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終末世界の歩き方。  作者: 上野羽美
ショッピングモール
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第二十話「餌場狩り(前編)」

「街が次々にゾンビで埋め尽くされてるっていうのにショッピングモールに買い物しようなんて俺らくらいしかいなかったもんな!」


「ああ、まったくだ。そのおかげで今ここに立てこもれてるってわけだしな。食料もあるし、服も、アクセもある。やっぱ俺たちはついてるぜ」


「バリケードもさ、そこらじゅうのカート重ねて出入り口全部ふさいで作ったんだぜ!もうこれが大変でさ……」


「やっぱゾンビパニックっていったらショッピングモールかホームセンターだもんな。やりたい放題できるし」


 俺たちがショッピングモールについたその夜に歓迎パーティのようなものが行われ、大量の酒やご馳走が振る舞われた。俺は適度に酔いを回しつつ、このショッピングモールを最初に籠城の地として占領したと語る五人の武勇伝を聞いていた。といってもほとんどが右から左に流れていくだけだったのだが。


 ショッピングモールについた時、一番最初に話しかけてきた手斧の男は石井と名乗った。それから一番背の高いのが花田。あとはそれぞれ山崎とか江藤とか斉藤とか名乗っていたが、どれがどいつかは忘れた。髪型が大体同じで俺には区別がつかん。


 五人はもともと大学のフットサルチームとして仲が良く、新宿の暴動事件が地方へ広まっていくその時も一緒に行動していたようで、酒を煽りながらショッピングモールで終末の時を楽しんでいたそうだ。


「秋津さんってガチヤクザなんでしょ?今までやってきたなかで何が一番やばかったの?」


「やべぇことなんてなんもねぇよ。だいたい俺はシノギをするよりも邪魔な連中をボコるのが専門だ。おかげで組で世話になってた時間よりも、ムショで世話になってた時間の方が長いしな」


「ムショって……えっ、ここだけの話、やっぱ足をコンクリで固めて東京湾に沈めちゃうわけ?」


「……マンガじゃねんだからさ」


 ガキの声は頭に響く。詩音の方がまだいくらかマシってもんだ。

 その詩音はさっき宗太に連れていかれインテリア店へと向かっていった。なんでも寝るところは各自好き勝手に使っていいらしい。空いてたら俺はマッサージチェアを寝床にしよう。


「さっそくなんだけどさ、明日秋津さんも食料調達に行かない?」


 ピザを頬張りながら石井が尋ねる。


「まぁ世話になるだろうからそれくらいはするぞ。この周辺はまだ調達してないのか?」


「あぁ、生憎この周辺じゃコンビニくらいしかないだろうけどね」


「時間が余ったら周辺のゾンビの数を減らすのにも協力してくれよ」


「……あぁ。まぁそうだな」




 宴会は自然にお開きとなり、大学生の五人組はその場で寝てしまった。そもそも宴会のように楽しんでいたのはこいつらだけで、あとの連中は各々普通に晩飯をとっていたように思う。


「楽しかったですか?」


 深夜をまわってまだ起きていた俺に宗太が話しかける。


「起きてたのか?」


「いや、起きただけです。ちょっとトイレに行きたくなって」


「そうか。……全然楽しかなかったけどな。ガキの武勇伝ばっか聞かされて」


「でも、さっそく慕われてるみたいじゃないですか」


「馬鹿いえ。無法モンに興味があるだけだろ」


 宗太はあははと小さく笑うと、テーブルに転がったコーラの缶を開けた。炭酸の抜ける音が静かになったフードコートに響く。


「でもこれで、ようやく安心して生活を送れそうですね」


「……まぁな。これもいつまで続くかは分からんが……」


 フードコートの大きな窓から、今までいた街の点々とした明かりを見る。


「とにかく今はこの状態を維持するよう努めなきゃいけないらしい。明日こいつらと街へ出てくる。なんか必要なものがあれば持ってくるが」


「……いえ、とりあえずは大丈夫ですかね。なんたってここはショッピングモールですから」


「それもそうか」


「……食料の調達ってまだ物資が必要なんですかね」


「さぁな。まぁこいつらのことだし、あるもんは全部もらっていけってことなんじゃねぇのか」


 そのおかげで俺たちは一時食料が不足したわけなんだが。同時にそのおかげでこうして腹いっぱい飯も食えている。


「とりあえず、頑張ってきてください。自分もご一緒したいんですけど……」


「分かってるよ。詩音のことを見てる方が大事なことだ」


「……ありがとうございます。それじゃ、また明日」


「あぁ、また明日な」


 振り返って歩くその背中を見ながら俺もコーラを開けて一口飲む。食道を通り抜ける強い炭酸が酔いを醒ました気がした。





「おはようございます……」


「あぁ」


 集合場所に指定された駐車場で遅れてきた五人組と昨日の髭面と対面する。


「昨日と同じ連中か」


「えぇ、ここの警備は昨日食料調達に行ってきてくれた二人にお願いしてるんです」


「……二人って……今日と数があってねぇぞ」


「心配すんなよ秋津さん。……あいつらは俺のお墨付きさ」


 髭面が腕を組んで豪語する。


「それで、秋津さんは今日こちらの千葉さんと一緒に同乗してもらいます」


「だってよ、よろしくな秋津さん」


 千葉と紹介された髭面が右手を挙げて軽く挨拶をする。俺は組んだ腕を離さずにそのままパトカーの運転席へと座った。


「じゃあ、俺たちの後についてきてください!」


 運転席の窓から石井が声を張り上げてワゴン車が出発する。俺もアクセルを踏み、それに続いた。まさかこの車を運転する日が来るとは思わなかった。






 集合時間も遅かったとはいえ、時刻は昼をとうにすぎていた。

 高く昇った太陽に照らされる誰もいない田舎の道を車は走り続ける。


「ここら辺のコンビニは俺らが全部食料をもらっていった。もう少し先に進まねぇとな」


 千葉がヤニ臭い息を吐いてへらへらと笑う。構わずに前を見てワゴンに続いた。スピードメーターは八十キロを回っている。ワゴン車は俺よりさらに少し遠くを走っているので百キロは出ていると考えていいだろう。いかにも馬鹿らしい感じだ。もともと族だった俺にそれを言う権利も無いのだが。


「……だんまりかよ秋津さん。俺はあんたと同族だぜ?まぁ、同業者じゃないがね」


「やっぱり堅気か。狭い田舎だ。同業者の顔ならすぐに分かる」


「あぁ、でも俺と秋津さんは同族だ」


「……俺はそうは思わねぇがな」


「じきに分かるさ」


 ワゴン車は数百メートル先で止まり、ハザードランプを点灯させていた。その先にはコンビニが一件建っている。


「餌場を見つけたみたいだな。さぁ、とりかかろうぜ」 

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