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 俺は【怪物(モンスター)園】を出て、そっと思った。めんどくせえ……。

 入園無料だったのはよかった。というかそもそもの話、この世界では『お金』というモノが存在しないんだそうだ。なんと便利な。まあそれは置いておき、本題だ。皆ウザいくらい優しすぎたのだ。

 人々の脳内状況を前世で例えるなら、江戸幕府五代将軍徳川なんちゃらの生類憐れみの令に侵されているような感じだ。虫を殺しては処罰され、動物を殺しては処罰され、野良に餌をやらねば処罰されるという、地獄のような法令。果たしてゴキ〇リが出たときはどうすればいいのか。人を襲うモンスターが出たときはどうすればいいのか。

 ここの住人はウザいくらい優しすぎた。さっきのポンフル以上に怖いわ。なんで滅びないんだこの世界。

 街を歩いてみても武器屋はおろか道具屋もない。あるのは怪物(モンスター)のグッズ屋さんだけ…。早速このゲーム詰んだな。と、思ったその時、足に何かがぶつかった。


「イタッ…」


 見ると、そこには子供が一人。


 ………え…?なんか尻尾ついてる。それに、優しすぎる一般市民がいるなかで盛大にぶつかったのに声をかけられていない。


「すっ、すみません……ってあれ」

「?」


 俺の身長の半分もないその子供はペコリと頭を下げたが、次の瞬間俺の顔を上目遣いで見つめてきた。


「ボクが見えるんですか?」

「え、あぁうん?」

「ホントに!?」


 子供は眩しいほどの笑顔を俺に向けて言った。


「ボク、フェルナンド・ウィスキー三世です。種族は一応悪魔なんで、よろしくおねがいします」

「…ガキなのに酒みたいな名前してんのな。お前」

「気にしていることを…」


 思ったことを口に出すと、フェルナンドは拳を握りしめた。何がよろしくなのかわからないが、とりあえずこれは俺も自己紹介をした方がいいのだろうか?


「ショウキ様ですよね。やった、今日の仕事終わりっ」

「おい、待て。おい」


 なんだ、名前知ってんじゃないか。というか【今日の仕事】って、働いてるのか。チビが?


「えーっと、詳しいことはあっちに行ってから説明しますね」


 フェルナンドは俺に言葉を発する隙を与えずに、力任せに俺を大空へ放り上げた。チビに投げ飛ばされた俺は、空気が薄くなって頭がうまく回らないのとわけがわからないのでいっぱいで、次に地面に足がつくまでの記憶は飛んでいた。なんて力だ…ガキンチョ…。


「さて着きましたよ。我らが御屋敷、その名も洞窟です」

「そこ普通に洞窟でいいよね。御屋敷ってことはもしかして誰か住んでる?」


 最大限の恨みを込めた笑顔で俺は問う。もちろんフェルナンドは何食わぬ顔で返してきたが。


「誰って、これから貴方が住むんですよ。魔王様」

「は!?いや、俺、勇者になりたかったんだけど!?」

「知らないですよー…」


 魔王…?


「ほら、いつまでも座ってないで行きましょ行きましょ」

「ええーっ、ヤダーッ!」


 魔王…。ホントにこんな俺が魔王でいいのかよ。だってガキに駄々こねてるんだぞ。と、心の中で言うも虚しく、しまいには本物のガキに『ガキか…』と呟かれてしまった。


「魔王っつーのは悪役だろ?」

「どうでしょう。世界滅亡させなきゃ良いキャラじゃないですか」


 フェルナンドがイラつき始めたので、俺は渋々立ち上がった。ズボンについた土を落とすのを忘れない俺って綺麗好きでしょ。


「あ、でも、魔王になったら力次第で神にだってなれちゃうじゃないですか。神になったらあっちの世界からてきとーな人間呼び出して、代わりに魔王やらせて、自分が勇者になっちゃえばいいんじゃないですか?」

「そんなことできんのか!スゲーッ!無敵じゃん!!」

「ガキか」


 驚くべき事実。しかし、一瞬で舞い上がった気分は、はっきりと聞こえた一言で落ちた。ガキに言われるのは気に食わないが、しかしこれは事実だった。いい加減自覚するべきだな。


「行きますよー」

「あー、はいはい」


 フェルナンドを前にして迷路のような洞窟を右へ左へ進んでいくと、絨毯が敷かれ、シャンデリアがぶら下がる部屋へ出た。奥には豪華な玉座が置いてあり、そのうしろの壁には槍や剣が綺麗に飾られている。光も十分あって薄暗くはなく快適そう。


「ここが【(魔)王室】になりますね」

「ほー。椅子座ってもいいか?」

「どうぞどうぞ」


 俺は真っ直ぐに玉座へ向かい、見た目が柔らかそうだったので飛び乗った。玉座は予想通りフカフカだった。俺は肘掛けにだらしなく肘を置き、全体重を玉座に任せてリラックスした。


「極楽極楽…」

「呼んだかの!?神じゃよっ!?」

「うわぁっ!?呼んでない呼んでない呼んでない…」


 温泉のジジイみたいなこと言っていると、『あの』神が現れた。いきなりのことで、しかも魔王の屋敷に現れたので、俺は椅子ごと倒れるところだった。後でちゃんと固定してもらおう。


「ハヤトよ。魔王になる覚悟はできたかの?」

「誰ですかそれ!?なんか人違いじゃないすかそれ!!」

「ん…?誰じゃ!?」


 口をあんぐりと開けて、さっき会ったのが嘘のように驚く神。ですよね。どうりでおかしいと思った。俺が魔王だなんてね。そう思いながらもキョトンとしていると、部屋の隅にいたフェルナンドがボードを出現させ、それを神に見せる。


「ニセ神様。ハヤト様はテレポート地点が間違われて既に溺死し、元の世界へ戻らされています」

「やっちゃった。…ならばショウキよ。魔王にならぬか?」


 いきなりだな。しかも戻されたってなんだ。溺死って…。やはり俺をここに呼んだのはこの神だったのだろうか。


「断れば?」

「こんな奥まで侵入されましたので、貴方の頭と胴が離れ離れになることになりますね」


 にこやかに言わないでフェルナンドさん怖いよわかったやればいいんでしょやればどうにでもなれ!!

 こうして俺は、魔王になることを余儀なくされたのだった。

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