閑話「魔王VS女神」
この閑話は時系列的に、一之丞がライブラと会っている時です。
閑話「ミリと女神」
彼女――楠ミリは白い空間にいた。
別に不安も何もない。
そこで彼女を待っていたのはふたりの女性だった。
どちらも見知った顔――だが、こうして直接対面するのは初めての事だ。
彼女の目の前にいたのは、ふくよかな女性と、自分と同い年くらいの女性がいた。
どちらも女神像として見たことはあるが、本当によく似ているとミリは思った。
先ほどはふたりと表現したが、正しくは二柱と言うべきだろう。
彼女達は女神だった。
「1000年前に会った時はミネルヴァだったけれど、彼女はいないのかしら? 女神コショマーレ、そして女神トレールール。ただの女子中学生相手に女神二人がかりとは、かなりの好待遇ね。迷い人相手にはいつもそうなのかしら? それとも、私が転生されたらまずい者だから殺しに来たとか? もしそうなら、例え相手が女神だろうと容赦しないわよ」
ミリはそう言うと、両腕を広げた。
彼女の体は重力のないこの世界でゆっくりと回転している。
いや、もしかしたら二人の女神が回転しているだけで自分は静止しているのかもしれない――と、ミリは頭の隅でそんなことを考えながら、己の手に集まる力を確認する。
二人の女神とは視界が天地逆転した時、ミリの両手の平に、野球ボール程度の大きさの黒い球があった。
破壊力は大したことはない。
学校のグラウンドに落としても学校の敷地がなくなるということはない。
ただ、貫通力がすさまじい。
温泉が湧き出るのが先かマグマが湧き出るのが先か、そのくらいの鋭さだ。
全てを飲み込む闇の球――ミリがファミリス・ラリテイの名だったころに使っていた技だ。
もちろん、女神二柱もそれは理解している。
トレールールの頬に、僅かに汗がにじんだ。
ミリは当然それを見逃さない。
「そう……やっぱり女神も殺せるのね」
ミリはそう言うと、二つの闇の玉を消し去った。
そして、小さくため息をつき、
「礼を申します。おにい――兄を助けてくれてありがとうございます。先程の行いは、兄との思い出の写真を全て台無しにされたことへの報復であり、これ以上は別に何もするつもりはありません。あ、これ、つまらないものですが」
空間魔法で亜空間にしまってあった紙袋から、包装紙に包まれた箱を取り出して女神に渡す。
「中身は銀座有名店のチョコレートです」
差し出されたチョコレートを、コショマーレが受け取り、ミリのしたことについて指摘した。
「たった今、あなたが確認なさったように、この中でも空間魔法は使用可能――それこそ召喚魔法も可能ですよ、楠ミリさん」
「他意はございません。このチョコレートは本当にただのお土産ですよ。お二人が私を素直にアザワルドの、おにいが行った場所に転生させてくれるのなら」
ミリは笑顔を浮かべてそう言った。
だが、その目は全く笑っていない。
しばしの沈黙が流れる。
「もちろん、あなたには転生していただきます。たとえ私達が、アザワルドの世界があなたの転生を望まなくてもそれは世界のルールですから。ただし、現在少々問題が起きていまして、待っていただかないといけませんが」
「そう? それならよかったわ。私が本気を出しても、コショマーレ様、あなたには勝てる気はしませんでしたから。そっちの小さいのとはいい勝負ができたと思うけど。ねぇ、ツインテールが私と被ってる女神さん?」
そう言って、ミリはトレールールを見つめる。
すると、ずっと黙っていたトレールールは、
「わ、妾が本気になれば主など小指一本でダウンさせて見せるわ」
「へぇ、それはなかなかの世紀末覇者っぷりね。流石は女神様ね」
「もちろんじゃ。そもそも、主の兄がアザワルドで面白おかしく暮らしておるのも妾が与えた天恵のおかげなのじゃからな」
「そうなんだ。参考までに、おにいがどんな天恵を貰ったか教えてもらっていいかしら? もしもろくでもない天恵をおにいに与えていたら――」
ミリの顏から急に熱がなくなる。
彼女の目が大きく見開かれ、そこには冗談を挟む余地など与えさせない気迫があった。いや、鬼気迫るそれは、もはや鬼迫とでもいうべきだろう。
「コロス。たとえ女神でもコロス」
その歪んだほどの兄への愛情を感じ取った二人は初めて楠ミリというひとりの女性の本質を見た気がした。特にトレールールは、もしも仮に、ちょっと前にどこかのだれかに渡した「大道芸人解放」の天恵を渡していたらと思うとぞっとした。
ミリの質問に、二柱の女神はそれぞれが与えた天恵について答えた。
その答えを聞いたミリは、次の瞬間爆笑していた。
一之丞の相手を、顔見知りの二人ではなく、ライブラが行ったのはミリの接客のせいで忙しかったからです。
強さ的には、
コショマーレ>ライブラ>トレールール≒全盛期の魔王