ライブラ訪星
「…………女神……様」
目の前の人を見たら、本当にそうなのだろうと思ってしまう。
教会で見た六柱の女神の中で一番女神らしい女性だと思っていた。
その彼女が、目の前にいる。
「もしよろしければ仲間の皆様もお呼びくださって結構ですよ。先ほど、そちらの天地創造の書を拝見しました」
天地創造の書……?
この本の名前か。
落ちている本を横目に、俺は彼女の話を聞いた。
「許可証があれば、あなたの仲間を呼ぶことも可能です」
「あなたは……何をしにここに来たのでしょうか? その目的を知らなければ仲間を呼ぶことはできません」
秩序と均衡の女神、それはつまりは世界のバランスを司る女神ということだ。
コショマーレ様の公認とはいえ、俺の無職という名前の職業とそのスキルは世界のバランスを崩すには十分すぎる。
最悪、戦いになることも――いや、戦いにもならずに殺されるという可能性もあるのに三人を呼ぶことはできない。
「あなたを罰するために来たわけではありません。あなたには無職スキルという本来は存在しないはずのスキルの全貌を明かしてもらうために働いてもらっています。コショマーレ先輩、トレールールも同じ考えです。私が来たのは、あなたにこの世界について制約を与えるために来ました」
その台詞に俺は胸をなでおろした。
「わかりました。では――」
俺は職業を魔法特化に変え、MPを上げてから許可証を作成することにした。
許可証とはシールのようなものだ。全て「★」のマークが描かれている。
ライブラ様はそれを見て、このシールを身体のどこでもいいから好きなところに貼れば効果が発揮するだろうと説明してくれた。服の上に貼るのはダメだという。
三人分作ったので一気にMPが300も消費されてしまい、一気に疲れが襲う。
深呼吸をして息を整える。
「それでは行ってきます」
空間の裂け目に手を入れ、俺は宿に戻った。
宿に戻ると、三人はじっと待っていたようだ。
「お待たせ。このシールを身体のどこでもいいから貼ってくれたら中に入れるそうだ」
俺は指先に乗せた星型のシールを三人に渡した。
ハルは手の甲に、キャロは足の甲にそれを貼った。
一度貼るとまるでペイントシールのように肌に溶け込んでしまう。
「これって簡単に剥がせるのか?」
「えっと、はい、剥がそうと思えば簡単に剥がれるようですね。でも激しく手を動かしても落ちないです」
ハルは一度剥がしたシールを再度貼り、手を振ってみるがシールが落ちる気配はない。
「っておい、マリーナ、どこにシールを貼ってるんだよ」
彼女はなんと自分の左頬にシールを貼っていた。
「うむ、このようなシールが実は欲しかったのだ」
「完全にオシャレ気分だな」
まぁ、見られたからといって問題のあるシールではないんだが。
「じゃあ、行くか。向こうに行ったら先客がいらっしゃるからちゃんと挨拶するんだぞ」
俺の「先客」という言葉を三人は訝し気に思ったようだ。
※※※
向こうについたらハルもキャロもきっちり挨拶してくれた。というよりもう土下座に近い。
両膝をついて頭を下げている。
「ほう……女神の一柱かおもしろい」
「……えい」
俺は可愛い声を出してマリーナの仮面を取り上げた。
とたんにマリナの顔が真っ青になり、土下座を見事に決めた。
点数をつけるなら満点に近い点数だ。
「これで全員です、ライブラ様」
「ご苦労でした、イチノジョウさん」
「あの……ライブラ様。前から気になってはいて、今となってはどうでも良いと言えばどうでも良いのですが、俺の名前はイチノジョウではなくてイチノスケなんですが、訂正ってできないのですか?」
「いえ、あなたの名前はイチノジョウです。こちらでは想定外のことなのですが、どうもあなたの世界の風習が関係あるそうです。そうですね、そのあたりはミネルヴァにお聞きなさい。彼女が専門家ですから」
「ミネルヴァ?」
「魔術と呪術と妖術の女神です」
「お会い出来るのでしょうか?」
「そうですね、南の大陸に彼女の迷宮が複数あります。そこを訪れたら会える手配をしておきましょう」
俺の名前がイチノスケではなくイチノジョウなのは間違いではないそうだ。
その理由は教えてもらえないようだが、まぁ、本当に最近はどうでも良いと思ってきているのでどうでも良いか。
「では、イチノジョウさん。そしてその仲間の皆さん。これから言うことは決して他の者には言ってはいけません。よろしいですか?」
ライブラ様の問いに、俺達三人は肯定した。
マリナに至っては振り切れそうなくらい首を縦に振っている。
「イチノジョウさん、あなたが“引きこもり”というスキルで作り出したこの空間ですが――」
ライブラ様の台詞に、マリナの視線がこちらに向けられた。
見栄を張りました。マイワールドなんて嘘を言いました。はい、引きこもりです。
「この空間は我々女神の領域と同じ類のものです」
その言葉に、俺はあまり驚いていなかった。
空を見ると、真っ白な空間が広がっていて、あぁ、神様の世界に似ているなぁと思っていたから。
「幸い、イチノジョウさんがすぐに星の作成を行い制限を加えたことにより、世界のバランスが整えられ、神の領域からは外れてしまいました。これは私にとっては喜ばしいことです。あなたにとっても、我々女神にとっても」
「ちょっと待ってください、え? ここが神様の領域と同じ類って、こんなのアイテムバッグとか空間魔法の延長上のスキルじゃないんですか?」
「イチノジョウさんはアイテムバッグの容量はどのくらいかご存知ですか?」
「い、いいえ」
「アザワルド……あなた方の惑星一つ分です」
「……え」
惑星一つ分って、つまりはほぼ無限じゃないか。
「ですが、この世界――あなたが作ったこの世界には限りがありません。一つの宇宙なのです」
「一つの……宇宙?」
「ええ。この世界に比べたら、アイテムバッグの容量などゼロに等しいものです」
ライブラが言うのは、1/∞も、100兆/∞もゼロに等しい、そういうことなのだろう。
「それでは、ご主人様は神になられたということなのでしょうか?」
ハルが緊張した面持ちでそう尋ねた。だが、ライブラは首を振る。
「いいえ、この世界を作ったのはイチノジョウさんではありません。無職のスキルをいじり、無職スキルとこの世界とを繋げるきっかけを作ったモノが別にいます。イチノジョウさんが行なったのはその扉の作成のみ。この星でさえ、イチノジョウさんが作ったものではありません」
ライブラはそこでにっこり微笑み、
「とはいえ、この星はもうイチノジョウさん、あなたのものです。好きに使ってくださって構いません。私の力を使い、この星に結界を張り、この世界の真の作成者から身を護ることを可能とするとともに、私の力で天地創造の書を今のまま使えるようにしておきましょう。その代わり――」
と手を前に出す。そこに杖が現れ、その先端を何もない場所に向けた。
すると、そこに突如、天文台のような真っ白い建物が現れた。
「この世界の観測をする拠点を作らせていただきます。時折私が参りますのでそこだけはご了承ください」
「わかりました。ありがとうございます」
「いえ、礼を言うのはこちらのほうです。ご協力ありがとうございます、イチノジョウさん」
ライブラ様はそう言うと、歩いていき、徐々にその姿を薄くし、最後に見えなくなった。
緊張していたハルとキャロが立ち上がったのは十秒後。
マリナは……気絶していた。
女神の秘密基地完成。
そういえばカクヨム、今日からオープンですね。
私も一応あっちでも活動しています。成長チートと同時に書き始めた作品です。本当に10万文字以降はマイペースの予定なのですが、機会があれば見て頂ければと思います。
https://kakuyomu.jp/works/4852201425154908629
~あらすじ~
ガチャが好きだった来宮廻はトラックに撥ねられていないのに神様のミスで死んだことになってしまった。
そのせいで、異世界に行くハメに。彼に与えられたのは一日一回ガチャを回して成長することができる力だった。最初はただのツッコミキャラの主人公が、異世界で出会った奇妙な仲間とともに日々成長していく冒険譚。