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2-1

 朝起きたら床の上で、体の下はフワフワしていなかった。俺の手は未だ時計を持っている。俺が魔王になったのは夢では無いのか。嬉しいような残念なような、よくわからない気持ちになる。

 立ち上がってみると、夜中は暗くて見えなかったフェルナンド…じゃなかった。左近の部屋が見渡せた。結構大人びた部屋だ。この部屋の主が抱き枕を抱いて寝ている子供だというのは信じにくい話である。

 そこで、俺はデスクの上の俺に宛てられたメモを見つけた。なんと、俺のより綺麗に書かれた地図だった。多分これは左近が書いたもの。くそう。負けた。


「おはざーっす」


 普段なら許されない挨拶で地図に書いてあった場所の扉を開けた。そこには左近、ニセ神の他に、たくさんの【怪物】(モンスター)の姿があった。…はいいが、何故か左近とニセ神とあと誰か以外、俺とは逆の方向に靡くように吹っ飛ばされていった。その中には消えてしまう者もいくつかいる。俺のせいかな?


「ほう。これが例の」


 戸惑ってる俺に唐突に話しかけてきたのは吹き飛ばされなかった人だ。眉目端麗なお方とはきっとこいつのことだな。


「ええっと?」

「こちら、第13代魔王様です。魔王様、こちらは昨日の都市の大臣、トール様です」


 あ、俺13代目なのね。意外と歴代魔王少ないのね。てか大臣って敵じゃないのか?


「なんでも、【戒めの伝統】を断ち切ったとか」

「んん?そんなことしたか?俺」

「ボクら一族の名前の件です。一般的にはそう呼ばれてるんですよ」


 なるほど。っじゃなくて。


「大臣って、敵じゃねえの?」

「…敵ですね」


 いやいや、悠長に話してる場合かよ!?


「まあ待てショウキ。ここの生き物は全て争うことはしない。たとえそれが偉い奴の命令であってもじゃ。つまり、トールはわしらに手を出さないし、わしらもトールに手を出せないんじゃ。おぬしの敵は勇者唯一人なんじゃ」


 じゃあトール大臣は敵ではないと。…だが俺はこの世界の出身じゃないせいか信じられない。それと、口に出すと面倒くさくなると思うから言わないけど、この世界じゃ俺(魔王)と戦おうなんて勇者も現れないのでは?まさか、昨日ニセ神が俺と間違えたやつは実は魔王候補で、俺が勇者候補だったんじゃないか?転移させたやつ同士を戦わせようと考えるあたりがわけわかんないが、そこがニセ神らしいといえばニセ神らしい。


「トールには都市に勇者になりそうな者がいないかどうかを調べてもらっちょるから、手は出すなよ?」

「はいはい…」


 …ってか、まだ俺戦い方わからないから、戦いたくとも戦えないんだよな。それに、レベル…?『不可説不可説転』とかいうやつが超強いって意味なら、攻撃は避けなくても勝てそうだが、もし超絶雑魚なら一発で死んじゃうっていう可能性がある。それはなるべく回避したい。


「敵、か。…それにしてもフェル。どうやら力を上手く使えていないようだが?【戒め】を解いたのはどんな奴かと期待してガッカリしたぞ」

「それは申し訳ありません」

「ま、せいぜい我が勇者に敗れぬようにな。楽しませてくれよ」


 うぜぇ。一般人とはまた違った意味でうぜぇ。イケメンって性格悪いよな!それに思ったんだが、この大臣が勇者でいいんじゃないか?他と比べて『戦う気』もありそうだし、うざいし。魔王にやられるっていう、とても似合う役だと思うなあ。


「では私はもう都市に戻らねば。また会う日まで」

「じゃ、わしは都市まで送ってくるわい」

「いってらっしゃいませ」


 トール大臣とニセ神は、部屋を出ていった。俺が二人の背中を見送ってから左近の方を見ると、その奥の【怪物】たちの数はさっきの半分以上消えている。

【力】とトール大臣は言っていた。さっきのが俺の【力】ならば、自分で自分の軍の戦力を減らしてしまったことになる。…うん、馬鹿だわ。


「では…『邪魔物』もいなくなったことですし」


 漢字、それ、違う。邪魔者。


「先程トール様が仰っていた【力】の制御法を教えます」


 左近が指を鳴らすと、怪物(モンスター)のうちのゾンビみたいな奴が紙芝居みたいなものを持ってきた。表紙には『ガキでも分かる!【力】の制御、放出の仕方!』と書かれている。左近の身長の二倍もあろうゾンビが左近の指パッチン一つで来るのも異様な光景ではあるが、それ以上にこの紙芝居の題名にムカつく。


「『ガキでも分かる!【力】の制御、放出の仕方!』」

「ガキ言うな」

「ちなみにボクから見れば魔王様はガキです。赤ちゃんです。これでも60歳ですからーっ」

「なん、だとっ!?」


 なるほどおじいちゃんか!


「そのⅠ、制御の仕方!【力】を持つ者は何の訓練も無しに自分より大きいものを簡単に持てます。そのため、逆に壊すことも可能です。そして、もうお気づきだと思いますが、魔王様が開けた扉や魔王様の寝室の扉はとても重くできております。それを簡単に開けたときに風が生まれ、下部が大量に消えたのです」

「マジすか」


 俺のせいとは思っていたが、改めて言われると自分の馬鹿さ加減に呆れる。でも、ここに敵を誘き寄せて、一気に倒すってこともできそうだよな。魔王感出るな。


「そこで、それを制御するためにはそーっと開けるより他無いのです。頑張ってください」


 無茶言うな…。左近は紙を後ろに重ねた。


「そのⅡ、放出の仕方!【力】を放出するとは、敵にプレッシャーを放つのと同じで、上手くいくとかっこいい技です。放出は制御と逆で、思いっきり空想の扉を放つようなイメージをしてやります。以上です」


『おしまい』と書かれた紙を一番上にして、左近はゾンビに紙芝居を返した。結局のところそんなに絵は描いていなかったので『紙芝居』と呼んでよかったのかわからないが。


「わかりました?」

「簡潔な言葉でまとめてる分、難しいのか簡単にできるのかよくわかんねー」


 ま、物は試し…か?

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