リンゴのびょうき
「リンゴはどうしたのだ! 今日のリンゴは! 吾のリンゴ!」
シグは烈火のように怒ってくれた。
買いたくても、買えなかったんだよね。リンゴ。
いつもの店が開いてなかったんだ。
まぁ、店が閉まってたのはリンゴ屋さんだけじゃなかったのだけど。
「まぁ落ち着いて聞いてくれよシグ」
「これが落ち着いていられるかぁ! リンゴ! ああ、吾のリンゴぉ!!」
「まぁまぁ、シグちゃん落ち着いて」
「ジュリアも止めるな! 今日という今日はアレフ! そもそも姫付きの騎士と言う者は……!」
「お腹をこわすかもしれないんだ。変な病気が流行っているんだよシグ」
「それとリンゴとどう関係がある」
「ええとね、リンゴも原因かもしれないって、市場が閉まっちゃって。リンゴ屋さんが開いてなかったんだよ」
「なんだそれは! 意味がわからないぞ!」
「ええとねシグちゃん。リンゴがどこにも売ってないの」
「リ、リンゴぉ~!!」
今にも泣き出しそうなシグがジュリアの胸に顔を埋めている。
あ、泣きすぎて鼻水。糸引いた!
全く……子供だなぁ、シグは。
「アレフ!」
「何だよ」
「病気の原因を突き止めるぞ!」
「え?」
「病気を何とかしないとリンゴが食えない! そんな事が許されてたまるか!」
「リンゴ?」
「そうだ! どの家の者が病気になっているのか、調べるんだ!」
◇
俺達はテーブルに街の地図を広げる。
「さすがジュリア。良く情報を集めて来たな?」
「はい、ライア教会に来る患者さんのお家を聞いたんです」
「これがその人々の家を街の地図に書き込んだ図面だよ」
「ふむ……」
川を挟んで東側の家々に圧倒的に多い。
市場とは関係なさそう。
と、言うよりこれは……。
「ねぇアレフ、わかる?」
「うーん」
「アレフ! わからないのかお前、使えないな」
「考えてるんだよ!」
東側、街の東側……あ、これってもしかして……!
オレの頭の中で何かが閃いた。
たぶんそうだ。恐らく間違いない!
「わかったぞ!?」
「アレフ?」
「凄いアレフ、教えて?」
顔を上げたジュリアの胸が揺れる。
「そうだぞアレフ! 早く言え!!」
シグが早く吐けと急かす。
「あのね──」
◇
東側の市街を歩きながら俺は二人に説明する。
「上水道?」
「うん」
「水道とは何だ?」
「この街は街の外から飲み水を引いている地域があるんだ。病気になっている人たちの家は全部この水道から引いた水を飲んでいる」
「それでそれで? アレフそれで?」
「で、なんなのだアレフ!」
「きっとその上水道に何か起こったんだ。だからこの地域の人たちがみんな同じ病気に……なぁ、水源に行ってみないか?」
「凄い……良く気づいたわね、アレフ」
「おお、冴えてるなアレフ!」
「じゃぁ、決まりだね。水源に行こう! さぁ、急ごう?」
俺達は駆け出した。
◇
岩場……そこに水場がある。
「やっぱりだ。見ろよあれ」
「何か藻が生えてるな?」
「でも、やけに大きくないかな?」
「モンスター?」
「たぶん。あのモンスターが水路に詰まってるんだよ、きっと」
「あれって植物モンスターの毒水パセリ?」
「知ってるのシグちゃん?」
「ぐぬぬぬぬ、あんなモンスターのせいで吾のリンゴが……許・せ・ん! 毒を垂れ流しおって!」
「倒そう、シグ」
「当然だアレフ!」
俺とシグは側面から回り込んで毒水パセリに躍りかかる。
「地面に揚げるんだシグ!」
「わかったアレフ!」
シグが毒水パセリの幹にパンチ。浮き上がったところで蹴りを叩き込む。
毒水パセリは水路から浮き揚がり転がった。
俺は迫る触手を掻い潜り、毒水パセリとの距離を詰め──。
ブン!
触手が俺の腕を打つ。途端に青く変色する俺の左腕。
「アレフ! 毒か!?」
「キュアポイズン! ヒール!! ライア様アレフを助けて!」
すかさずジュリアの支援が飛ぶ。
左腕から痛みが消える。
俺は両手で剣を握って──打ち下ろす!
ズダン!
俺は毒水パセリの幹を両断した。
幹からどろりとした毒液が流れ出す。
「うう、汚ねぇ……」
「やったのかアレフ!?」
「やった。やっつけた」
「良くやったアレフ! これでまたリンゴが食べれるな!? 病気はリンゴのせいではなかったのだな!?」
「そうだよ。病気はこいつらのせい……こいつ、ら?」
俺が目を向けた先。
そこには毒水パセリが、うじゃうじゃと群生していて……。
えー!? これ全部毒水パセリ!?