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迷宮へ行こう!

 俺の言い方が悪すぎた。

 なんとか貞操を守り切った俺は、お互い改めて自己紹介をして、服屋の店主――マーガレットさんに事情を説明した。


「男ねぇ、感動させてもらったわ。うん、イチ君の初めてはすっぱり諦めるわ」


 初めてだけじゃなく、二度目、三度目、全て諦めてほしい。


「えっと、諦めてもらえるのはありがたいんですけれど、なんで俺が初めてだと?」

「あらん、女は男の香りでその男の経験人数がわかるものよ」


 と、マーガレットさんは口に手を当てて微笑んだ。

 あんたは女じゃねぇだろ。 

 てか、絶対嘘だろ。もしも本当だとしたら、俺はこれまで女性の前でかなり恥ずかしい思いをしていたことになるぞ。


「白狼族は確かに自分よりも弱い相手に仕えることを最大の屈辱とするものよ。死んだ方がマシだというのも納得ね。でも、隷属の首輪をしている以上、自ら命を絶つこともできないわ。そう命令されているのだから」

「……そうなんですか」


 死よりも辛いこと。

 それが延々と続くとなると、それは絶対に幸せじゃない。


「それで、イチ君は何をしたいのかしら?」

「彼女よりも強くなって彼女を買いたいです」

「……気持ちは立派よ。でも、それは難しいわ。白狼族は強いわ。聞いた話だと、その奴隷の白狼族の子はまだ若いからレベルも低いと思うけど、それでも一朝一夕で追いつける差じゃないわ。イチ君、冒険者ですらないんでしょ?」

「はい。でも、見習い剣士レベル1になり、成長できるまで成長しようと思います。なので、マーガレットさんにアドバイスを頂こうと思ってここに来ました」


 幸い、俺には成長チートがある。無職チートもある。

 9日もあればハル以上の力を身に付けることができる可能性はある。

 

「そう、貴方の中では決まっているのね。決意を決めた男の子を止める権利は女にはないわ」


 だから、あんたは女じゃねぇだろ。

 それに、俺は男の子って年齢じゃないんだけど。二十歳だし。


「わかったわ。ちょっと待ってて」


 マーガレットさんはそう言うと、店と俺を放って、店の奥へと向かった。

 そして、5分後、それを持って戻ってきた。


「剣と軽鎧よ。あなたにぴったりだと思うから、これを使いなさい」

「え? いや、剣と鎧は自分で買うつもりで、どこで何を買えばいいか聞こうと思っていたんです」

「それでもいいのだけれど、この町で武器と鎧を買うことができるのは冒険者ギルドの奥にある施設だけよ。鎧はともかく、剣となると、冒険者ギルドのメンバーか、国から許可をもらった人しか買えないわ。イチ君の話だと、冒険者ギルドに知られるのは不味いんじゃないの?」


 そうだったのか。

 確かに、それはダメだ。今の俺に変な横やりを入れられたら困る。


「でも、この鎧と剣は一体……サイズ的にマーガレットさんのものではないと思いますけど」

「私の冒険者時代の相方のものよ。イチ君とそっくりのとても可愛い男の子だった。正直、狙ってたのよ」


 冒険者時代のマーガレットさん……想像したらとてもいかつい男のように思える。


「でも、魔物に襲われてあえなく死んじゃってね。私は彼以外の人と一緒に冒険者として仕事をするつもりはなかったから、私も引退したってわけ。冒険者も、男もね」


 悲しい話のはずなのに、男を引退するとか意味の分からない発言のせいで全て台無しになっている。


「そんな大事なもの……俺が使ってもいいんですか?」

「道具は所詮道具。イチ君に使ってもらえたら彼も本望よ。彼のお墓には、彼の好きだったマーガレットの花を供えて、お礼を言っておくわ。じゃあ、イチ君、両手を挙げて」


 俺が両腕を上げると、マーガレットさんが軽鎧を俺に付けてくれた。

 その間に、第二職業を見習い剣士に変えておく。


……………………………………………………

名前:イチノジョウ

種族:ヒューム

職業:無職Lv27 見習い剣士Lv1


HP:30(10+20)

MP:9(8+1)

物攻:29(9+20)

物防:22(7+15)

魔攻:5(4+1)

魔防:6(3+3)

速度:19(4+15)

幸運:20(10+10)


装備:綿の服 皮の靴 鉄の軽鎧

スキル:【職業変更】【第二職業設定】【投石】

取得済み称号:なし

転職可能職業:平民Lv15 農家Lv1 狩人Lv1 木こりLv1 見習い剣士Lv1 見習い魔術師Lv1 行商人Lv1


天恵:取得経験値20倍 必要経験値1/20

……………………………………………………


 ステータスが一気に下がった。特に魔法系が弱い。

 ただ、平民レベル1の時と比べたらHP・物攻・物防が大分高いな。

 

 あとステータスを確認している間に、鉄の軽鎧を装着し終えたらしく、装備一覧に表示されている。


「これが剣よ。でも、多分今のあなたには装備はできないわ。剣を剣として使うには、見習い剣士レベル2で覚えられる剣装備が必要なの」


 え? と思って鞘を抜こうとするが、鞘が抜けない。

 ステータスを確認したら、確かに装備欄にも剣はなかった。


「初心者迷宮1階層にいるのはコボルトのみよ。今のイチ君なら一対一だと負けることはまずないわ。だけれど、二対一は避けてね。速度はイチ君のほうが早いと思うから、簡単に逃げられるわ。コボルトなら三匹倒せばレベル2に上がれるわよ。レベル2に上がれば、剣を装備して素振りをするだけでも僅かだけど経験値が増えるわよ」

「わかりました」


 俺なら成長スキルがあるから一匹か。

 一匹倒せばいいんだな。

 白ウサギを倒しに行くという手段もあるけれど、今から行ったら夜になる。そうなったら狼相手に戦うことになる。

 どちらが強いかはわからないが、どちらも危険だとするのなら、マーガレットさんのお墨付きを貰った迷宮に行こう。


「あと、迷宮についての注意事項よ。迷宮の中で倒した魔物は全部その場で消滅して、魔石とアイテムを残すの。魔石の大きさやアイテムの出現率は、ステータスの一つ、幸運値によって変わるみたい。魔石は多くの魔道具のエネルギーとして使われて、冒険者ギルドで買い取ってもらえるアイテムだから、集めておいて損はないわよ。大切な子を手に入れたら、売ったらいいわ。あと、夜はここに来なさい。武器の手入れの仕方を手取り足取り教えてあげる」


 足取りはいらないだろ……とか思ったが、好意は素直に受けておくことにした。

 最後に、初心者迷宮の地図まで貰い、本当に至れり尽くせりだ。

 このお礼は、いつか体以外で支払うことにしよう。


 俺は見習い剣士を第二職業に設定できても、正式な転職ではない以上冒険者証明は貰えないから冒険者ギルドはやっぱり使えないんだけどね。そして、迷宮の場所は、町の隅、それでも歩いて10分くらいのところにあると聞いた。


 そこを目指して歩くと、迷宮の入り口らしい、地下に続く階段があった。まるで地下鉄の入り口みたいだ。

 屋根があって、階段の入り口付近が少し盛り上がっているのは、迷宮の中に雨水が入らないための工夫なのだろう。

 その入り口の前には、槍を持った、青髪、褐色肌の美人の女性――


「って、あれ? さっきの門番のお姉さん?」


 町の入り口にいたお姉さんが槍を持って立っていた。


「あら、お兄さん、迷宮に入りに来たの。私もちょうど持ち場の交代の時間だったのよ。偶然ね。冒険者ギルドには行けたの?」

「はい、おかげさまで」

「そう、ならよかったわ。迷宮に行くなら気を付けてね。初心者向け迷宮だけど、毎年数十人は死んでいるし、その数十倍の人が大怪我を負っているのよ。初心者を狙った盗賊もいるみたいだし」

「はは、気を付けます……」

「うん、気を付けてね。あと、私も後で巡回の時間になるから、機会があったら中で会いましょ」


 お姉さんがそう言ってくれたので、「その時はよろしくお願いします」と言って入って行った。


 迷宮の中は、薄暗いのかと思ったがそこそこ明るい。

 光源はどこなんだろ、と思ったら、どうも天井全体が輝いているようだ。


 んー、LED照明かなぁ。


 とりあえず、今はコボルトを探さないといけない。

 通路を暫く進んだが、見つからないなぁ。魔物って滅多に出ないのか?


 と思い、通路を曲がったら、第一コボルト発見。二本足で歩く犬という感じだ。服は着ていない。

 だが、後姿だけで、すぐに奥の通路を曲がってしまった。


 見失わないように俺はアイテムバッグに入れてあった尖った石を取り出して走り出す。

 尖った石はウサギの血で少し赤く染まった武器、これを使うのもこれで最後になると思うと感慨深い。思い出なんてほとんどないけど。


 そして、角を曲がって見つけたのは――二匹のコボルトだった。


『二対一は避けてね。速度はイチ君のほうが早いと思うから、簡単に逃げられるわ』


 マーガレットさんの言葉が蘇る。

 よし、逃げよう!

 一応、ただの見習い剣士レベル1ではなく、無職のステータスが上乗せされているから勝てないことはないと思うんだけど、安全マージンは大事だ。


 そう思って踵を返して――俺が見たものは――反対側から歩いてくる二匹のコボルトだった。


 やばい、囲まれた!

次回、いよいよ成長チートの本番!

日間ランキング12位になりました。

ありがとうございます!

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