第二十九話「Clobbering Time!!!!(前編)」
「とうとう電気が消えてしまったか。電子レンジはなかなか頼りになったから少し不便にはなったな」
「そうですね……。まぁ、元から贅沢はできない環境だったし僕たちは特に影響もないですけど」
「だいたいの奴らがそうだろ。電気が止まったくらいじゃなんも痛かねぇさ。・・あいつら以外はな」
フードコートの中央でたむろする四人組は明らかに今までと様子が違っていた。袋菓子をいくつも開け、ジュースと一緒に流し込む貧相なパーティはテーブルの上ほど盛り上がっていない。
「……なんとなくピリピリした雰囲気ですよね」
「電気が止まったこともそうだし、花田の事もある。あとは助けた女連中が一人の冴えない男子高校生に独り占めされてるのが気に食わないっていったところかね」
「秋津、彼女たちは大丈夫そうか……?」
「さっき陸から相談は受けた。一応困ったときはいつでも呼べとは言っているが……お前が思っているよりあいつはやる男さ。心配いらねぇ」
所詮は私利私欲のために人助けがしたい連中だ。いざという時でもどうとでもなる。問題は……
相変わらず四人組から少しだけ離れたところでテーブルを囲む千葉たちだ。
あいつらが何を考えているかが分からない。何も企んでないということも無いだろう。その計画があるはずだ。
「電気が点かなくなったが、詩音は怖くないのか?」
「ん。ぜんぜんこわくない」
「本当か?」
「……ん」
問い詰める成塚に自信を無くしていく詩音。
「……お前は本当に悪い警官だな」
「ある程度は悪の面を持たないと人間は上手くやっていけないからな」
「子供のうちからそういうことを教えるんじゃねぇよ」
「あはは…。でも、まぁ、こんな世界ですから……」
冗談交じりに言った宗太の言葉は誰に届くでもなく地に落ちて燻っていた。
「……なんも心配することねぇよ宗太。詩音はちゃんと大きくなれるから」
「そう信じるしかないですよね……」
わしゃわしゃと頭を撫でられて詩音が嬉しそうに体をゆする。
こんな世界だから、未来のある人たちを守らなくてはいけない。
こんな世界だから……か。それを言い訳に何度も逃げたくなったこともあるが、こんな世界だからこそまっすぐに生きることをやめてはいけない。
そう胸に決めた。
つもりだった。
「……秋津さん、石井さんが呼んでます」
明りも無いので早めに眠りにつき、今朝は早くから起床してモールをうろついていた。まだそう日も高くない頃、宗太に声をかけられた。
「石井が……?分かった。とりあえず行くか」
「あと……高校生の……雨宮君……でしたっけ?一緒に連れてきてほしいとのことでした。僕も呼ばれたのでついていきますね」
「……宗太と陸が……?なんでまた」
「なんでも急用みたいですよ」
フードコートへと向かう際に言われた通りに陸も連れていく。想像通り少し怪訝な顔をしつつも承諾した。
「最上、とりあえず二人を頼んだぞ。なんかあったら呼んでくれ」
「分かった。気を付けてね」
言葉を交わす二人の間には信頼のようなものがしっかりと感じられた。やはり、こんな中あの街で生き延びただけはある。
フードコートには花田も含めた大学生のグループ、千葉のグループそれと俺たち、更にはカップルの片割れと四人家族の父親まで来ていた。男が全員勢ぞろいといったところか。どうやら爺さんだけは来てないみたいだが。
「……今日集まってもらったのは他でもない。……非常に言いにくいことなんだがテラスに出て外の様子を見てもらえれば分かる」
石井がテラスの方に腕を伸ばす。
千葉たちと俺たちと、それから片割れと花田がテラスに出る。
「……なるほどねぇ。こりゃあ素敵だ」
千葉が腕を組みつつ、その光景の感想を述べる。
ショッピングモールの駐車場に数十の連中がうろうろと体を揺らしながらひしめき合っていた。今までの数とは比べものになっていない。
「……それで?男たち集めて何しようってんだ石井?」
目も合わさず、外をじっと見つめたままで花田が尋ねる
「何しようって……倒すに決まってんだろ。お前らこのまま奴らに侵入されてもいいのか?」
全員口を結ぶか開けるかのままで石井の問いには答えなかった。
「……だとしてもだ。これは今まで通りのメンバーで片付けるぞ。宗太と陸と前島さんとそこの兄ちゃんはここに残ってもらえ」
「そういうわけにもいかないから男手全員呼んだんすよ!!そこのお父さんには家族がいて、そこのお父さんには娘さんがいて、そこのお兄さんには彼女がいて、雨宮には今までずっと一緒だった女の子達がいるんですよ!?いい加減そこの男たちも守るもん守らなきゃでしょ!?」
「……守るにも守り方ってもんがあんだろ。傍にいてやるってことも一つの守り方だ。こいつらの分は俺がカバーする。それでいいか?」
「いや、今回はそういうわけにもいかないんですよ……!千葉さんにも言われたんでしょ?秋津さんには現実が見えてないって!精神論でどうにかなる状況じゃない!いい加減目ぇ覚ましてくださいよ!!」
「……てめぇ誰に口聞いてんだ?」
石井の胸倉を掴もうと一歩進むと宗太が俺を引き留める。
「秋津さん!……確かに石井さんの言う事は間違いじゃないです。僕もそろそろ戦わなきゃいけない。何より外の数が数です。こちらも数を当てなきゃ逆に秋津さんたちを失うことになります!……石井さん、僕は行きますから」
石井は宗太を見つめると小さく頷き、陸の方を向いた。
「雨宮。お前も当然来いよ。こうなったのもお前がここに来たからだ」
「……石井。手前自分で今何言ったか分かってんのか?」
俺が言うよりも先に花田が突っかかる。
「花田さん。いいですよ。俺はちゃんと行きますから」
石井を睨みながらフードコートへと戻る陸。その顔は最初に会った時と同じ顔をしていた。
全身を血まみれにして、明らかに生存者の俺たちを敵として睨みつけていた、ごく普通の高校生の普通ではない眼差し。
「へぇ……面白れぇ兄ちゃんだ」
千葉の仲間もその背中を見てニヤニヤと笑っていた。
「いいかお前ら。ここは俺たち生存者の最後の砦だ。ここにはお前らの守るべき生活と守るべき人たちがいる。ゾンビは一向に増えていく一方だ。ここで俺たち男が動かなきゃ、あっという間に愛する者が奴らの胃の中に収められるだろう。武器を取れ。奴らを殺せ。愛する人を守れ。たとえその命尽き果てようとも最後まで戦い抜け。準備はいいか?」
「……おう!!」
屋上駐車場でそれぞれの武器を手に取り、なんかの映画で聞いたようなセリフを気合を入れて読む石井に感動したものは約三名だった。言わずもがな仲間内だけだ。
どう考えても一致団結できない状況なのにどうしてあんな臭いセリフが吐けるのかは知らないが本人はご満悦らしい。
「……いいかお前ら、無茶だけはすんなよ。特に陸、お前だ。戦い慣れてるのかどうかは知らないが、今回は俺もいる。あんまし一人で前に出なくていいからな」
「分かりました。よろしくお願いします」
全員で立体駐車場を降りて何十といる連中の方を向いた。
石井が声高らかに開戦の合図をあげる。
「さぁ!!クローベリングタイムだ!!!!」




