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予期せぬ珍客

「…………はは、は……」


 その剣士は苦笑していた。

 ハルを通じて魔物を売りにいった時。


 案の定というか想定内と言うか、三度目の正直を通り越せばもう四度目に正直はないのかというか、一人の剣士が絡んできた。

 理由は単純だ。

 こんな異常事態に魔物狩りなんてしてるんじゃない、みんなこの町を守るために偵察や防衛準備をしているんだよ。

 みたいなことを言ってきたわけだ。


 面倒なので無視して、マリーナとキャロに見張らせている、ギルドの外に置いてある鳥を運んできてもいいか? とギルドの受付嬢に尋ねた。

 そして、俺達は鳥を運んだ。


 10羽、20羽、30羽……40羽を超えたところで衆目を集め出す。

 50羽、60羽、70羽を超えたところで、俺に絡んできた剣士は苦笑して現実を直視しなくなっていた。

 80羽、90羽、100羽、110羽、120羽、130羽、ついでに果実。


「これだけ、全て東の森で狩ったのですか?」


 受付をしている30歳を少し過ぎたあたりの女性が確認を取ったので、俺は頷いた。


「まぁ、この程度……この程度と言いたくないのですが、この程度なら生態系が崩れることは無いと思いますが、暫く禁猟期間を設けたほうがいいかもしれませんね。今は非常時ですからとても助かりますが、普段はここまで狩らないでくださいね」

「はい、気を付けます」


 上辺だけの返事をし、1羽30センス、133羽で3990センス、果実の代金と合わせて4500センスを受け取った。

 一人当たり1100センス……11万円くらいか。

 といってもほとんどはハルとマリーナの稼ぎなんだが。


「で、剣士のおっさん。俺達に何か用があるのか?」

「い、いや、なんでもない。あんたみたいな狩人がいてくれてフェルイトは安泰だよ。はは、ははは」


 男はそう言って後ずさり気味にギルドを立ち去った。

 その間も受付の女性は手続きを行っていて、


「おめでとうございます、ハルワタート様は今の依頼でランクFからランクEに昇級なさいました」

「ありがとうございます」


 ハルが無表情で頭を下げた。しっぽが揺れている事から、うれしいようだ。

 冒険者ランクはGからSSSまであり、ハルは俺と出会う前に奴隷でありながらランクFまで上がっていたそうだ。

 レンタル奴隷ながら護衛依頼なども受けていたのがその理由だそうだ。

 ランクが上がると、冒険者ギルドが保有する情報を得ることができたり、高難易度の依頼を受けることができるようだ。


 ギルドを出て、キャロとマリーナにハルが昇級したことを伝えると、二人とも祝いの言葉をくれた。


「今度、ハルの昇級パーティーでもするか。今日はちょっと厳しいが」

「町がこの状態ですからね」


 町の中は人通りはまだ多いが、落ち着きはない。

 インターネットもラジオもない世界だ。情報は足で稼ぐ。

 情報を得るために皆も必死なのだろう。

 そういう意味では、キャロに感謝しないといけないな。


 俺達は宿に戻った。

 食堂は閑散としていた。


 そんな中、宿屋のおばちゃんと、確か下の階の酒場のおっちゃんの二人が何か話し合っていた。


「スッチーノの奴のことだ、どうせフリオと一緒なんだろうが」

「フリオ君も一昨日から家に帰ってないみたいなのよ。町もこの状態で、魔物に襲われてないか心配よ」

「大丈夫だろ、あいつもガキじゃないんだ。もっとも、帰ってきたら一発ぶん殴ってやらないとな」


 どうやら、この二人は夫婦で、息子が帰ってきていないという話題らしい。

 普段なら問題ないが、町がこの状態だから心配なんだろうな。


 俺達に気付く様子はないので、こちらから声をかけた。


「こんばんは」

「あら、お帰りなさい。食事の準備はできてるわよ」

「じゃあ、早速お願いします。みんなもいいよな?」


 俺が訊ねると、全員了承してくれた。

 食事は肉がメインの料理だったが、昨日より量が少なかった。


「ごめんよ、このご時世だからね。国から食糧の節約を迫られているのよ。その代わり、一部返金させてもらっているのよ」


 俺にお釣りとして12センスが渡された。

 素直に受け取っておく。

 量は少なかったが、食事はとても美味しかった。


「女将さんは、魔物の群れの情報、何か入っていますか? 私が聞いた話だと、討伐隊が編成されて明日にも出撃するそうなのですが」

「私も似たようなことしか知らないよ。偵察に行った人の話によると、魔物が迷宮から溢れているのは本当よ。全く、国のお偉いさんが一般開放せずに独占なんてするから魔物が溢れたんだろうね。ただ、溢れる魔物を防いでいた三人の冒険者も一度避難しているから、討伐隊と衝突するのは明日の夜になると思うよ」


 おばちゃんはそう言うと、食べ終わった食器を運んでいった。

 そして、一度、俺達は一室に集まった。


 マイワールドの力を検証するためだ。


「じゃあ、ちょっと行ってくる。マイワールド」


 空間の裂け目が現れ、俺はそこに入った。

 気が付けば、相変わらず赤土の大地にいた。

 空は白く俺を照らしている。


 目の前に矢が突き刺さっていた。

 どうやら、どこから入ってもこの場所にたどり着くらしい。


 つまり、ここに家を作れば、どこからでも家に帰れるわけか。

 次は湧き水でも作ってみるか?

 そう思った時――俺の視界は捉えていた。


 何もないはずの赤土の大地に、あるはずのない……いや、いるはずのない人がいた。

 早朝の空のような水色の長い髪の美しい女性だ。

 やはり見覚えのない女性だ。

 いや、どこかで見たことがあるような。

 でも、どこで見たんだ?


「…………!?」


 それがどこだったか思い出し――俺は息を呑んだ。

 

「はじめまして、イチノジョウさん」


 白いドレスに身を包んだ美人で妖艶な雰囲気を漂わせている。

 浮世離れしている、という表現をしよう。

 雰囲気もそうだが、その正体も。

 俺が彼女を初めて見たのは、教会だった。


「私はライブラ。秩序と均衡の女神です」


 セトランス様の像の横にあった美人の女神の像そっくりの女性が、何故か俺の世界にいた。

 無許可で女神が出入りできるとか、引きこもりスキルの大きな欠陥が見つかった瞬間であった。

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