今日もなかよくパセリつみ
「アレフ! 片っ端から片付けろ!」
「もちろん!」
「ジュリアも援護をたのむ! 全ては吾のリンゴのために!」
あ、リンゴのためなんだ?
「シグちゃん、リンゴのためなの!? ライア様、そんな事じゃきっと怒っちゃうよ!?」
あ。ジュリアってば注意するところって、そこなんだ?
◇
俺達は山ほど蠢いている毒水パセリを切り裂いてゆく。
今度は触手に気をつけながら。
「アレフ! 動きが良くなって来たではないか!」
「そうなんだよ。さては<<剣士>>の習熟度が上がったのかな?」
「そうかもな! それともしかすると、この数のモンスターを倒したのだ。レベルアップしたのかも知れんぞ!?」
と、シグがパセリを殴る。
「俺って強くってるのかシグ!?」
と、俺がパセリを切りつける。
「ん、少なくともカッコ良くなってる! 動きに切れがあるな!」
と、シグが枝をかわして蹴り一発。
「それにしても凄い数だな。どういうことなんだ?」
と、俺が振り向きざまに幹を切りつける。
「そんな事、俺にはわからないよシグ。ジュリア、わかるか」
「ううん……全然わからない。それよりも、よそ見しないで気をつけて!」
「おう!」
俺は剣を振るい続ける。
切り飛ばされる触手。
切断させる幹。
飛び散る毒液、跳び退く俺。
「しかし、何だこの数……キリが無いぞシグ!」
「バカな! アレフ、まさかお前諦めると言うのでは無いな!? 引き上げるというのではないな!?」
「シグ?」
「リンゴはどうなるのだ! このままでは吾のリンゴは!」
そ、そうか。やっぱりリンゴのためなんだ?
「仕方ないだろ!?」
「仕方なくない!」
「だってこの数、どうしろと言うんだよ!」
「全部やっつける!」
「いやいや、キリが無いって!」
「ぐぬぬ……!」
「って……アレフ! シグちゃん! あれを見て?」
ジュリアが示す先。そこには切り伏せた毒水パセリの残骸。
なにもない──って。
何かが光った。
「何だ?」
「何かある! 光ってるの!」
俺はジュリアの示すそれを摘み上げる。
それは小さなクリスタル。緑色のクリスタルだ。
「これって──」
「あ、あっちのも持ってる!」
「こちらのも持ってたわ!」
俺とジュリアはクリスタルをせっせと拾い集める。
「シグ! 一度引き返そう!」
「なんだとアレフ!?」
◇
「どうして引き返したのだアレフ!」
シグがリンゴを食べる事ができずに拗ねている。
「手掛かりを手に入れたからだよシグ」
「手掛かりだと?」
「うん」
「リンゴが食えるのか!?」
いや……だから、違う……違わないけれど。
「クリスタルを見つけたの。あの毒水パセリの全部にこの小さなクリスタルが入っていた──」
「わかったぞ!? そのクリスタルは何カパーで売れるのだ!? リンゴ幾つ分になるのだ!?」
「いやいや、違うから。売り物じゃないから」
◇
「クリスタルですか。緑のクリスタル……毒水パセリ……うーん……」
「何かわかります? サンディさん?」
金髪を指でくるりとさせながら、冒険者ギルド受付のサンディさんは困ったように目を伏せる。
「すみません、私では何の事だか……せめて<<鑑定>>スキル持ちの人ならあるいは」
「そっか。<<鑑定>>か……」
◇
シグのクリッとした目が輝いた。
「ふーん。それを調べる事で原因を探すのか。良く頭が回るなアレフ! さすが吾の騎士!」
「サンディさんに聞いてもわからなかった。シグ、<<鑑定>>をしてくれるか?」
「リンゴをくれるのか!?」
「いや、あの、だから……」
「くれないのか……」
「<<鑑定>>出来たなら、リンゴをまた食べれるようになるかも?」
「そうなのか!? ならば<<鑑定>>するぞ! する!
名前:成長のクリスタル
用途:生物の成長を促進させる。
生物の成長を促進させる!? こ、これを吾に譲れ! こ、これがあれば吾もジュリアのような豊満な乳に……ボンキュッボンな体に……なぁアレフ! 良いだろう!? 吾に一つ、一つで良いから譲れ! な? 吾に一つ寄越せ!」
「シグは竜人族だから、これ一つぐらいじゃ成長しないと思うよ?」
俺は一つクリスタルをシグに手渡した。
シグの顔がぱぁっと明るく。
ああシグ。そんなに嬉しいのかお前は。
とはいえ、ドラゴンにどんどん成長されても困る。
変身したら山より大きくなりました、ってことになりかねない。
「何を言うか! また子供扱いして! 吾は竜人族の皇女、シグルデだぞ!? 吾はもう一人前なのだ! 立派なレディなのだからな! そこのところを間違えるなよアレフ!!」
「はいはい」
「むー! 子ども扱いするな!!」
「シグちゃんは十分大人だよ? 女神ライア様もきっとそう思ってるよ!」
「おお! 分かってくれるかジュリア!」
「もちろん! 私はいつでもシグちゃんの味方だし!」
「明日も行くぞ! 行ってこの成長のクリスタルを全部吾のものにするのだ! 良いなアレフ! ジュリア!」
「はいはい。もちろん付き合うよ。可愛いシグのためだしな!」
俺は気合を入れる。
なぜかシグは赤く膨れ顔。
「シグちゃんったら可愛い!」
ジュリアが笑う。
「よく言ったアレフにジュリア! でも可愛い言うな! 麗しいと言え! 吾は可愛いのではない。麗しいのだ!」
せいいっぱい背伸びして、シグは言ってくれた。