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きたぞ、ぼくらのまほうつかい

「寒かったのだー! リンゴは凍ってないのだ、ありがたいのだ……」


 両手に抱えたリンゴに(かじ)り付きつつ、シグがぼやく。


「なんとか雪玉を全部やっつけたのは良かったのですが……ファラエルさん、どうして炎の魔術を使ってくれなかったんですか?」


 俺は正直な疑問をぶつけてみた。


「そうです! 炎の魔術なら雪玉なんてあっという間だったはずです!」

「エレガントなのはやっぱり氷の魔術よね。わかるでしょ? アレフ君。アレフ君ならわかってくれるわよね? どう? すごかったでしょ、あたしのアイスファランクス。習得には結構苦労したのよね。私、あの技にはかなり成長ポイントつぎ込んだのよ?」

「ま、まさかファラエルさん使えないことで有名で、人気も無い氷魔術を極めてるんじゃ……!」

「え? まさかとは思いますけど、ファラエルさんって炎の魔術を使えないんですか?」

「なんだと!? ファラエルは炎の魔術を使えない魔術師だったと!?」


 なぜ俺を見る。

 目を三角にして、とがめるようなシグ。

 何かいけないものでも見ているような、優しげなジュリアの視線。

 そして、すがるような目線で上目遣いに俺を見つめるファラエルさん。


「ファラエルさん!? そこのところどうなんです!? 何か理由があるんでしょう?」

「どうしてみんなは氷魔術の良さが理解できないの!? あたしをどうしてパーティに入れたがらないのよ! おかしいでしょ、あたしは氷魔術を極めているのよ。なのに炎使いだけが優遇されるなんて世の中おかしいと思わない? 思うでしょ!? ねぇねぇそうよね!?」

「「「え?」」」


 シグもジュリアも固まった。

 当然俺も固まったんだけど、何か空気が違ってた。


「アレフ君なら、あたしの苦しみわかってくれるわよね!? 無能、役立たずと蔑まれるこの気持ち、アレフ君ならきっと!」


 わかる。

 痛いほど、ファラエルさんの気持ちはわかるけど……。


「アレフ……吾が騎士よ。哀れな奴」

「アレフ……かわいそう。本当にかわいそう」


 見るな!

 見るなよお前達! そんな目で俺を見るなって!!


 ◇


 そんな時だ。

 他のパーティの戦士から声がかかったのは。


「おー? ファラエルは役立たずと組むのか? 能無しのアレフと氷狂いのファラエルか。役立たず同士、良いパーティになるんじゃねぇか?」

「なにおう!? あいつ毎回毎回、吾の騎士アレフをバカにしおって! 氷狂いのイカレ魔術師もその魔力で敵を押し切ったのだ! それになにより、アレフをバカにする奴は許せん!」

「そうよ! アレフをバカにしないで! それにファラエルさんだって、やる事は滅茶苦茶だったけど頑張ったんだから!」

「シグ……ジュリア……」

「ああ、これが仲間……あたし、あなたたちのパーティに入って良かった……! あなたたちに出会えた事、本当に嬉しい!」


 ファラエルさんの目が(うる)む。


「なんでぇなんでぇ! 俺だけが悪者かよこの役立たずども!」

「お前は最初から悪役だろうが!」

「そうよ! アレフをバカにする人は女神ライアの名に掛けて許さないんだから! それにファラエルさんだって、役立たずじゃないし!」

「ぐぬぬ……!」

「なぁ、いつものように暴力に頼らないのかよ」

「けっ! 付き合っていられるか! 勝手にやってろ無能ども」

「逃げるのかこのチキン! お前なんか吾の騎士、アレフが相手になるぞ!」


 自分で相手をしないところがシグらしい。


「そうよ! アレフならあなたなんて一捻りなんだから!」

「そうよ! アレフ君の剣の腕、最近結構筋が良いのよ!?」


 ここまで言われては男は引き下がれなかったようだ。


「テメェら……そこまで言うならやってやらぁ! これでも食らえこの能無し!」


 男の拳が迫り来る。<<戦士>>スキル全開にした力任せの一撃だ。

 俺は自然と剣の鞘を滑らせる。

 男の拳が鞘に沿って流れ行く。


「何ィ!?」

「なんだ、この前と同じじゃないか。学習しない奴だな」


 男はそのままバランスを崩して……。

 どう、と倒れる男の体。テーブルと椅子を巻き込み頭から突っ込んだ。


「良くやったアレフ!」

「アレフ凄い!」

「アレフ君、やるな君!」


 ◇


「成長のクリスタル?」


 ファラエルさんはシグの問いかけに顔を上げる。プラチナブロンドの髪が揺れた。


「そうなのだ。ファラエルは炎の魔術を使えなくても一応は魔術師なのだから、何か知っているのではないかと思ってな!」

「……引っかかる言い方ね」


 トゲのある物言いも、当然シグには通じない。


「成長のクリスタルを沢山つけても吾の体がボンキュッボンにならなかったのだ! 何か秘密は無いのか!? 吾のアイテムの使い方が悪かったのか!?」

「それは東の水源近くで?」

「そうそう。そうだとも」

「ええとね、あの山の上には古くから死者の魔法使い、リッチーが城を構えているという話があるの。ダンジョンがあるらしいわ。もしかすると、そいつが悪さをしていたのかもしれないわね」

「リッチーだと!?」

「ええ」

「邪悪な狡猾なアンデッドですね。ライア様の敵です。でも、死者の魔法使いですよ? 気持ち悪くないですか? リッチーって」

「待て待て待て! そのリッチーとやらが成長のクリスタルを使って何か研究をしていたとすると、もしかするともしかしてそのリッチーは吾をボンキュッボンにする秘密を握ってるかもしれん!」


 ──はぁ? いきなり何を言い出す、このチビッ子は!

 相手は無く子も黙る魔法使い、アンデッドのリッチーだぞ!?


「アレフ! 吾の騎士アレフ! そのリッチーに会いに行くぞ! そして見事そのリッチーを説き伏せたあかつきには吾の凄さ、大人の魅力を見せてやる!! お前達、今から楽しみにしておくのだな! はっはっは!!」

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