても生意気な炎使いの魔術師がいてね……」

「ええと、ファラエルさん? その話って長くなる?」


 ほら、一応……聞いておかなきゃね。大事な事だし。


 ◇


 俺はモンスターを切っては捨て、千切っては投げる。


「どうして大きな草花ばかりなんだアレフ?」

「リッチーの趣味なんじゃないか?」

「食べられないのに!? 食べられないのにこんなに増やしたのか!? どうせ増やすならリンゴにしろリンゴ!」

「いやいや、この草木だってわからないぞシグ。もしかしたら食べる事が出来るかもしれないだろ!?」

「食べられるのかアレフ!? それって美味いのか!? リンゴより美味いのか!?」

「いや、あの、知らないけど……ファラエルさんわかる?」

「食用じゃないんじゃない? だって、そもそもリッチーには物を食べる必要なんて無いもの」

「じゃあ、やっぱりこのお化けチューリップや毒水パセリは趣味の結果なんだ? 変なリッチーだね」

「そうね。わざわざこんなジメジメした所に住んでいるのも変だし、こんなに奇妙な植物をたくさんダンジョンに放っているのも意味がわからないわ」

「成長のクリスタルと何か関係があるのかな?」

「生命……成長……。そういったものに興味を持っているリッチーだと言う事は確かね。まぁ、変人だと思うわ」

「ファラエルさん、変人って?」

「ま、変人だからリッチーなんかに成るんでしょうね」


 ◇


 で、階段を見つけたわけだ。


「また上への階段があるな。ずいぶんと高い建物なのだな」

「外から見たとき、塔になってたからね、シグちゃんも見たでしょ?」

「うん。窓に(つた)が絡まってる。そうか、もうそんなところまで上ってきたのか吾らは。ジメジメともおさらばだな」

「そうだね、リッチーはきっと上の階で研究をしてるんだよ」

「ボンキュッボンのか!? 成長剤の研究なのだな!?」

「そ、それはわからないけど。本や薬品、湿ってはいけないものが上の階に置いてあるんだと思うよ?」

「おお、さすがアレフ。鋭いな?」

「そうね。研究するにも生活するにも、ジメジメはちょっとね。あたしなら遠慮したいわね」

「魔術師のファラエルがそう言うのだから、正しくそうなのだろうな! ああ、楽しみだ! ワクワクが止まらないぞ! 吾の望みがやっと叶うのだからな!」

「そんなに大人になりたいの? シグちゃん」

「当たり前……ってジュリア! 吾は既に大人だ! 立派なレディなのだ!!」

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