きたぞ、ぼくらのプリースト
「私はライア教の教会でプリースト見習いをしているジュリアと言います。そこのアレフとは孤児院時代からの幼馴染で、親友です」
「ライア教……やっぱり怪しい。信用できない」
「はい、これリンゴです。おやつに持ってきました」
ジト目のシグは、直ぐに笑顔に変わる。
「うんまうんま。美味しいぞジュリア! ライア教徒は良い人! ジュリアは良い人だな!!」
「ありがとうございます」
「聞いて驚けジュリアとやら! 吾は竜人族の皇女、シグルデだ!!」
シグは無い胸をまた張った。
ジュリアと並ぶとその胸の無さが一層際立つ。
「リュウジン族……皇女様?」
「そうなのだ! 偉いのだ!」
「偉いですね!」
「うむうむ! で、リンゴはこれでもう終わりかジュリアよ!」
「あ、後一個あります」
「(じー……)」
物欲しそうにジュリアを見詰めるシグ。
「差し上げますよ。はい、どうぞシグルデさん」
「シグで良い!」
「はい、シグちゃん。シグちゃんは可愛いですね!」
「ジュリアも失礼な事を言うのか! みんなからそう言われるのだ! 吾は立派な大人のレディなのに!」
シグは拗ねてみせる。
「おやまぁ。ごめんなさい」
「わかれば良いのだわかれば! リンゴ……ああ、もう終わりだったな」
「すみません」
「で。人間のプリースト、邪神ライアの使徒ジュリア!」
「ライア様は邪神じゃありません!」
「ジュリアよ! 侘びとしてリンゴが無ければ体を差し出せ!」
ジュリアはとっさに豊かな胸を両手で抱える。
──はぁ?
シグはとんでもない事を言い出したようなのだ。
◇
「よう無能。今日はまたずいぶんと可愛い子を連れているじゃないか」
冒険者ギルドの扉を潜って一番にかけられた言葉かこれだ。
「この子は俺の大切な人だ! 手を出すな!」
「あ!? 役立たずのアレフがえらくデカイ口をきくじゃないか」
「ジュリアに手を出すな!」
「へぇ。ジュリアちゃんか。その聖印……ライア教のプリーストだな?」
「そ、そうですけど」
「俺達のところに来ないか? 悪いようにはしないからさ?」
「ふざけるなよ!? ジュリアは俺のものだ!」
「ちょ、ちょっとアレフ! そんな、こんな所で……」
そこに作られる、俺とジュリアの二人だけの世界。
気づけば奴は引いていた。
「ちっ……ちょっとした冗談じゃねぇか。本気になりやがってこの無能!」
「なんと言われようとジュリアは渡さない」
「わかったよ、うぜぇな」
「私も行きません!」
「嬢ちゃん……!」
「あはは、振られたね!」
「うるせぇ!」
奴の仲間の冷やかしに、奴が言い返したことで騒動は終わった。
でも俺、とっさの事だったけど何だか恥ずかしい台詞を言ったような?
まぁ良いや。
◇
「って、事で……この子、ジュリアの冒険者登録をお願いします。サンディさん」
「あら。また仲間を見つけてきたのねアレフ君」
サンディさんが首を傾げる。
金色の髪が揺れた。
「ジュリアちゃん。クラスは?」
「プリーストです」
「種族は人間ね? 女性っと」
「はい」
「年は……」
「アレフと同じで、十五歳です」
「十五歳っと。はい、登録完了! これでジュリアちゃんも冒険者の一員よ?」
「アレフ。改めてよろしくね!」
ハキハキ答えていたジュリア。
そのジュリアが右手を差し出す。
黒髪のポニーテイルが揺れる。
「よろしくジュリア」
俺はジュリアの手を堅く握り締めた。
◇
「さて、プリーストが仲間になったわけだ。これでスケルトンは怖くないな! ではアレフ。お宝探しにデスマウント山に行くぞ!」
リンゴを齧りつつ、シグがとんでもない事を言い出す。
俺は慌てて止めた。
「ちょっと待ったシグ! デスマウント山!? 俺たちみたいな駆け出しの冒険者には無理だって!」
「何を言うか。何事にも初回がある。挑戦なくして成功は無いぞ!?」
「いやいや、現実を見ようよ。仲間が増えて、プリーストが増えたわけだけど三人だよ!? ジュリアもそう思うよね!?」
「デスマウント山……モンスターの巣窟と聞きます。アレフ、どの位強くなったの?」
「おお、久しぶりにアレフの<<鑑定>>をしてみるか! どれ?
アレフ 人間 男 15歳
冒険者レベル:3
スキル:剣士 習熟度C
竜殺し 習熟度E
才能限界突破
ふむ、剣の修行が足りてないな! あはは!! 修行が足りんぞアレフ!!」
「あはは、じゃ無いって!」
「アレフ、スキルが……スキルが貰えたの!?」
「うん、実はそうなんだ!」
以前はジュリアを真っ直ぐ見れなかった。
でも今は、ジュリアを見返せる。
胸を張って見返せる。
俺にもスキルがある。
これから、俺はこれからなんだ!