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終末世界の歩き方。  作者: 上野羽美
元暴力団幹部:秋津康弘2
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第五十二話「Bullet of Justice」

「・・・ここ数日まともに眠れてねぇ。目をつぶるたびにやり残したことが頭に浮かぶんだよ。憎たらしい誰かの頭に銃弾をぶち込むんだ。何発も、何発も、何発もな。頭の中のそいつは何回も何回も何回も死ぬ。だが・・目を開けると気づくんだ。・・・・奴はまだこの世界に生きてる。それが悔しくてしょうがねぇ。・・あんたもそうだろ?秋津さん」


「・・・答えたくもねぇな」


 片手で拳銃を構えたまま千葉はゆっくりとこちらに詰め寄ってくる。


「動くな、そこで止まれ」


 成塚が静かに制止して俺の後ろで拳銃を構える。千葉は指示通りに歩み寄るのをやめたが銃は構えたままだ。


「武器を捨てて、両手を上に上げろ」


「刑事さん・・あんたその恰好・・ちょっと古いんじゃないか?もう十何年前のドラマだろ?」


 成塚の羽織るモッズコートを見ながら千葉が尋ねる。


「しゃべるな。黙って武器を捨てて両手を上に上げろと言っているんだ」


「指示に従わなければ・・?」


「・・お前の仲間みたいに穴が開くぞ」


 千葉は一瞬だけ驚いた顔をすると再び口を歪ませてまるでガキみたいな笑みを作る。


「・・そうか・・ちなみに穴の開いた場所はどこだ?額か?心臓か?・・まさか撃っといて殺してねぇなんてこたぁねぇよなぁ?」


 千葉が笑いながら尋ねた途端、成塚は発砲した。今度はしっかりと弾が入っていたらしく、銃弾は俺の真横を通り抜け千葉の耳のすぐ横をまっすぐ飛んで行った。


「武器を捨てろ。次は数十センチずらして撃つ。銃弾がどこにあたるかくらい予想はつくだろう?」


「・・分かった。分かったから。ったく隣のヤクザとは違ってあぶなっかしい刑事さんだ」


 手に持った銃を足元へと落とし、両手を上に上げる。


「・・んで、次はなんだ?手錠をかけて牢屋にでもぶち込むのかい?どうせなら隣は秋津さんにしてくれ」


「うるせぇぞ千葉。こっちの要求はただ一つだ。前島さんたちと物資を返してもらう。前島さんたちはどこにいるのか答えろ」


「・・ぁあ?誰だって?」


「・・とぼけんじゃねぇぞ!!手前が連れ去った家族の事だろうが!!」


 千葉は眉を中央に寄せて、不思議そうな顔で答える。


「・・あぁ、あの家族の事か。ならお前らさっき会ってるだろう?よく見てなかったのか?」


「うるせぇ!!さっさと場所を言え!!」


「・・言うも何もそこにいるだろうが」


 口元を大きく横に開き親指で入り口を指す。


「そこでフェンス引っ掻いてんのが見えなかったのか?」


 指の差す方向にゆっくりと目をやる。連中が大量にいたフェンスの向こうで見覚えのある顔が真っ白な顔で血を流しながらフェンスにしがみつき、こちらを視界に入れながら中に入ろうと必死でフェンスを揺らしているのが目に入った。


「・・人の出入りがあることがバレたらしくてなぁ・・。昨日ここに戻ってきたはいいがゾンビが群がって中に入れなくなっていやがった。中にも物資があるからそうそう手放すわけにはいかねぇときたもんだ。ちょうどいい囮だった」


 千葉の言葉が遠く聞こえている。その代りに遠くで鳴っているはずのフェンスの音がやけに耳の近くで響いていた。

 怒りは沸き上がらなかった。無感情のままその光景だけが目に焼き付けられていた。


「手始めに泣き叫ぶ子供らを投げ入れてやった。ゾンビ共はフェンスに夢中だったが、ガキが泣き叫ぶもんだからすぐに奴らはその姿に気づいて束になって食いに来た。ありゃあなんていうかそうだな・・・池の鯉を思い出したぜ。女のガキの方の手をパン屑みたいにちぎって無心で連中は貪ってた。あれがそうだ。一番手前で片腕でフェンスを握ってるだろう?」


 得意げに話す千葉に成塚でさえも言葉を失っている。


「男のガキの方はひでぇもんさ。今だに五体満足だが腹ん中身が全部食われちまった。女の方は手を食いちぎられたショックですぐ逝っちまったが・・男の方は随分息が長かったぞ。痛かっただろうなぁ・・。自分の腸が道具も使わず引きずり出されるんだ。想像したことあるか?その痛みを?」


「・・やめろ」


「両親は・・まぁ、これが傑作なんだが・・ガキ二人が転化したところでさるぐつわと足と手を結んだ縄を解いてやったんだ。・・・どうするのか見てみたかった。俺は殺されるのも覚悟していたが、まぁいざとなったら銃があるしな。・・・そしたら奴ら、俺には目もくれねぇでもう転化して面影すらねぇガキに向かって走ってたんだ!!泣き叫びながら手前らが産んだガキ二人に食い殺されてく姿はもう・・本当にどうしようもねぇな!人間ってのは我を失うと本当にどうしようもねぇ!」


 腹を抱えながらわざとらしく大きく笑う。手に持った鞘が壊れるくらいに力強く握られてはいるが、刀を抜く右腕が動けずにいる。


「反省はしてるぜ。やりすぎたと思ってる。なんせさるぐつわに折れた奥歯が数本突き刺さってたんだ。悔しさのあまり噛みすぎて折れちまったんだろうなぁ・・。なかなか話にも聞いたことがねぇ」


「・・・このド外道が。今すぐぶっ殺してやる」


「あぁ、そうかい秋津さん。だがあんたは口だけだ」


「・・私は違うぞ。貴様を生かしておく理由はなくなったからな」


 成塚が二発続けて千葉の腹をめがけて撃ち込む。乾いた銃声、アスファルトに塗り付けられる血飛沫、うずくまる千葉は叫びもせずに大きく口を開けて笑っていた。


「へぇっ・・なる、ほどねぇ・・そう簡単に殺しはしねぇってか。・・ところで刑事さん、あんた射撃が得意でも算数は苦手みたいだな」


 資材置き場に銃声がこだまする。発生源は成塚の拳銃ではなかった。


「ぐぅっ・・!!!」


 成塚は手で押さえた肩と胸の間から血をにじませている。


「後ろだ!もう一人仲間が隠れていやがった・・!そこに隠れろ!!」


「言われなくても分かっている・・!!」


 足早に後方の資材に身を隠す。千葉は笑いながら腹を抑えて敷地内に停められた車へと向かい乱暴に車体を蹴とばす。けたたましいアラーム音が周囲に鳴り響き、銃声で興奮しきっていた連中の頭をさらに揺り起こした。


 千葉がフェンスの向こうの連中をいたずらに刺激する声が聞こえると、フェンスがゆっくりと重みでへし曲がっていくのが分かった。どうやら奴は本気で俺たちを殺す気でいるらしい。


「・・幸い銃弾は・・貫通しているみたいだ」


「体ぶちぬかれて幸いとか言ってる女はてめぇくらいだな・・。どういう根性してやがんだ」


「秋津みたいな人間を相手にしていると嫌でもこうなる」


「・・俺のせいかよ。んで・・どうする?このままここにいても連中に食われるだけだ。下手に動けば銃弾を食らわされかねねぇ」


 成塚は資材の陰から銃弾が飛んできた方へと首を向ける。


「・・これはあくまで私の勘だが、千葉たちの発砲はある条件を除けばもう無いだろう」


「どういうことだ・・?」


「考えてもみろ。千葉は私たちのどちらかをすぐにでも射殺できたはずだ。私が発砲するよりも前にだ。その上、感染者たちを自分たちの用意した安全圏まで引きずり込んでいる。・・奴は、奴の人間性を考えれば自分の放った銃弾一発で人を殺すよりも、殺すべき相手が戦いで疲弊したあげく成す術無く感染者に食われていくほうがよっぽど望ましいのだろう。考えられる発砲の条件は二つ。私たちがここから逃げ出そうとした時、私たちが感染者をすべて葬った時だ」


「・・・なるほど。奴の考えそうなこった。それで立ち上がった瞬間頭をぶち抜かれたらお前を呪い殺してやるぞ」


「勝手にしろ。私は立ち上がるぞ」


 そう言うと成塚は肩の傷を抑えながらゆっくりと資材の陰から身を乗り出して、感染者の方へ目を向ける。


「おいマジかよ・・」


 全くの抵抗なしに立ち上がってみせた成塚に驚きを隠せなかったが、成塚の言った通りに銃声は聞こえなかった。きっと奴らは俺たちの最後の抵抗を腕を組みながら見物しようとしているに違いない。


「どうした秋津、予想通り撃ってこないぞ。ビビらずに立ち上がってみせろ。それでも男かお前は」


「うるせぇ」


 膝を鳴らしつつ、勢いで立ち上がり成塚と同じ方向を向く。数は三十体と少し。その中にはもちろん見知った顔もある。


「・・・結局守れなかった。だが、ケジメはつけさせてもらうぞ。あんたらをきちんと葬ってから、奴に罪を償わせてやる」


 鞘から抜かれた銀色の刃、腰から抜かれた鋭利な刃。それぞれの刃がゆっくりと迫る連中に向けられた。



 

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