スキルのなぞ
「ジュリア。俺のスキルの事なんだけど」
「なぁにアレフ?」
「しばらくみんなには秘密にしておいて欲しいんだ」
「え? どうして!? アレフがスキルを貰えたのは、きっとライア様のお導きだよ!」
「それは置いておいて……俺がスキルを使えるようになったとわかれば、みんな驚くと思うし。急にスキルが現れたのも変だし」
「うーん。でも、アレフのスキルってとても凄いものばかりだよ? レアだよ!? 凄いじゃない!」
「だからだよ」
「どういうこと?」
「俺はさ、今まで散々バカにされてきて、せっかく手に入れたものを失いたくないんだ。せっかく良い気分に浸れているんだから、もう二度と絶望を味わいたくないんだ」
「それって……スキルがなくなっちゃうかもしれないって事? ライア様はそんな事しないよ!」
「だからそのライア様の機嫌が急に悪くなって、スキルを取り上げられる可能性もあるって事!」
◇
街を見下ろす丘の上。
ここに来るのもずいぶんと久しぶりだ。
「そんな事があったんだ。シグちゃんがドラゴンね……力あるドラゴンの血を浴びたから、アレフにスキルが芽生えた……そういう事? なんだ。ライア様のおかげじゃないんだ」
「うん。シグがいなくなったとたん、スキルも消えちゃうような気もして」
「考え過ぎ……っていう事は簡単だけど、何もわからないよね。王都にある図書館で調べれば、何かわかるかも知れないけど」
「図書館?」
「うん。神父様が言ってたんだ。王都には本がいっぱい集められた大きな図書館があるって。図書館に行けば、この世の中の事が全部わかるらしいよ?」
「ジュリア、そうなんだ?」
「うん」
「図書館ね」
「うん、図書館」
「王都に行く機会があったらちょっと調べてみても良いかもね」
「そうだね! それがいいと思うよ?」
微笑むジュリアの笑顔が眩しい。
冒険者ギルドに戻ろう。
シグが待ってる。
◇
俺がギルドの扉を潜るなり、シグが跳びついて来た。
「アレフ! リンゴが食べたいのだ!」
「はいはい。それには稼がなくちゃね」
「早く稼ぐのだアレフ! 吾のリンゴの代金を稼げ!」
「はいはい」
「おい役立たず。お前、この前スケルトン騒ぎを鎮めたそうだな?」
「偶然ですよ」
「もちろんそうだろうよ。何もお前には期待しちゃいねぇさ。ただ、やっと一端の冒険者らしい事ができるようになったじゃねぇか、という事が言いたいわけよ、この俺様は!」
「そうですか。ありがとうございます」
「ま、無能は無能でも、無能なりに役に立てや!」
「はい!」
変わった。
「アレフさん。アレフさん達にちょうど良い仕事がありますよ? どうです?」
と、サンディさん。
変わったと思う。
周りの反応が少し変わったのかもしれない。
いや、変わったのは俺の沈んでいた心かな?
シグと知り合った。
スキルを手に入れた。
ジュリアと一緒に冒険が出来るようになった。
これって俺、流れが来てる? ついてる!?
◇
ここは墓地。
もう直ぐ日が暮れる。
サンディさんの話では、日没後にゾンビが現れるという話だが……。
「墓地にゾンビが出るんでしょ?」
「そうらしい。ジュリア、頼めるか?」
「何をすると言いの?」
「ターンアンデッド。悪霊払い」
「うん。でも、お化け怖いよ」
「大丈夫だよ。ジュリアの祈りで天国に成仏させてやるんだ」
「私に出来るかな?」
「でき──」
「出来るとも! 竜人族の背後を取ったジュリアならな! ジュリア、お前は見所があるぞ! 吾が保障する!!」
「シグちゃんったら……」
「俺もシグの言うとおりだと思うよ? ジュリアなら出来るって。大丈夫!」
「そ、そうかなアレフ」
「うんうん!」
俺たちは墓石に身を潜めて待つ。
そして日は落ちて──。
モゴッ……モゴッ……。
「あ」
「出た」
「きゃーーーーーっ! 気持ち悪いーーーーーっ!」
地面を突き破り、モゴモゴと突き出る腕。
そして墓地のあちらこちらから、モゴリボゴリと現れ出てくるゾンビたち。
「出てきたな」
「来たね」
「何あれーーーーっ! グロいーーーーーーーっ!」
揺れるゾンビ。
ゆらゆら、ゆらゆら。
「きゃーーーーーっ! いやーーーーーーーーっ! 助けてライア様ーーーーーーーーっ!」
「ジュリア、ターンアンデッド、ターンアンデッド!」
「何を騒いでおるのだー! 出番だぞジュリアー!」
騒ぐジュリアの声に誘われて、ゾンビがそろりそろりと寄って来る。
「た、た、た……」
「ターンアンデッドだ、ターンアンデッド!」
「ジュリアー!」
「きゃーーーーーっ! 無理、無理無理ーーーっ!」
「アレフー! 剣だ、剣で戦うぞ!」
「お、おう!」
俺はジュリアに迫るゾンビの目の前に躍り出る。
「ジュリア、下がってろ!」
「う、うん」
切る。切る。
切る切る切る!
シグが殴る。蹴飛ばす、そして潰す。
ゾンビがちぎれ、砕け、腐った肉が飛び散って……。
「きゃーーーーーっ! いやーーーーーーーーっ! 助けてーーーーーーーーっ!」
おいおいジュリアぁ……。
夜更けの墓地に、ジュリアの切り裂く悲鳴が木霊する。