表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/82

初心をわすれずに

「うんまうんま」


 シグがリンゴを齧る。


「うんまうんま」


 俺は肉汁滴るイノシシ肉を頬張った。


「勝ててよかったですね。イノシシの牙も毛皮も結構な額で買い取ってもらえましたし」

「結果論だがな!」

「高く買い取ってもらった分は全部リンゴの代金に消えました……ライア様への寄付金も残りませんでした」

「はっはっは。何せ(われ)が活躍したからな! 正当な報酬だ!! (われ)の蹴りが勝負を決めたのだからな!」

「そこは俺の一撃だろ!?」

「連続ヒールをかけられながらピーピー喚いていたのはアレフではないか!」

「あ、はい。……ソウデスネ」

「アレフ! お前は恐れ多くも竜人族の皇女、吾を守るべき騎士たる自覚が足りん! 実力もだ!」


 俺の鼻柱に、びしっと指を突きつけ無い胸を張るシグルデ。


「俺が弱い?」

「弱いぞアレフ! お前はせめて剣の習熟度がSにならねばな!」

「習熟度S!? それって辛くない!?」

「何を言うかバカ者! 修行だ! 修行するのだアレフ!!」

「修行って言ったって……」


「そうだぜ嬢ちゃん。何せこいつは無能の役立たずだからな。今まで生きて冒険者を続けているのが信じられないくらいだ」


 現れたのは一人の男。

 いつも俺に因縁を突ける嫌な冒険者仲間だ。


「雑魚は引っ込め!」


 でも、俺より先にシグがその男に噛み付いた。


「何だとクソガキ!?」

「ガキではない! 子ども扱いするな! 吾はシグルデ! 偉大なる竜人族の皇女!! 立派な大人だ!!」

「何の遊びが流行ってるんだい、お嬢ちゃん?」

「ぐぬぬ、むぬぬ、ぐぬぬぬぬぬ! やれアレフ! この生意気なカス戦士を叩きのめせ!!」

「ちょっとシグちゃん!?」

「ええい、止めるなジュリア! やれ、やっつけるのだアレフ!!」


「おう能無し。俺はどっちでも良いぜ? しかし、ちょうど嬢ちゃんの替わりにお前を殴りたくなったなぁ……」


 と、いきなり迫る鉄拳!

 俺はひらりとかわすと剣の鞘で男の胴を突く。

 それは見事に吸い込まれて鳩尾へ。


「ぐはぁ!?」

「俺も続けても良いぜ? ただし、お前がこの場でシグルデに謝ってくれたら考え直さない事もない」


 俺は悶絶する男の首にピトピトと剣の鞘を数回当てる。


「わ、悪かった、俺が悪かった……! これで良いだろ!? 能無しの癖に!」

「その能無しに負けた気持ちはどんな気持ちだ?」

「うるせぇ能無し! <<戦士>>十一レベルの俺をバカにするなよ!? 覚えとけ!」


 ◇


「やるではないかアレフ。さすが吾の騎士」

「私はアレフが殴られるんじゃないかって冷や冷やしました……」

「ジュリアは心配性だなぁ」

「だってだって、私アレフに怪我して欲しくないし! 毎回ライア様にお願いするのも気が引けるし!」

「どれアレフ。久しぶりに<<鑑定>>してやろう。喜べ!


 アレフ 人間 男 15歳

 冒険者レベル:8

 スキル:剣士     習熟度C

     竜殺し    習熟度E

     才能限界突破


 おおお! アレフ! もう八レベルでは無いか! さすがスケルトンハンターを名乗るだけはある!」

「名乗ってないから! しかもそのスケルトンハンターってしょぼい称号は何!」

「さっきの男は<<戦士>>十一レベルと言ったな。アレフが剣を使ったから勝てたのだろう。もう少しすると、殴り合いでも勝てるようになるのではないか?」

「そうだね」

「それにしてもさっきのアレフの顔……吾の騎士に似合わぬ悪党面だったぞ!」

「シグを守るために必死だったんだよ!」

「バカにされていたから恨みが一気に噴出したのではないか?」

「そんなこと無いって! 俺は英雄を目指すの! 真の英雄はそんな表情しないから!!」

「それにしては、たいしたゲス顔だったような……なぁジュリア。どう思う?」

「え!? いや、わたしはそんな……大丈夫、いつものアレフだったよ?」

「だよな、ジュリア」

「そうだろうか……全く。ジュリアはいつもアレフに甘いのだ!」


 ◇

 

 ここは橋の下。

 いつもの河原だ。


 ブン! ブン! ブン!

 

 俺は素振りを繰り返す。

 何をしているのかって?

 特訓だよ特訓。

 先日シグに「弱い」って言われたからじゃないぞ!?

 俺は俺で、毎日努力してるんだ!

 ……毎日の素振りの効果は余りわからないけれど。


 チャポン。

 川縁にウキが浮く。

 

 いつものお爺さんだ。

 毎日ここで釣りをしてるんだよね、このお爺さん。

 それに今日は魔法使いのお姉さんもいる。

 紫色のローブに身を包んだ細身の美人だ。

 釣り好きなお姉さんで、だいたいいつもこの二人が俺の素振りの観客になる。

 

「ほっほっほ。腰が入っとらんぞ少年」


 などと、わかったようなわからないような声をいつも掛けてくれるお爺さん。


「しかし少年、見違えるのぅ。初めは箸にも棒にも引っかからないほどのヘタクソだったと言うのにのぅ」


 うぐっ、悔しいけれど、言い返せない。

 何せこのお爺さん、毎日俺の素振りを見ていたものなぁ……。


「そうね坊や。まだまだね」


 うぐっ……! お姉さんの厳しいお言葉!

 

「──ね、お爺さん。私には良くわからないけれど、そうなんでしょ?」

 

 って、わかってなかったのかよ!


「そうじゃな、カッカッカ!」

「あ、お爺さん竿竿! 浮きを引いてる引いてる!!」

「なんじゃと!?」


 お爺さんが釣り上げたもの。

 バシャァ……それは見事な型の魚だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ