岩場で待機、戦いはもうすぐ
トマトを収穫している最中に一時間が経過したため、ハルとマリナが交代した。
マリナもトマトを食べて、そのおいしさに目を丸くしていた。
その後、俺達はトマトを収穫して、持ってきた麻袋の中に入れた。
「それにしても、不思議だな。一瞬で植物が成長するとはな。光合成するには二酸化炭素と水と光が必要なんだよなぁ。一瞬で泉の水でも吸いとっているのか?」
光合成するには大量の光が必要になるよな?
その光はどうやって集めたんだ?
そもそも、なんでこの世界はこんなに明るいんだ?
いろいろ謎すぎる。
「MPを消費することで泉ができたり植物が成長することのほうが不思議なのでは?」
冷静にキャロが指摘する。
それもそうだ。
そもそも、地球の常識は、この世界でもアザワルドでも通用しない。
魔法にしたって、MPを消費して火を出したり岩を出したり水を出したりできるんだしな。
細かいことを考えたら負けか。
「マリナは何の種を持ってきたんだ?」
「み、水草の種です」
「水草?」
水草は食べられないよな。
「はい、どうせ泉を作るなら、生け簀でも作ろうかと思って」
俯きながらマリナが言う。
「生け簀か……確かに釣りとかしてみても楽しいかもな。植物と違って魚は急速に成長しないけど、気長に待つにはいいかもしれないな。釣りと一緒で」
水草の種を泉の中に放り込んで、さらに植物の成長を早める。
小麦が黄金色に輝いてきた。
小麦も収穫できそうだ。
「あ……収穫用の道具何も持ってきてない……」
「収穫後も小麦を粉にするにはいろいろと道具が必要ですし、準備をしてからにしましょう」
そうだよな……はぁ、こんなことなら小麦じゃなくてイチゴか何かの種にすればよかった。
とりあえず今日のところは世界から出ることにした。
部屋に戻ると、ハルがダブルベッドの横で鎮座していた。
まるで、寝所に控える護衛のようだ。
薙刀を持たせれば完璧だろうな。
「ハル、ベッドに座っててよかったんだぞ?」
「ご主人様の休まれるベッドでもありますから」
「そんな気を遣わなくてもいいぞ」
ハルは律儀すぎる。
そこがハルの長所であり短所でもある。
少しはマリーナの図々しさを見習ってほしいんだが。
でも、本当にここがハルの可愛いところでもあるから困ったものだ。
「昼飯はトマトを腹いっぱい食ったからいらないか」
トマトだけの昼食なのに、かなり豪華な昼食だった気がする。
「じゃあ、今日は予定通り、野宿で行くか」
戦闘の中でこそ上げられるレベルがある。
今回からはマリナ……いや、マリーナも弓を使えるようになったし、俺もなんだかんだいってレベル上がったしな。
昼間にキャロの誘惑士のレベルを上げるという考えもあったが――まぁいろいろと考えがあって夜にキャロの力を使ってレベル上げをすることにした。
「キャロも魅了が使えますから、きっとお役に立てるはずです」
「あぁ、頼りにしてるよ」
キャロの頭を撫でると、とても嬉しそうな息を漏らした。
前は失敗したが、今回はいろいろと作戦も考えているし、いっちょいきなり高レベルになりますか。
※※※
町の外に出る人間は少なかった。
戦禍を避けようとする人は昨日のうちに逃げているからだろう。
町の外に出る手続きはすぐに終わった。
門番の男から、逃げるなら東を経由してから北を目指すように言われたが、逃げるつもりはないので礼だけ言って、俺達は南西を目指して歩いた。
南西に歩くこと四時間。
草原を抜け、岩場へとたどり着く。
足元の砂をつまみ上げ、落としてみる。
少し北の方向に落ちた。
南風が吹いているようだ。
太陽は若干沈みかけている。
「凄いな……あれがこの国の兵か」
岩場から北を見る。
十キロほど先に多くの人が見える。
ここからだと砂粒程度にしか見えないが、兵の一団が集まっている。
人の姿はよくわからないが、軍旗のようなものはここからでもはっきりと見える。
ハルは俺よりも視力がいいらしく、ここからでもひとりひとりの区別はつくらしい。
キャロの仕入れた情報によると、軍の規模は400人ほどで、平均的に剣士レベル20くらいらしい。
将軍クラスにもなると、騎士レベル30とかになってくるらしい。
どのくらいの強さなのかはいまいちわからないが。
あそこで、兵と魔物の群れがぶつかり合う予定だそうだ。
これで人間側が勝てば何の問題もない。
もしも兵たちが敗走するようなことになれば、俺はそこでキャロの力を使って魔物をこっちに引き寄せる予定だ。
もちろん、安全面は問題ない。
遠距離攻撃だけで敵と戦い、負けそうになったら自分の世界に引きこもる。
それで100%安全に戦えるってわけだ。
許可証がなかったら例え魔物であろうとも俺の世界に入ることはできないからな。
それはフユン相手に実験済みだ。
空間の裂け目に弾かれたフユンが怒って俺に噛みつこうとしてきたから間違いない。
「じゃあ、夕食にするか。トマトがあるからな、肉を焼いてパンにトマトを挟んでサンドイッチにしようぜ」
俺はそう言って夕食の準備をはじめた。
戦いはもうすぐはじまる。
「ご主人様、私も手伝います」
「あぁ、ハル! それはもう輪切りにしているトマトだから! 頼むから千切りにしないでくれ!」
千切りというよりは十切り程度の太さになってしまったトマトを見て俺は叫んでいた。